表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/1142

167話 白パン!

目の前のドルガスさんの顔がどんどん真っ赤に染まっていく。

怒りと羞恥からだろう。

大丈夫かと問いかけたいが、原因に心配されるともっとひどい事になりそうだ。

どうもドルガスさんと話していると突っ込みたくなる。

なんでだろう?


「アハハハ、アイビー最高だ!」


しかも先ほどからドルガスさんの怒りを煽る存在が隣にいる。

あ~また、余計なことを言う。


「ギルマス!」


「どうしたドルガス。言い当てられて焦ったのか? それとも怒ったのか?」


ギルマスさんの言葉に、ドルガスさんの体が怒りでだろう微かに震えている。


「なんなんだ、お前ら。俺は星を奪われた被害者だぞ」


被害者ね~。


「はぁ、ドルガス。お前、いつまで被害者でいるつもりだ?」


ドルガスさんが、驚いた表情を見せる。


「確かにドルイドが星を奪ったのかもしれないが、だが20年以上前のことだ」


「うるさいっ!」


ドルガスさんは、ギルマスさんを怒鳴りつけると広場から出ていった。

本当に慌ただしい人だな。


「すまない。何でもないから、もう寝てくれて大丈夫だ」


ギルマスさんが、調理場周辺のテントに向けて声をかける。

ドルガスさんの声が大きかったので、かなり注目を浴びてしまったようだ。

というか、声の大きさに目を覚ました人もいるみたいだ。

私もギルマスさんの隣で頭を下げる。

少しざわついたが、しばらくするといつもの雰囲気にもどった。


「大丈夫か?」


「はい、助かりました。ありがとうございます」


「アイビーが謝る事はない。悪いのはドルガスとドルガスの軌道修正を怠った周りだ」


軌道修正って……。

もっと優しく……って、詳しく事情を知らない私が口を挟むことではないな。

それに優しく言い聞かせていた時期だってある筈だ。


「大変ですね」


「ハハハ、まぁな。そういえば、どうしてあんなに怒っていたんだ?」


「知りません」


「ん? 知らない?」


私の答えに首を傾げるギルマスさん。

お湯が沸いたので、持ってテントまで歩く。

隣をギルマスさんがついて来る。


「ここに来た時から、理由を言うことなくずっとあんな感じでした。なので怒っている理由は不明です」


少し、思い当たる事があるけど。

臆測だしな、違う可能性もある。


「そうか、しかしあの言葉は良いな『弱い犬ほど良く吠える』か~。ドルガスにぴったりの言葉だな」


「口に出すつもりはなかったんですが。彼はやっぱり小心者なんですか?」


あっ、かなり失礼な聞き方になってしまった。


「俺の見立てだとな」


ん~、ギルマスさんもよく人を観察しているからな。

それに今の表情、いつもと違う。


「ん? どうした?」


あっ、戻った。

もしかして、いつもの何処か情けない表情って人当たりを良くするためかな?

ギルマスさんは、ガラガラ声でかなり損をしている。

それに、この何処かぬけた表情を消すと、目つきとかきついし。


「アイビー?」


「いえ、送っていただいてありがとうございます」


ぬけた表情は失礼だったな。

声に出さなくてよかった。


「いや、何事も無くてよかった。何かあったらドルイドに何を言われるかわかったもんじゃない」


ん?

最後の方は声が小さくて聞こえなかった。


「なんですか?」


「いやいや、なんでもない。もう大丈夫だと思うが、見回りには注意するように言っておくから」


「ありがとうございます」


「おぅ。じゃ、おやすみ」


「おやすみなさい」


ギルマスさんを見送ってテントに入る。

なんだか、疲れたな。

とっとと体を拭いて、寝よう。


…………


「ソラ、フレムおはよう」


2匹が同時にプルプルと震えて挨拶してくれる。

ソラはちょっと激しく、フレムは何と言うかゆら~ゆら~と、ゆっくり。

これも個性なんだろうか?


「アイビー、起きてる?」


ん?

この声はドルイドさん?


「はい、ちょっと待ってください。すぐに出ます」


「ゆっくりでいいよ」


何だろう、門の所で待っているはずなんだけど。

何か予定変更?

テントから出ると、少し困った顔のドルイドさんがいた。

私が首を傾げると。


「ごめん、自警団の奴らに聞いたんだ。2番目の兄が夜中にアイビーに怒鳴り込んだって。本当に悪い」


頭を下げるドルイドさんに、慌ててしまう。


「ドルイドさんが謝る事ではないです。それにまったく気にしていません」


それは本当。

ドルイドさんの顔を見ても、昨日のことは思い出さなかった。

私の中ではどうでもいい事として処理されたみたいだ。


まぁ、気分的に言えば酔っぱらいに絡まれた程度だろう。

冒険者をしていると、たまにある事なのでいちいち気にしていられない。


「だが……」


ドルイドさんは、お兄さんがあんな風になった事に責任を感じている。

だから気にしてしまうんだろうな。

どうしようかな。

あっ!


「ドルイドさん、お詫びなら白パンで手を打ちましょう」


この時間なら、焼きたての白パン!


「えっ? しろぱん……あっ、白パンか。了解」


良かった。

しかも白パンだ!


「ドルガスさんに感謝ですね」


「えっ? 感謝?」


ドルイドさんが、かなり驚いた表情を見せる。


「だって、ただで白パンです」


私の表情を唖然と見て、次の瞬間噴きだした。


「アハハハ、アイビー、アハハッハハ」


「そこまで笑わなくても……」


「ごめん。ぶっ……くくく」


ツボにはまったみたいだ。

落ち着くまで待とう。

でも、白パンが売切れる前には落ち着いてくださいね。


ドルイドさんが落ち着いてから、用意を終わらせて広場を後にする。

白パンだ。

ちょっとわくわくしてくる。


「ぷっ、そんなに白パン好きなのか?」


そんなにおかしいかな?


「白パンは高いので、私にとってはご褒美パンなんです。なので本気でドルガスさんに感謝しています」


「なんだかすごいなアイビーは」


何がすごいのだろう?

首を傾げるが、ドルイドさんは何も言わずにただ笑っただけだった。


白パンを無事に手に入れて、森へ向かう。

お腹が空いたけど、さすがに食べながら歩くのは駄目だろうな。

でも、食べたいな。


「そういえば、今日の予定は? 罠でも仕掛けるのか?」


「いえ、今日は捨て場に行きます」


そう言えば、今日の予定を話していなかったかもしれない。


「捨て場?」


「はい。ソラとフレムの食料確保です」


「あっ、そうか。2匹ともスライムだもんな。ゴミ処理で活躍か」


活躍と言えるのかな?

まぁ、捨てられたゴミを食べているのだから間違いではないのかな。

ただ、普通のスライムとは違うからな。

これは言っておいた方が良いよね。


「えっと……森へ出たら話します」


「何だろう、今までの事を思うとちょっと怖いような……」


今までの事?


「何かありましたっけ?」


「アイビーには普通のことなのか。それにもびっくりだ」


ん?

私にとって普通のこと?

シエルのことかな?

まぁ、あれは普通ではないか。

本人が知らないところでテイムが完了しているのだから。

あっ、でもそれならフレムは生まれた時から印があった。


「……普通って何でしょうね?」


「アイビーが言うと深いよな」


そんな、しみじみ言わないでください。

門番に挨拶をして森へ出る。

しばらく歩くと、シエルの気配を感じた。


「来ました」


立ち止まってシエルが来るのを待つ。

しばらくすると、シエルの登場。


「おはよう。あっ、ソラ出すのを忘れてた」


そっとバッグを開けると、ちょっといつもより大きくなっているソラ?


「えっ、ソラが大きくなってる?」


「えっ?」


ソラがぴょんとバッグから飛び跳ねて、外へ出てくる。

降り立ったソラはいつもの大きさのソラ。


「あれ? 見間違いかな?」


じっとソラを見るがいつものソラだ。

見間違えたのか。


「ごめんね。遅くなって」


私が謝ると、ピョンと大きく跳ねてドルイドさんの頭の上へ。

彼も既に準備万端だったようで、驚くことなく乗せている。

いいコンビだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
しまパンもいいと思います
[良い点] アイビーが格好良くて定期的に見返すくらいオール町編が好きです。 ドルイドの(無意識と思われるとはいえ)スキルによって不幸に見舞われた兄達は間違いなく被害者であり胸中察する所なんだけど、被害…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ