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188話 ドルイドさんの発表

「おはようございます」


お店の扉を開けて挨拶をする。

さて、今日も頑張ろう。


「おはようアイビー」


ドルイドさんが笑顔で迎えてくれる。

……えっ?


「師匠さんのお手伝いに行ったのではないのですか?」


「えっ? いや、行ってないよ。朝方ギルマスには師匠がしようとしていることは伝えたけど」


そうなのか。

今日はドルイドさんがいないから、昨日より忙しくなると思って覚悟して来たが、いてくれてよかった。

覚悟はしたが、正直不安だったのだ。


「よかったです。昨日のように忙しかったらどうしようかと不安だったので」


「さすがに昨日の状態を知っているからな、途中で投げ出したりはしないよ」


ドルイドさんの性格だったらそうだな。

やるべき事をしっかりとやる人だ。


「あっ」


聞きなれない声に、視線を向けると問題児のドルガスさんが奥から出て来た。

言えた!

初めてだ、ドルガスさんの名前を一発で思い出せたのは。

心で喜んでいるけど、私の周りの空気が重いです。

朝のさわやかな空気はどこへ行ってしまったのだろう。


「あら、おはよう」


奥さんが、奥から大きな袋を持って店に顔を出した。


「おはようございます」


「ドルイド、今日も悪いわね。ドルガス、手伝わないなら家に籠るか出て行くかしてちょうだい。邪魔だから」


……この何とも言えない重い空気を一切気にせず、笑顔で邪魔と言える奥さん、容赦がない。

お姉さんだけではなかったようだ。


「母さん!」


「昨日も言ったでしょ? あなたの我がままに付き合う人はもういないって。いい加減成長しなさい」


えっと、この場所から離れた方がいいよね?

でも、奥さんたち2人が立っている場所は奥へ行く通路の入り口。

店の外へ出ていこうかな?

ドルイドさんを見る。

あっ、ものすごく困ってる。

一生懸命、普通を装おうとしているけど、頬が痙攣してる。


「……なんでだよ」


ドルガスさんが力なく項垂れる。


「皆、色んな辛い経験をして成長していくの。星が消えた事がドルガスにとってつらい事だったのは知ってる。でも、健康な体があって、支えてくれる家族がいる。これがどれだけ恵まれているか、ちゃんと考えなさいと何度も言ってきたわよね? 今度こそ本当にちゃんと考えなさい」


ドルガスさんは、怒りを見せることなくスッと奥へと帰っていく。

おそらく家の方へ戻ったのだろう。


「ごめんなさいね。変なところを見せちゃって」


「いえ」


私が知っているドルガスさんと、今最後に見た彼は違った。

いい方向へ転んでくれればいいけれど。


「ドルイドも、嫌な思いしたでしょ?」


嫌な思いという言葉に首を傾げる。

先ほど見たドルイドさんの表情は、移動できない事への困惑だけだった。


「大丈夫だよ、母さん。俺も成長してるから」


「えっ? そう。そうね。ふふふ、アイビーのお蔭なのかしら?」


えっ?

私?

いや、私は何もしていないですが。


「あぁ、アイビーのお蔭。そうだ、母さんには先に言っておくよ」


「どうしたの?」


「アイビーと旅をしようと思っているんだ。って少し違うな。アイビーの旅に同行させてもらおうと思っているんだ。色々な世界をアイビーと一緒に見たいと思って」


あれ? 

私が旅に一緒に来てくださいってお願いしたんだよね?

ドルイドさんの言い方、ちょっと違うような?


「あら、そうなの? アイビー、いいの? 片腕だから邪魔にならない?」


だから奥さん、容赦がないです。


「問題ないです。というか、私が一緒に来てくださいってお願いしたので」


「そうなの? まぁ、ドルイドでいいならしっかりこき使ってちょうだい」


「いや、それはちょっと……」


えっと、こき使うために一緒に行こうと言ったわけではないのだけど。

奥さんは機嫌よく、仕事を終わらせ奥へ戻って行く。


「アイビーには本当に感謝している」


「えっ?」


驚いてドルイドさんを見ると、真剣な表情で私をじっと見ていることに気が付く。

いつもと違う、その雰囲気に緊張感が走る、


「アイビーが幸香を見つけてくれたおかげで、今回の全ての原因が依頼主と言う事が決定した。だから、依頼失敗の借金も奴隷落ちも回避できた。ありがとう」


そうだったのか、よかった。


「それと、ちゃんと返事していなかったよな。旅のお供に選んでくれてありがとう、よろしく」


返事、まだだったかな?

この間『旅に行く前に体力を付けないと』と言っていたから一緒に行ってくれるものだと思い込んでいた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


頭を下げると、ドルイドさんも軽く頭を下げてくれる。

なんだか、畏まって挨拶すると照れるな。


「『こめ』の件とグルバルの件が落ち着いたら、一緒に旅に必要な物を用意するか?」


「はい。楽しみです」


「そのためには、今日を乗り切らないとな」


そうだった。

旅のお供はドルイドさんで決定だけど、とりあえず今日を頑張らないと!


……………………


「お疲れ様」


昨日同様、休憩場所でぐったりとしているとドルイドさんが飲み物を持って来てくれた。


「お疲れ様です。すごかったですね」


昨日の今日で、どれくらいの人が来てくれるのかと少し不安だった。

前日に来た人は、もう来ないだろうと思ったからだ。

だが、お店を開けると一番最初に飛びこんできたのは、前日お店の前で美味しいと騒いだ子供たち。

しかも新しい子供たちを連れて来てくれたようで、昨日以上に忙しかった。

子供たちが一段落すると親たちが集まりだして、少し前まで全く客が途切れなかったのだ。


「あぁ、予想以上だった」


「はい」


連日の慌ただしさで、体がそろそろ限界を訴えてきている。

足がガクガクだ。

……無事に広場に戻れるかな?


「お~、いたいた。これ、昨日と今日の給料だ。助かったよ本当に。まさかこんなに忙しくなるとは思わなかったからな。本当にアイビーとドルイドがいてくれて助かった。ありがとう」


そう言って休憩場所に入ってきた店主さんが、私とドルイドさんにそれぞれ紙を差し出した。

何だろうと不思議に思い見ていると、隣でドルイドさんが紙を受け取っている。

なので、私も慌てて受け取る。

紙には店主さんとお店の名前、それと金額が書かれている。

もしかして給料?

店主さんは忙しいのか、紙を渡すと店の奥へと戻ってしまった。


「あのドルイドさん、これが給料ですか?」


「初めて?」


給料と言う形でもらうのは初めてだ。


「はい、初めてです」


「そうか、これをギルドに持っていくとお金に換えてもらえるんだ」


「そうなんですか、凄いですね」


「口座に直接入れてほしいという希望も聞いてくれるから」


あっ、それは嬉しい。

それにしても、紙には5ギダルと書かれている。


「ドルイドさん、多くないですか?」


「いや、店の忙しさから考えたらこれぐらいだろう。もっと欲しい場合は交渉してもいいぞ」


「いえいえっ!」


ドルイドさんの言葉に慌てて否定する。


「ハハハ」


どうやらからかわれたようだ。

まったく。


「あっ、いたいた。今日は夕飯を一緒に食べられるのかな?」


お姉さんが休憩場所に顔を出す。


「すみません。落ち着いたら広場に戻ります」


ソラとフレムをバッグから出してあげたい。


「え~、そうなの? 残念。よし、昨日のように木箱に夕飯を詰めておくわね」


「あっ! 量を少なめでお願いします。昨日のおかずもまだ残っているので」


朝、残りを頂いたがまだ十分残っている。


「アイビー、しっかり食べないと駄目よ」


しっかりって、さすがにお腹が空いていても2人前とか無理ですから!


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― 新着の感想 ―
奴隷落ちが気になってたので、無くなっててほっとしました。 アイビーにとっては、奴隷じゃない旅の道連れができて安心できたのではないかと思います。
[気になる点] 160話で、これからよろしく、の返事してるのでは?と思ったのですが、違ったのでしょうか。
[一言] 奴隷落ちの事すっかり忘れてたー そんな気配全くなかったし
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