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179話 シエルは恩人

「おはよう」


テントを出ると困った表情のドルイドさんがいた。

それに首を傾げる。


「おはようございます。何かありましたか?」


「朝早くから悪い、ちょっとついて来てもらっていいかな?」


本当に何かあったようだ。


「分かりました。ちょっと待っててもらっていいですか? すぐに用意します」


「ゆっくりでいいよ。悪いな」


急いでいるわけではないのかな?

テントに戻り、ソラとフレムにドルイドさんに呼ばれた事を話す。


「一緒にきてくれる?」


私の問いに、2匹がそれぞれの速さでぷるぷる揺れてくれた。

これは『いいよ』ということだ。

最近2匹は、嫌な場合は揺れずに視線を逸らすことを覚えた。

初めてされた時は、驚いた。

まだ意味を把握していなかったので、かなり焦った。


「お待たせしました」


「ごめんな、こんな朝早くから」


「私もご飯を食べ終わったら、ドルイドさんを探しに行こうと思っていましたから」


「そうか。えっと、話は聞いた?」


「詳しくは聞いていません。ただ、3人の方が大けがをして戻ってきたと……本当ですか?」


「あぁ、でもしっかり治療されたから大丈夫」


大丈夫なのは良かったけど、やはり3人だけだったのか。


「この辺りでいいかな?」


「えっ?」


ドルイドさんについて来ていたので、場所を確認していなかった。

周りを見ると、大通りから少し離れた周りに人がいない場所。


「ギルマスが事の詳細をまだ発表していない今は、全員が聞き耳を立てているからな。マジックアイテムを持っていない限り、人に聞かれる可能性が高いんだ。ごめんアイビー、この辺りに人の気配はある? 俺は気配を掴めないから」


聞かれたくない話って事か。

人の気配は……。


「気配がないので、私達周辺には人はいないようです」


「ありがとう。その助かった3人だが、ギルマスが聞いた話ではどうもシエルが助けたようなんだ」


「……えっ!」


シエルの話だから、人がいない場所を探してくれたのか。

というか、シエルが助けた?


「そうなんですか?」


「あぁ。大怪我はしているが、意識ははっきりしているようだ。話を聞いたギルマスが教えてくれたんだが、3人は町の近くまで戻って来たが周りをグルバルとチジカに囲まれたらしい」


「チジカ?」


「大きな牙を持つ性格の大人しい魔物なんだが、凶暴化しているようだ」


「そうなんですか」


「かなり大群で来られたみたいで、もうダメだって思った時にアダンダラに酷似した魔物がいきなり現れて、そこにいたグルバルとチジカを倒してくれたと」


倒した?

もし本当にシエルなら、かなり大変だっただろうな。


「全て倒されて、次は俺達の番かと思っていたら足を怪我した仲間を背中に背負って、町まで運んでくれたらしいんだ」


シエルだったらいい子だな。

褒めてあげないと。


「今、森の奥へギルマスと師匠、それと数名の冒険者がグルバルとチジカの死骸の確認に行っている」


「あの、森へ行けますか? 本当にシエルなのか確認したいのですが」


「ギルマスからは許可をもらっているよ。どこにいるか分かるかな? ギルマス達の方へ行く可能性もあるかもしれないが」


「どうでしょう。森の中でのシエルの様子はちょっと分からなくて。あのシエルは怪我とかしていませんか?」


「あ~、悪い。俺が冒険者に直接話を聞いたわけではないから、怪我については分からない」


「そうですか」


凶暴化した2種類の魔物の相手をするなんて、大丈夫なのかな?

怪我の薬とか……ソラがいるから大丈夫か。


「森へ行こうか?」


「はい」


大通りでは町の人達が集まって話をしているが、かなり悲壮感が漂っている。

昨日までは、まだ何処か余裕があったのに。


「既に町中に噂が広まっているな」


「そうですね。広場も朝からかなり慌ただしかったです」


「上位冒険者がやられたとなると、相当な痛手だからな。誰が町を守るんだって、騒ぎ出すまでそう時間はかからないだろう」


「ギルマスさんは大丈夫ですか?」


「師匠は良い勘を持っているよな」


「師匠さんですか?」


どうしてここで師匠さんが?


「あの人は名の知れた上位冒険者だったんだ。おそらく元仲間にも声をかけているだろう」


師匠さんはすごい冒険者だったのか。

元仲間という事は、チームで組んでいた人たちかな?


「町の人達が騒ぎ出したら、おそらく表に出て暴動になる前に抑えるはずだ。自分たちの名前をフルに使ってな。師匠たちが町の人たちの相手をしてくれれば、ギルマスは動きやすくなる」


師匠さんは、もしものことを考えて町へ来てくれていたのか。

なんだか、すごいな。


「はぁ~、いつまでたっても頭が上がらないな」


「素敵な師匠さんですね」


「……からかう癖が無ければ、もっと最高なんだが」


そうかな?

あの性格だからこそ、師匠さんって感じがするけど。


「お疲れ様」


「ドルイドさん、本当に森へ? アイビーまで連れて」


「確かめたいことが、どうしてもあるからさ。頼むよ」


門番さんがちょっと困惑している。

おそらくこんな状況で森へ子供を連れて行くなんてありえないんだろうな。

でも、必要なのでお願いします。


「はぁ、本当に、本当に気を付けてくださいね」


「あぁ、何かあったらしっかり守るから大丈夫だ」


「……気を付けて」


門番さんは諦めたのか、門を開けて外へ出してくれた。

すっかり顔見知りになってしまったな。


「ありがとうございます。行ってきます」


挨拶をして森へ向かう。

さて、シエルはどこにいるだろうか?

とりあえず……捨て場かな。


「何処へ行こうか?」


「捨て場に行きましょう」


2人で捨て場へ向かう。

途中周りを確認して、ソラをバッグから外へ出す。


「ソラ、グルバルとチジカという魔物が凶暴化して暴れているから、遠くへは行かないでね」


「ぷっぷぷぷぷ~」


フレムは……まだ寝ているな。


「フレム、そろそろ起きている時間を長くしない? 体もしっかりしてきたし」


「てりゅりゅ~……りゅ~……」


どうして起きてと言ったのに、鳴いている最中に寝るかな。

ん~、凶暴化の事が片付いたら一度しっかり話し合おう。

というか、起きている時間を長くするように懇願してみよう。

うん。


「お待たせしま……した」


いつの間にかソラは定番の位置へ。

本当にドルイドさんの頭の上が気に入っているよね。


「どうしたんだ?」


ドルイドさんも、頭にソラがいることに全く疑問を持っていないし。

それってどうなんだろう。


「いえ、行きましょうか……あ、シエルがこっちへ来ました」


ふわっと風に乗ってシエルの気配を感じた。

そのまま待っていると、ふわりと木の上からシエルが降りて来る。

すぐさま全身を見回す。

怪我をしている様子はない、血もついていない。


「シエル、町の冒険者を守ってくれたの?」


「にゃうん」


ちょっとドヤ顔のシエル。

どうやらシエルで間違いないようだ。


「やっぱりシエルだったか~、ありがとう」


ドルイドさんが、シエルの頭をそっと撫でる。


「シエルお利口さん。すごいね~。でも怪我をしていないか心配したよ。大丈夫だった?」


全身を見て問題ないと思ったが、見えない場所を怪我しているかも。


「にゃうん」


大丈夫って事かな?

よかった。

それにしても。


「大変だったでしょ? グルバルとチジカが大群だったって、すごいね」


「にゃうん」


あっ、ものすごく機嫌がいいのは分かるんだけど。

えっと、言いたくないな……でも、さすがに。


「シエル、えっと。尻尾はちょっと抑えようね」


ぴたりと止まる尻尾。

そして耳を少し寝かせてしまうシエル。

あ~、だから言いたくなかった。

絶対、シエル落ち込むもん。


「怒ってないし、困ってないよ。ただ、ちょっと砂埃が……」


何を言っているんだ、私は。

余計シエルが落ち込んでしまう。


「シエル、町の仲間を助けてくれてありがとう。助かった彼らが言っていたよ、命の恩人だって」


ドルイドさん、ありがとう。

シエルの尻尾が軽く揺れる。

よかった、今度は加減をしてくれている。


「かっこいいね、シエル」


私の言葉に激しく尻尾が2回揺れるが、すぐにゆっくりした揺れに変わる。

シエルも可愛いが、尻尾も可愛いな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] フレム、寝たいのを無理やり起こしておく意味ある? 寝たいだけ寝かせてやればいいと思うんだけど?
[一言] シエル可愛い!
[気になる点] 全力の尻尾ふりふりを見てみたい……前のが全力ではないんでしょう?(ワクワク
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