168話 ソラだから
ドルイドさんの頭の上で機嫌が良くなったのか、縦に揺れながら左右に揺れている。
……器用だな。
「それで、ソラとフレムはどんな物を食べるんだ?」
「ポーションです」
この言い方だと、ビンの中身だけだと思われるかな?
「……もしかしてソラは青のポーション? あれは傷を癒す力があるからな。まぁ、ポーションを処理するスライムが、傷を癒したなんて話は聞いたことがないが」
「はい、ソラが青のポーションでフレムが赤のポーションです。……えっと、ビンごと全て食べます」
たぶん、これで伝わるはず。
「へぇ~フレムは赤か。赤のポーションは病気だったな……ん? ビンごと全て?」
ドルイドさんは感心したように話していたが、おかしいことに気が付いたようだ。
「……ポーションをビンごと? 中身だけでなく?」
スライムの中には、ポーションを処理できる子達もいる。
だが、その子達が処理するのはビンの中身だけらしい。
ソラのことが気になったので、調べたがビンごと処理できるスライムの話は一切聞くことは無かった。
「はい。ポーションをビンごと全て綺麗に消化します」
ソラは自慢なのかちょっと胸を張って得意げになっているようだ。
ただ、ドルイドさんの頭の上なのでドルイドさんには見えないし。
全体的に見ている私には、どうも間の抜けた印象になってしまうのだが……。
褒めた方が良いのかな?
「何かあるだろうとは、アイビーの話し方で気が付いたけど。まさか無機物と有機物を処理できるとは」
まだあるんだけど……。
「あの……」
「……まだ何かあるのか?」
「はい、最近ソラは剣を食べるようになりました」
最近増えたソラの秘密の1つだ。
しかも食べる速度が上がっている。
今日の朝など小型のナイフを一瞬で処理してしまった。
あれには本当に驚いた。
一瞬ナイフの差し出し方が悪くて、横に落ちたのかとナイフを探してしまったくらいだ。
「えっと、剣?」
「はい」
ドルイドさんが目を見開いて固まった。
えっ?
私が想像しているより反応がすごい。
もしかして、思っている以上にすごい事なのかな?
「アイビー。たぶんそれはかなりすごい事だから、そんな簡単に口にしたら……いや、無機物と有機物も大概すごい事か」
ん?
なんだか言い方が……ドルイドさん、ちょっと混乱してる?
ソラが剣を食べる事ってそんなにすごいの?
でも剣を食べるスライムは、前に見たことがあるのだけど。
「そんなにすごい事ですか?」
私が首を捻っているのを見て、ドルイドさんが苦笑いした。
「剣を作れるのが鍛治、錬金、刀匠のスキルを持つ者達なのは知っているかな?」
「はい、聞いたことがあります。あれ、魔武器作成スキルの方達も作れるのでは?」
「いや、他の武器や装備は作れるが、剣は彼らだけの力では作れないそうだ」
それは知らなかったな。
「他にも魔物がドロップする剣があるが、上位魔物が稀にドロップするもの以外はそれほど使えない。なのでそれらの剣も1度鍛冶師などに鍛え直してもらうんだ」
へぇ~。
鍛冶師とかってすごいんだな。
「そして彼らの作った剣は、そう簡単に折れる事はないし、欠ける事もないんだ。まぁ、手入れを怠ると欠けやすくなったりはするが、それでもドロップした剣とは違いがでるかな」
「そうなんですか、知らなかった」
「ん? 知らなかった?」
「はい」
「……えっと、ソラが食べる剣はどちらだ?」
「どっち」
どっちって何と何?
「……あ~、なるほど。ごめん、俺が早合点してしまったみたいだ。えっと剣にはスキル持ちに鍛えてもらった真剣とそれ以外のドロップしたままの多剣があるんだ」
なるほど、ソラが食べているのがどちらかという事か。
……分からないな。
剣が2種類あるのも初めて知ったし。
「鍛冶師などどこにでもいる存在ではないからな、多剣のまま使っている冒険者達も多いんだ」
なるほど。
「ソラだから真剣を食べると思い込んでしまった。普通は多剣の処理が出来るスライムだ。こちらもレアだが、たまに現れるな」
「真剣を食べるスライムはいないのですか?」
「あぁ、スキル持ちが鍛えた剣には何らかの力が付加されるようで、無理なんだと聞いた」
すごいな。
そんなに違うのか。
「ソラが食べているのは多剣かな?」
「たぶん」
欠けた剣などを食べているのだから、間違いなく多剣だろう。
「「………………」」
あれ?
でも、1本だけすごい綺麗な剣が混ざっていたような。
「アイビー、もしもの事がある。捨て場で真剣を探して試してみてもいいかな?」
「…………はい。お願いします」
そう、もしもという事がある。
まさかという事もある。
調べることは大切だ。
「ソラ、これ以上の存在にはならないでね」
「ぷ~、ぷっぷ~」
相変わらずの気の抜ける答えだけど……。
捨て場が見えてくると、ドキドキしてくる。
この場所にこんな気持ちで来ることになるとは。
「あ~、とりあえず多剣を食べてもらっていいかな?」
「ソラ食べられる?」
「ぷっぷぷぷぷぷ~」
ドルイドさんの言葉にかなり機嫌が上がったようだ。
えっ、そんなにお腹が空いているの?
朝ごはん食べたのに。
「ハハハ、ソラは元気だな」
ドルイドさんが多剣を選びに行くのを見送って、バッグから寝ているフレムをそっと出す。
相変わらず、ずっと寝ている。
何か病気なのかと心配になるが、ソラに聞いても特に反応は示さない。
なので大丈夫だと思うが……ただ寝るのが好きとか言う理由だったら、寝過ぎだ。
シエルにお願いして、フレムを見ていてもらう。
「シエル、ありがとう。行ってきます」
「にゃうん」
青のポーションと、赤のポーションをバッグに入れていく。
以前に来た時より、ポーションの質が落ちているのが分かる。
冒険者の出入りが、少なくなっているのが原因だろう。
バッグに入るだけ詰めこんで、シエルのいる場所まで戻る。
丁度、ドルイドさんが大量の剣を肩に担いで戻って来た。
頭の上にいるソラを見ると、既に食べている。
……ソラの剣の食べ方は口を上に向けて剣先から食べるので、遠くから見たらドルイドさんの頭に剣が刺さっているように見える。
剣を頭に刺したまま歩くドルイドさん……周りを見回す。
良かった、誰もいない。
ずっと気配を探っているので分かっているのだが、ついつい目でも確かめてしまった。
「さて、ソラには頑張って食べてもらわないとな」
「えっ? 既に食べてますよ?」
「えっ? 食べてる?」
質問に頷いて答えると、眉間に皺が寄る。
えっ、何で?
「ソラ、それを食べ終わったら一回そこから降りてくれる?」
私の言葉にプルプルと体を揺らして答えるソラ。
そこから数秒で剣が消化されて、ソラはピョンと頭から降りた。
「……消化する時間早くないか?」
「たぶんちょっと速いです」
「ちょっとではないような気がするが、えっととりあえずこの剣かな」
大量に持ってきた剣の中から1本取り出して、ソラに差し出す。
私には区別がつかないけど、何か違うのかな?
「その剣は何か違いがあるのですか?」
「魔物のドロップした剣で、火の魔法が付与されているんだ。此処に赤い小さな石があるだろう?」
確かに小さな赤い石が握る部分についている。
「この石の違いで付与されている魔法が分かるんだ。あとは握りの所に刻まれている模様や文字で魔物の種類も分かる」
すごいな、まったく知らないや。
きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~、きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~。
捨て場に何とも言えない音が響く。
ドルイドさんが驚いて、音の正体を探してソラを見つめる。
「すごい……速い」
ソラの剣を食べる速度に、唖然としている。
それにしても何度聞いてもすごい音だな。
……あれ?
今日の朝は音なんて出ていなかった。
「ソラ、音を出さずに食べれる?」
私の言葉と同時に、聞こえていた音が消える。
ただ、ちょっと不服そうなソラ。
「音を出して食べた方が美味しいとか?」
きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~、きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~。
おそらくそうだって事を表現しているのかな?
でも、音を出す出さないでそれほど味が変わるものだろうか?
「何と言うか、その速さに驚いていないアイビーも含めて俺には驚きだよ」
「見慣れているというか……」
ハハハと笑うドルイドさん。
ちょっとお疲れの表情なのは、ソラだけでなく私のせいでもあるようだ。
ソラを見る。
既に次の剣を見つめている。
そんなにお腹が空いていたのか。
気を付けてあげないとな。
でもいったい1日に何本食べるんだろう?
1日に10本は、あげていたんだけど。
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