表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/1146

186話 広まった!

「夕飯、本当に食べていかないの?」


「はい、すみません。おかず、ありがとうございます」


夕飯を一緒に食べようと誘われたのだが、ソラとフレムの事があるため断った。

朝から今までずっとバッグの中なのだ。

上から覗いたときは、2匹とも問題なかったが早く外に出してあげたい。

それにお腹が空いているはずだ。


「おかず、足りるかしら?」


奥さんの言葉に、持っている木箱を見る。

そのずっしりとしている重さから、食べ切れない量のおかずが予想できる。


「大丈夫です。これだけあれば十分です」


「本当に? まだあるんだけど」


「いえ、本当に大丈夫ですから」


おかずの木箱の他におにぎりの木箱まであるのだ。

それはドルイドさんが持ってくれている。

どれだけ入っているのか、ちょっと重そうに持っている姿から中身を確かめるのが恐ろしい。


「今日は悪かったな。あんなに忙しくなるとは思わなかった。今日の給料は明日でいいか?」


「はい」


今日は予想外の忙しさに皆疲れた表情だ。

明日に回しても問題ないモノは明日で十分だ。


「ドルイドさん、良いんですか?」


「あぁ、アイビーと一緒に広場に戻るよ」


ドルイドさんも夕飯に誘われていたのだが、私と一緒に広場に戻ることに決めたようだ。

関係は改善されているようだから、一緒に食べていってもいいのだけど。

……荷物はちょっとお願いするかもしれないが。


「2人とも、気を付けてね。また明日」


家の用事でお兄さんとお姉さんはいない。

なので店主さんと奥さんに見送られながら広場に戻る。


「ソラたち、大丈夫だったか?」


ドルイドさんが、ソラたちが入っているバッグを見る。


「はい。上から様子を見る限りでは問題ないようです」


「そうか、よかった」


ずっと放置していたから心配していたようだ。

ドルイドさんは、もしかしたらかなりの心配性かもしれないな。


「おっ、ドルイド君か、美味かったよ」


「えっ、ありがとうございます」


広場に戻っていると、年配の男性に声をかけられる。

男性は言うだけ言って、すぐに何処かへ行ってしまったが。


「何なんでしょうか?」


「たぶん、焼きおにぎりの感想だと思う」


あぁ、なるほど。

わざわざ声をかけるなんて珍しいな……って思ったけど、声をかける人は結構多いようだ。

ドルイドさんがその都度、挨拶とお礼を言っている。


「大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫。しかし本当にたった1日で随分と広まったんだな。それがすごいよ」


確かに、声をかけてくる人たちの年齢層は幅広い。

世代関係なく受け入れられたようだ。


「明日も、凄いんでしょうか?」


「あぁ、数日は続く可能性があるな。ただ、それほど長くは続かないだろう。目的は『こめ』を広める事だから」


確かに、米の抵抗感をなくすために考えたのが焼きおにぎりだ。

その目的はほぼ達成したと言っても問題ないほど、町の人達は抵抗なく焼きおにぎりを食べていた。

戸惑った人もいたが、美味しいものの前にはそれもどうでもよくなったようだ。

米も調子よく売れていたな。


「アイビーっていい商売人になれると思うよ」


「えっ? なんでですか?」


「人を惹きつける物を考えるのが上手だから」


そうだろうか?

前の私の知識を駆使しているからちょっと卑怯な気もするが。


広場に戻ると、米の炊ける匂いがあちらこちらからしてくる。

それに2人で笑ってしまう。

早速、食べてくれているらしい。


テントに戻り、ソラとフレムをバッグから出す。


「ごめんね。今日は放置してしまって」


2匹がプルプルと揺れている。

よかった、怒っていないようだ。

こちらが何をしていたか気付いているのかもしれないな。


「ポーション、置いとくね」


いつもより、ちょっと多めに並べておこう。

食べだした2匹をしばらく眺める。

食べ方もいつも通りだし、本当に大丈夫だったようだ。


「ご飯食べてくるね」


声をかけてからテントを出る。


「ありがとうございます」


「広げるだけだから」


テントから出ると、お隣からまたまた机を借りてきて、貰ってきた夕飯を広げているドルイドさん。

おすそ分けをしようかと隣を見るが、どうやらいないみたいだ。

何度か無断で机を借りているので、しっかりお礼がしたいのだけど。


「食べようか」


「あっ、お茶を用意しますね」


調理場所でお湯を沸かしお茶を用意する。

近くではご飯が炊かれているようで匂いがする。

それに顔がにやける。

まさかたった1日でここまで効果が出るとは。

なんだか面白いな。


「お待たせしました」


「ありがとう。それにしても母さんはいったい何人前を持たせたんだ?」


やはり木箱に詰められたおかずもおにぎりも大量。

どう見ても2人分ではない。


「よぅ、成功したみたいだな」


「えっ、師匠さん、良い所に。一緒にどうですか?」


疲れた表情で師匠さんがこちらに歩いて来る。

私が指す方向を見て、おっと顔を輝かせた。


「うまそうだな。いいのか? 俺が食べても足りるか?」


3人で木箱を見るが、どう見ても3人で食べても十分に余る量だ。

というか、食べていってほしい。

さすがに量が多すぎる。


「師匠、どうぞ」


ドルイドさんが椅子を用意する。

もちろんお隣の方から借りている椅子だ。

やはり一度しっかりとお礼をしなければ。


「随分と疲れていますね。大丈夫ですか?」


「あぁ、冒険者が集まったのは良いんだが、今回の凶暴化を抑える方法がしっかりと検証された情報ではないからな。まぁその事で色々とある訳よ」


確かに、確実な情報ではない。

過去の文献を読んで導き出した答えだ。

間違っている可能性もある。

冒険者たちが騒がしくなる理由も分かるな。


「そういや、商業ギルドの奴らが喜んでいたぞ。食料問題に目途がついたってな」


そういえば食料問題で米の普及を目指したんだったな。

忙しすぎて、忘れていた。


「もう少し抵抗があるかと思いましたが」


ドルイドさんがおにぎりを食べる。

そのおにぎりには、しっかりと味が染み込んでいる。

米本来の味では、濃い味に慣れきっている人には物足りなさがどうしてもある。

なので米を炊くときに味を付けたのだ。

香ばしいかおりが強くなって、かなりドルイドさんの家族には好評だった。

中に具を入れているのも良いらしい。


「これ、旨いな」


師匠さんもどうやら気に入ってくれたらしい。

そういえば、師匠さんの米に対する拒絶反応が減っている。

慣れたんだろうか?


「米、大丈夫なんですか」


「あぁ、自分でも意外だが、平気だ」


やはり一度食べて美味しいと感じると、抵抗感が無くなるみたいだな。


「どうしてあんなに拒絶したんですか?」


ずっと疑問だった。

確かにエサと言われているモノなので、ちょっと困惑することはあるだろうが完全に拒絶だった。


「教会だな。昔、『こめ』は人の食べるモノではないと宣言した事があるんだ」


教会?

教会がそんな事を?

随分と不思議なことをしているんだな。


「教会か……余計なことをよくするよな」


ドルイドさんの言葉に驚く。

なんだか、いつもより低い声で硬さがあった。

もしかしたら、何か嫌なことでもあったのだろうか?

私は……まぁ、いい思い出はないな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
星なしは転生者で、実は最強説。 で、それが何かしら教会には不都合があって 転生者=星なしが発明したものは全て「ダメ」ってことにしたっぽいなー。 醤油とポン酢は何故か難を逃れたみたいだけど、バカ高いし……
ドルイドさんが教会の話で機嫌悪くなったのは アイビーがどんな目にあったか聞いてたからなんじゃね? 胸糞悪すぎるわ、教会の対応全部。
やはり教会か、、
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ