173話 色々あるんだな
広場にドルイドさんと戻りながら、首を傾げる。
何か、訊こうと思っていたはずなんだけど何だっけ?
バタバタしていたから度忘れしてしまった。
「どうしたんだ?」
「分からないことがあったので、ドルイドさんに訊こうと思っていたのですが、何だったのか忘れてしまって」
「何だろう?」
ドルイドさんが私につられて首を傾げる。
「なんでしょうね?」
「いや、俺に訊かれても困るんだけど」
「そうですよね。……あっ、隣村から人が流れ込んできたと言ってましたが、どうしてですか?」
「あぁ、その事か。村の権力争いだよ」
権力争い?
村で権力を奪い合う事なんてあるの?
「村長に子供が2人や3人いると、村長が死んだ瞬間から村を巻き込んで争う事があるんだ。もっとひどい争いになるのが、領主の時かな」
なるほど。
村の人達も自分たちが推している人が村長や領主になれば、何かいい事があるかもしれないもんね。
「権力争いに負けた村の人達が、この町に来たんですか?」
「いや、その争いに巻き込まれたくない村人が、自分の村を捨てて逃げてきたんだ。村人同士の暴力事件も多くて大変だったらしい」
すごいな、そんな村があるのか。
それにしても旅をしていると、村のいざこざや不祥事を色々と耳にするな。
「村って色々な問題を抱えているんですね」
「まぁ、人が集まればそれなりにな。一番問題が明るみに出るのが、領主と村長が代替わりする時だな。誰が後を継ぐかって領地や村全体を巻き込んで争うから」
「後を継ぐのは、長男や長女だとばかり思っていました」
「通常はそれでいいんだが、何と言うか権力に目がくらむんだろうな。周りの人間が煽ることもあるし。次が特産品が生まれた時だな。これは権利についてくる金の争いだな」
権力争いにお金の争い。
前の私が、この考えに同調している。
どの世界でも変わらないという事なんだろうな。
「あっ、ギルマスからの伝言を伝えたっけ?」
「いいえ、聞いていませんが」
「悪い。もう3日ほどで準備が出来るから、待たせて悪いなって」
「準備? 何の事でしたっけ?」
私、何か待っていましたか?
ギルマスさん関連だから、グルバル?
「謝礼金の事、忘れてないか?」
あっ、確かにそんな物があったな。
すっかり忘れていたな。
「思い出しました。グルバルのですね」
「あぁ、しかも2回分な」
アハハ、そうだった。
シエルってば、2回もグルバルを狩ったんだった。
「かっこよかったですよね、動きが俊敏で軽やかで」
シエルの狩りをする姿を思い出す。
無駄がなくしなやかで。
「確かに、あれを見た時は感動したな」
2人でシエルのかっこよさを話しながら広場へ戻る。
テントの前について……あれ?
ドルイドさんと、今日も夕飯の約束をしてたっけ?
まぁ、簡単なモノだったらすぐに作れるから問題ないけど。
「あっ」
「どうしたんですか?」
ドルイドさんが困った表情をする。
何かあったかな?
「いや、またアイビーについて来てしまったなって思って」
……そういえば前にもあったな、そういうこと。
「出会った日ですね。簡単なモノだったらすぐに作れるので夕飯を食べていきませんか?」
「いや、連日悪いから」
「1人分も2人分も一緒ですよ」
ん~っと言いながらドルイドさんが何か考え込んでいる。
そんなに難しい問題ではないと思うけど。
「そうだ! アイビー」
「はい」
「今日は屋台に食べに行かないか? 夕飯を。まぁ、その、なんだ。奢るよ……お礼に」
微かに頬が赤くなって照れているドルイドさん。
その面白い……えっと、初めて見る表情にちょっと驚きながらお礼の意味を考える。
お礼をされるようなことをした覚えはないけどな。
「父さんと母さんのことな」
あぁ、両親との関係修復? の事かな。
でも、お互いにいがみ合っていたわけではないので、時間が経てば自然と修復できたような気もするけど。
「久々に両親の前で自然体でいられたよ」
確かに、お店に入った瞬間のドルイドさんの態度……ぶっ。
「アイビー」
「アハハハ、すみません。そうだ、店主さんとドルイドさんは、緊張の仕方とかそれを誤魔化す方法とか一緒ですね」
「えっ、一緒?」
「そうなんです。初めて見た時、驚きました」
私の言葉に驚いた表情を見せる彼。
知らなかったのかな?
「さすが親子だなって思ったんですよ」
尊敬していると言っていたから、小さい頃から店主さんをよく見ていて自然と行動が似たんだろうな。
「そうか……そっか。親子か」
ドルイドさんが口元を隠すが、目じりが完全に下がっている。
にやけている彼を見て、私もうれしくなる。
役に立つって気持ちがいい。
「よし、美味い物をご馳走するな」
「ふふふ。あっ、屋台はまだ食材とか足りているんでしょうか?」
「そう言えばそうだった。俺も駄目だな。どこかで大丈夫だろうと根拠もないのに思い込んでいる」
まぁ、目の前に問題が迫らないと危機感とかは生まれないか。
「様子を見ながら屋台を回りましょう」
「そうだな。食べたいものがあったら遠慮なく言ってくれよ」
「はい。ありがとうございます」
1度テントの中に戻り、ソラとフレムに声をかける。
屋台に一緒に行ってくれるのか、2匹に確かめるためだ。
「屋台に行くんだけど一緒に行ってくれる? それともテントで待ってる? えっと、一緒に行ってくれる時はプルプルしてね。待っている時はじっとしてくれる?」
2匹が私を見ながらプルプル揺れる。
どうやら、一緒に行動してくれるようだ。
「ありがとう。ソラもフレムも優しい」
そっと2匹の頭を撫でてからバッグを肩に提げてテントを出る。
屋台が並ぶ大通りへ向かいながら、食べる物を話し合う。
どうやらドルイドさんお薦めの、お肉がいっぱい入ったスープがあるらしい。
「では、その屋台から行きましょうか」
「そうだな」
大通りに出て屋台が見えてくる辺りで違和感を覚えた。
活気が少ない。
「影響が出ているな」
「みたいですね」
屋台を見てみると、閉まっているお店が目に入る。
おそらく食材が高騰したために続けられなかったか、仕入れる食材がなかったか。
「米が広まってくれたとしても、グルバルの問題をどうにかしないと根本的な解決にはなりませんよね?」
「そうなんだよな」
ドルイドさんが大きなため息をつく。
広場の噂では、上位冒険者達の帰りが予定より遅れているらしい。
何かあったのではないかと、冒険者達の間で不安な声がどんどん広まっている。
3組の上位冒険者が、グルバルの問題について調べているはずだ。
無事に戻ってきてくれたらいいが。
「よぅ、ドルイドじゃないか」
声の方へ視線を向けると、随分と体格の良い老年の男性がいた。
その声に、隣にいたドルイドさんの体がびくりと一瞬震えた。
不思議に思い隣を見ると、なぜかものすごく引きつった笑顔を浮かべる彼が居た。
「久々に師匠に会ったのに、うれしくないのか?」
「いえ、お元気そうで」
なるほど、ドルイドさんの師匠さんか。
ドルイドさんの表情を見た師匠さんの顔が、ニヤリとする。
あ~、ドルイドさん、腰が引けてる。
なんとなく、『ご愁傷さまです』と言いたくなる雰囲気だな。