表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/1142

172話 私が代表?

「ありがとう、アイビー。これだったら『こめ』への抵抗感も薄れてくれるだろう」


「いえ、お役にたててうれしいです」


皆が受け入れてくれたらいいな。

なんだかドキドキしてきた。


「今日の配合はアイビーを代表として俺とドルイドの3人で登録しておくから。配当が出たら5対2.5対2.5でいいか?」


ん?

何の事だろう?

登録? 

配当?


「あぁ、それで構わない。頼んだぞ、父さん」


「えっ?」


迷っている間にドルイドさんが答えてしまったけど、意味が分からない。

登録って今のソースの事だよね?


「ドルイドさん、どういうことですか?」


「ソースの権利の事だよ。アイビーの作ったソースを誰かが売る場合、権利料を払ってソースを売ることになるんだ。改良しても元のソースに権利が発生する」


へ~、すごいな。

あれ?


「あの、私が代表ってなんですか? この場合は店主さんが代表の方がいいのでは?」


私はほとんど言いたい放題で、頑張って作ってくれたのは店主さんとドルイドさんだ。


「いや、ソースを作るきっかけを作ったのはアイビーだし、味もアイビーが率先して考えてくれたんだから代表だろう」


そうかな?

ドルイドさんにそう言われると、納得してしまいそうになるけど。

本当に良いのかな?


「父さんが言いだした事だからな、大丈夫だって」


「そうですか? まぁ、それだったら」


まぁ、権利とかは人に受け入れられてからの事だからな。

今は、食料不足の解決が先決だろう。


「いつから広めるんですか?」


紙に配合などを書き込んでいた店主さんが終わったようなので、声をかける。


「それなんだが、いい方法があるかな?」


方法?


「広める方法ですか?」


「そうだ。『こめ』だと最初から言うと、人が集まらない可能性が高い」


そんなに米に対する抵抗感があるのか。

方法……あっ、奥さんやお姉さんみたいに匂いにつられて集まらないかな?


「店の前で焼いたら、匂いで人が集まって来ませんか?」


「さっきみたいにか?」


焼きおにぎりを食べに来た奥さんとお姉さんは、3個ずつ食べたらすぐに店番に戻ってしまった。


「はい」


「確かに母さんたちを見ていたら、効果がありそうだな」


ドルイドさんの言葉に、3人で顔を見合わせて笑ってしまう。

それにしても、パワフルな2人だったな。

ちょっと焦げた方が美味しいと分かったら、3個目はその焦げ目を上手に付けようと2人で焼いているおにぎりに張り付いていた。

なんだか微笑ましく思っていたら、私も巻き込まれて3人で焼いているおにぎりを凝視していた。

しかし、どれくらいの焦げ目が一番かという話に、なぜあんなに熱くなってしまったのか。

今思い出したら、恥ずかしいな。


「大丈夫だったか? 母さんも義姉さんも人を巻き込んで騒ぐの好きだから」


「大丈夫です。驚きましたが、楽しかったので」


なんだか自分の新たな一面を見た感じだ。

焼き目であれ程熱くなった事なんて、今まで無かったからな。


「悪いな。何と言うかあの2人が手を組むと大変なんだ」


店主さんのしみじみとした言葉に実感がこもっている気がする。

奥さんの旦那さんだもんね。

色々と巻き込まれているんだろうな。

でも店主さん、困っているというより嬉しそうだ。

きっと楽しい時間なんだろう。


「さてと、まずはこれをギルドに持って行って、明日は……」


店主さんがこれからの予定を考えているので、片づけをしていいかな?

使ったお鍋などを洗っていく。

そういえば、結構な量の米を炊いたのに無くなったな。

まさか店主さんが5個も食べるなんて思わなかったな。


そうだ、今日のソースに薬味を加えて焼くのも良いだろうな。

店主さんにちょっと言っておこうかな。


「あの、店主さん」


「ん? おぉ、アイビーもドルイドも悪い。洗い物をさせてしまって」


「いえ、大丈夫です。奥さんが戻る前に手伝ってくれていたので、残っていたのは少しでした」


「そうだったのか。あっ、それで?」


「今日のソースに薬味を加えてもいいと思いまして」


何が合うかな?

ピリッと辛みを追加したり、食感を追加しても良いな。


「なるほどな、店の前で焼くときに色々とやってみよう」


良かった、採用してくれるみたいだ。


「アイビー、頼みがある」


「はい、何でしょうか?」


店主さんの真剣な声に少し驚く。


「焼きおにぎりを作る時に、手伝ってほしい。『こめ』を炊く指導係として」


「えっ、指導係? えっと、それは?」


いや、無理でしょう。

教えてもらう方もこんな子供では、どうしていいか分からなくなるだろうし。


「もちろん、仕事なので給金も払う。日数的には5日間でまず様子を見るつもりだ。どうだろうか?」


えっと、ちょっと混乱が……。


「アイビー、俺も協力するから頑張ろうな」


「はい。よろしくお願いします……えっ?」


あれ?

条件反射の様に答えたけど……。


「ぶっ」


ドルイドさんの笑い声が調理場に響く。


「ドルイドさん!」


「いや、だって。真剣に考えているのに、速攻で返事が返ってくるから」


私も自分自身で驚いた。

それだけドルイドさんの事を信用しているんだろうな。

まぁ、旅を一緒にするならこんな感じなのかな?


「こらっ! ドルイド。アイビーを困らせては駄目だろう」


店主さんが、ドルイドさんを怒ってくれる。

それに肩をすくめて答える姿に、体から力が抜ける。

指導係と言われると緊張するが、ドルイドさんもいるんだし大丈夫だろう。


「あの、頑張ります」


「そうか! ドルイドをこき使ってくれていいからな」


「父さん、それはないよ」


なんだか2人の関係も随分と自然になったな。


「ん? なんでそんな嬉しそうなんだ?」


2人を見て笑っていたようで、ドルイドさんに訊かれてしまう。

ここで2人の関係とか言ったら、2人とも緊張しそうだな。

せっかく自然に関われるようになったのだから、言わない方がいいよね。


「楽しみだなっと思いまして」


「楽しみ?」


「はい。皆が受け入れてくれるのか心配ですが、楽しみです」


どこまで上手くいくのか心配だけど、どういう反応をするのかは楽しみだ。


「そうだ父さん。食料が足りなくなってきていることは、町の人たちは知っているのか? 何だか皆に危機感が無い様に思えるんだけど」


「あぁ、知っている。ただ、前にも似たような事があったんだが、その時は回避できたからな。今回も大丈夫だろうという気持ちが強いんだ」


なるほど、だから皆焦っていないのか。

現状を知っている店主さんたちは大変だな。

食料確保だけでなく、町の人の考えも変えていかないといけないのだから。


「大変ですね」


私の言葉に店主さんが苦笑いした。


「前回と今回では人の数が圧倒的に違うからな」


あっ、そう言えばトキヒさんが、隣村から人が流れこんで来たと言っていた。

理由を聞き忘れているな。


「ん? もう夕方になりかけているな。急いでギルドに行かないと」


店主さんが用意していた書類を纏めてバッグに入れると、出かける用意を始めた。


「随分と急いでいるんだな」


「ソースの配合は色々な者が考えているから、完成したら早く登録しておいた方がいいんだ。それにギルドから食料について相談を受けていたしな。大量にある『こめ』の活用法を考えたと言えば、少しは安心するだろう」


ギルドから相談されるとか、店主さんはすごいな。

店番をしていた奥さんとお姉さんに挨拶をして店を出ると、挨拶もそこそこに店主さんはギルドに向かった。


「相変わらず、忙しい人だな」


ドルイドさんが嬉しそうに、店主さんの後ろ姿を見ている。

それに、ついつい頬が緩む。


「ん? 何?」


「いえ。ドルイドさん、店主さんのためにも頑張りましょうね」


「あぁ、無理しない程度に頑張ろうな」


あっ、照れてる。

そんな彼の態度に笑みが浮かぶ。

よしっ、皆で笑えるように米もソースも成功するように頑張ろう!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
サラダソースと肉ソースは各町ごとに決まっていて新作は許されないのではありませんでしたか? 焼きおにぎりソースだからOK? 焼きおにぎりソースの売上から、元のソースの作者に権利料が支払われるのでしょう…
[一言] 年寄りとして一言言っておくが、敗戦後アメリカから援助してもらったトウモロコシは家畜の餌だからね、それを日本人は有難く食った。 小麦粉しか配給されなくて、母が作ったのはすいとんとどんどん焼き(…
[良い点] 戦闘物でもなく、まったりした冒険をするのがとても面白いです! [気になる点] 5:2.5:2.5の表記した理由が分かりません。比率なら2:1:1でしょうし、比率表記の時に全体の数値を固定す…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ