177話 えっ? 食べる?
ギルマスさんと師匠さんが再会をはたして、5分くらいかな。
どうしてだろう、ギルマスさんがちょっと老けたような気がする。
気のせいだよね、きっと。
それにしても、ギルマスさんも師匠さんには丁寧な言葉遣いになるんだな。
ドルイドさんも基本丁寧だし、ただときどき素が出ているけど。
「師匠、それぐらいに。ギルマスが使い物にならなくなります」
「なんだ、情けないな~。これぐらい言い返せないでどうする?」
いや、グルバルの対応が出来ていない事でつつくのはどうかと思うけどな。
頑張っているのだから、少しは応援をしてあげてもいいと思う。
それとも、これが師匠さんなりの応援の仕方なのかな?
ちらりと師匠さんの顔を見る。
ものすごく楽しそうだ。
「で、上位冒険者どもは全滅か?」
「……はぁ~、正直分かりません。音信不通になって3日目です」
3日目……。
私が思っているより問題は大きくなっているな。
上位冒険者が帰って来たら、何らかの解決策が見つかるものだと思い込んでいた。
まさか、帰って来ないなんて考えもしなかった。
「だったら、次の手を考えているんだろうな」
「…………」
ギルマスさんが険しい表情をして黙り込む。
次の手はないのだろうか?
それとも、かなり難しい?
「ギルマス、言っておくが巻き込むなよ」
ドルイドさんが、聞いたことがないような声で言葉を吐き出す。
いつもとは違いすぎたため、一瞬誰の声か分からなかったほどだ。
「あぁ、分かっている。屑にはなりたくないからな」
巻き込む?
屑?
よく分からないけど、相当難しい事の様だ。
ん~、何かお手伝いが出来ればいいけど……私自身は弱っちいからな。
何かするとなるとシエルに頼ることになる。
それも全て。
そんなの駄目、私自身が自分で出来ることでお手伝いしないと。
「なんだ? こんな状況で駄目も何もないだろうが」
「師匠、これだけは譲れません」
ドルイドさんの厳しい目が師匠さんを見つめる。
その視線に師匠さんは少し驚いたようだ。
微かに息を飲み、理由は分からないだろうに「分かった」と頷いた。
……私のお父さんは、かっこいいです。
ちょっと言ってみたいと頭をかすめるが、今は止めておこう。
後で、ソラとフレムに聞いてもらおう。
「あぁ、そうだ。アイビーが面白い事に気付いたぞ」
いや、面白い事って……。
それに他にも気付いている人がいると思うのだけど。
「なんですか?」
「魔物が凶暴化する事例について調べたか」
「えぇ、もちろん。かなり昔の文献で、似たような状況だと判断出来る物がありましたが、使えませんでした」
「寿命ってやつか?」
ギルマスさんが、疑問を浮かべた表情で師匠さんを見る。
「そうです。あの中途半端な文献です。魔物の名前、もしくは詳細さえあれば今回の事で役立てられたのに。なぜ、あんな文献が存在するのか」
やっぱりそういう風に解釈してしまうのか。
「ほらみろドルイド、この考え方が普通だ。アイビーがちょっと変わっているんだ」
「師匠……まったく。はぁ~」
師匠さん、今はそれを証明する時ではないような気がします。
ドルイドさんも呆れかえっていますし。
「なんなんですか、さっきから。それにアイビーは、何に気付いたんです」
「その文献の違う解釈だ」
師匠さんが何か言う前にドルイドさんが口を挟む。
きっと師匠さんだと、余計な言葉を挟むからだろうな。
「違う解釈? ……分からん。どういう意味だ?」
「魔物を特定するような情報は、一切書かれていなかっただろう?」
「あぁ、だから使えない文献だと思ったんだが、違うのか?」
「アイビーは、寿命という事が重要なのではないかと考えているんだ」
「寿命?」
ギルマスさんが私を見るので、頷いて同意を示す。
「そうだ。寿命で死んだ魔物なら、どんな魔物でも同じ現象を起こすのではないかと。だからあえて魔物を特定できるような事を一切書かなかった。それに凶暴化した魔物についても特定されないような書かれ方をしている」
「つまりどんな魔物でも影響を受ける可能性がある、だから魔物の情報が無い」
ちょっと驚いた表情をするギルマスさん。
「なるほど、それならあの文献の書き方にも意味がある……そうか」
ギルマスさんが何か考え込んでしまった。
これで私の解釈が違ったら、やっぱり申し訳ないな。
「だとしたら、解決方法はどういう意味だ?」
そう、そこが問題なんだよね。
寿命で死んだ魔物を食べて凶暴化した、つまりそこで死んだ魔物は無くなるはず。
なのに、解決方法の所に寿命で死んだ魔物を燃やすとある。
さっぱり意味が分からない。
「そうなんだよな~。そこが分からん」
この文献を書いた人は、誤解を生まないように重要な部分だけを書いている気がする。
つまり解決方法も、成功した方法を簡潔に書いてくれているはず。
「食べたのにまだある? 食べたのに……食べていない?」
「アイビー、どうした?」
ん?
頭の中の言葉を口に出してしまったかな?
「食べても無くならない物って何でしょうか?」
「……えっと、なぞかけ?」
「違います! えっと……」
聞き方が悪かったな。
どう訊けばいいかな……。
「食べたのに、燃やせたって事は、食べたのに無くならなかったって事ですよね? あっ、食べた物が死骸ではなく、死んだ魔物の何かという事はないでしょうか?」
そうだ、これだったら何とか筋が通るかな?
でも、その何かを文献に書かなかった理由は思いつかないけど。
「なるほど、そういう考え方も出来るな。こい……アイビーの発想は面白いな」
こいつって言いそうになったみたい、別に気にしないのに。
「こっわ。そんなに睨みつけんなって。ドルイドの奴」
ん?
師匠さんが何か言っているけど、声が小さすぎて聞こえない。
「師匠さん?」
「いや、なんでもない。それよりその何かを思いつかないか? お前ら」
ギルマスさんとドルイドさんが真剣に考え込んでいる。
しばらく考え込むが首を横に振った。
師匠さんも、考えていたが大きなため息をついてしまう。
魔物を凶暴化してしまうモノ……難しいな。
「あの、魔物が寿命を迎えるのは、難しいのですか?」
ちょっと気になっていたんだよね。
寿命を迎える魔物で凶暴化するなら、もっといっぱい事例があってもいいはず。
でも文献は、かなり昔の1つだと言っていた。
つまり魔物が寿命を迎えるのは難しいという事になる……のか?
「その辺りは良く分かっていない。だが、弱肉強食の世界だから少しでも弱くなれば、どんな上位魔物でもエサとして狩られるだろう」
なるほど、どんな強い魔物も老いがくれば弱くなる、弱くなったら狩られる対象になってしまうのか。
厳しい世界だな。
「魔物の寿命ってどれくらいなんですか?」
「寿命か、文献によると200年以上だ」
200年!
それはすごい、200年間生き延びるのか。
寿命を迎える魔物は相当な強さを持っているんだろうな。
年老いて弱くなっても襲われないぐらいの。
「強い魔物、魔物だから魔力を持っていますよね?」
「そりゃそうだ、魔物だからな」
「ですね。あの、寿命を迎えられるほど強い魔物の魔力って死んだらどうなるんですか?」
「ん?」
師匠さんが首を傾げる。
「200年以上生きられて、年老いても襲われないほど強い魔物の魔力。相当な力を持った魔力ですよね」
死骸から魔力が溢れることはあるのかな?
もし溢れるなら。
「魔力を食べることが出来たりして」
「「「はっ?」」」
「死んだら体から魔力が溢れだして、それを食べた他の魔物が凶暴化……なんて、馬鹿な考えですよね。あっ、でもこの考えだと死骸が残るので燃やすという解決方法が出来ますね」
なんて、考え過ぎか。
「アイビー!」
「はいっ!」
驚いた、いきなりドルイドさんが叫ぶんだもん。
何?
何か問題でも起こったの?
「すごいな、アイビーは。ハハハ、そうか。魔力か」
師匠さんが、何かものすごく感心した視線を送ってくる。
えっ、何怖い。
「ありがとうな、アイビー。そうか、魔力か」
えっと、何がありがとう?
意味が分からないのだけど。
「そういえば、報告の中に魔力について何かあったな。あの時は、今回の事とは関係ないと処理したが」
魔力?
あぁ、食べた何かを魔力と考えたのか。
えっ?
魔力って食べることが出来るの?