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163話 お年は?

「いらっしゃい……あっ、ドルイド……」


店に入ると、店主さんがドルイドさんを見て驚いた表情を見せた。

一方ドルイドさんは、店に入った瞬間なぜか固まってしまった。

って、私はどうしたらいいのだろう?

店主さんとドルイドさんを見比べる、確かに似ているかな?


「えっと、元気か? って大けがをしたのに元気というのもおかしいか」


戸惑った様子の店主さんだったが、ドルイドさんの状態を心配しているみたいだ。


「大丈夫、です。痛みなどは、感じないですから」


ドルイドさんが慌てて応えているが、途切れ途切れになっているし、かなり他人行儀だ。

様子を見る限り、緊張がピークに達している。

このまま待っていても、ドルイドさんは落ち着けない気がするな。


「こんにちは」


「ん? あぁ君は」


「はい、米を精米してもらった者です。追加をお願いしたくてきました」


「……やはり食べたのか? 問題なかったか?」


「はい。大丈夫でしたよ。ただ、炊き方がまだ上手く出来なくて」


「炊く? 『こめ』は炊くのか?」


「はい、そうですけど。どうかしましたか?」


「あぁ、少し前に煮てみたんだが、ドロドロした物が出来てしまって味もいまいちだった」


煮る?

米を煮たらおかゆという食べ物になるはず。

まぁ、今思い出された物を見るかぎり、確かにドロドロといえなくもないか。

でも、味がいまいち?


「少しの塩と卵を落とすと美味しいと思いますが」


食べた事はないが、素朴な味わいになるみたいだ。

ちょっと気になるな、作ってみようかな。

あっ、でもこの世界ってちょっと濃い味が基本なんだった。

それから考えると。


「塩? 塩は入れたが……」


「かなり素朴な味になると思います。だから物足りないと感じるかも知れません」


店主さんが味を思い出しているのか、不思議そうに首を傾げる。


「確かに素朴といえば素朴か……ただ、『こめ』の味は無味(むみ)じゃないか?」


ん~、米自体はほのかな甘さだからな。

それを感じるのは難しいかもしれないな。

料理にするならおかゆより、出汁(だし)をしっかり効かせた雑炊の方が良いかな。


「あの、それで米はありますか?」


トキヒさんの話では、人が急激に増えたと言っていた。

もしかしたら米もなくなっているかもしれない。


「あぁ、大丈夫だ。前の時と同じ量で大丈夫か?」


「はい。お願いします」


米まで買いあさっている人はいないようだ。

もしくはエサという認識で、食べるという発想が無いのかもしれないな。

店主は米を持って、精米のため奥の部屋へ行く。


「はぁ~」


店主の姿が部屋の奥に消えると、隣から大きなため息が聞こえた。

相当緊張していたようだ。

彼の顔に疲れが見える。


「大丈夫ですか?」


「……ハハハ、大丈夫に見えるか?」


「いえ、まったく」


「俺もまさか、ここまで緊張するとは思わなかった」


2人の間で何かあったのかな?

って、むやみに聞いていい話ではないな。


「どれくらい会っていなかったんですか?」


「あ~、俺が家を出てからだから……20年以上だな」

 

20年以上!

同じ町にいて20年以上は長い。

おそらく見かけることはあったんだろうけど……。

なるほど。

だから、ドルイドさんだけでなく店主さんも何処かたどたどしかったのか。


……あれ?

ドルイドさんって何歳か聞いたことないな。

予想では40歳前後なんだけど。

40歳ぐらいですか? と訊くのは、止めておこう。


「ドルイドさん……何歳の時に家を出たんですか?」


「12歳だよ」


ん?

12歳?

………………今、32歳ぐらい?

えっ! 

32歳!!


「ドルイドさん、今32歳ですか?」


「今は、33歳だな」


33歳!

ドルイドさんを、じっと見る。


「苦労したんですね~」


「アイビー、それはどういう意味かな? ちゃんとしっかりと話し合おうか?」


「あ~、えっと……」


余計なことを言ってしまったみたいだ。

あ~、目が据わってる!

どうしよう。


「アハハハ」


えっ?


笑い声が聞こえた方を見ると、店主さんが小袋を手にして笑っている。

どうやら私たちの会話を耳にしていたみたいだ。


「よかったよ、ドルイドが元気そうで」


楽しそうに店主が、奥の部屋から戻ってくる。


「久しぶりに見たな、お前のそんなところを」


「父さん」


おっ、なんだかいい感じ。

ドルイドさんも落ち着いたみたいだ。

……きっと年のことは忘れてくれるはず。


「お前も『こめ』を食べたのか?」


「いや、食べていないが」


「そうか。感想を聞きたかったんだが」


感想?

だったら。


「あの、お時間があれば食べに来ますか? 今日、広場でドルイドさんと一緒に食べるんで」


何故か、店主さんは米に興味があるみたい。

なら、失敗していても炊いた米を食べてもらったらどうだろう?

聞くより食べる方がきっと理解できる。


「「えっ!」」


ん?

どうして2人共、驚くの?

何かおかしい事でも言っただろうか?


「聞くより食べる方が分かると思いますけど」


「あぁ、そうだな。そうだが……」


店主さんが戸惑った表情で、なぜかドルイドさんをじっと見る。

あっ、もしかしたらドルイドさんは嫌だったかも。

そうか、ちょっと無神経だったな。


「ドルイドさん、えっとごめんなさい」


「ハハハ、大丈夫だよ。父さんもどうだ? アイビーの料理はちょっと変わっているが美味しい」


ドルイドさんの声から硬さが抜けている。

もう大丈夫みたいだな。

それにしても変わっているなんて……否定できないが。


「いいのか?」


「あぁ、もちろん。ただし『こめ』の料理がどんなモノかは俺は一切知らないから、保証出来ないけど」


ドルイドさんが私を見て、にやりと笑う。

あっ、これ年齢の仕返しだ。

え~、ワザとではないのに。

……野バトをシエルにお願いしてゲットしてもらおう。

野バトの出汁で雑炊作ってやる!

というか、絶対に美味しいと思う。

野バトは、いい出汁が出るからな。

……シエルにお願いするのは心苦しいけど、食べたい!


「アイビー?」


「あっ、すみません。何を作ろうか考えていました」


「ふっ『こめ』料理もアイビーだったら間違いなしだな」


ドルイドさんが、ちょっとだけ強く私の頭を撫でる。

あ~、髪の毛がぐしゃぐしゃだ。

なんとなく、頭の上にある手をペシッと軽く叩く。


「ハハハ、ぐしゃぐしゃ」


「もぅ」


ドルイドさんが、笑いながら軽く髪を整えてくれる。


「ありがとうございます」


「いやいや、俺がやった事だから。まぁ、本当に味に関しては不安はない。ただ『こめ』という事だけが気にかかる」


どうして米に対してそんなに拒否反応があるんだろう?

何か理由でもあるのかな?


「米ってそんなに駄目ですか?」


駄目って聞き方はおかしいな。

でも、どう聞けばいいかな?


「駄目ではないが、エサという認識が強い。家畜が食べる物など食べれるかという考えだな」


店主の言葉に、なるほどと感じる。

代々受け継がれた、思い込みだ。


「昔からエサは食べる物ではないという感覚だな」


ドルイドさんにもあるようだ。


米が置かれている棚を見る。

大袋に入っている物、小袋に入っている物、それに特大袋まである。

家畜を増やしていると言っていたから、エサも大量にあるのだろうか?

それにしては、隣にあるライスという名前のエサはかなり少ない。

家畜にも好き嫌いがあったりするのかな?


「あ~、父さん。どうするんだ?」


「そうだな。『こめ』も気になるし、お邪魔して良いだろうか?」


今の言い方、米だけでなくドルイドさんも気になるってことかな。


「はい、大丈夫です。そうですね、味がしっかりとある丼物でも作ります」


頭の中に浮かんだ丼物。

米が上手く炊けないとちょっとひどい事になる可能性もあるが……。

自分を信じよう。

あと少しで、美味しく炊けるところまできていると思うのだ。


「「丼物?」」


お肉はどうしようかな。

野兎はちょっと駄目だな。

あっ、そういえば野バトの肉がマジックバッグに入っているな。

オール町に来る前に、シエルが狩って持って来てくれたんだった。

残念ながら骨は既に使ってしまったが。

帰りに卵だけ買って帰ろう。

あっ、でも醤油が無い。

……無いのかな?

米もライスもあった。

もしかしたらあるかも知れないな。

似た何かがないか、探してみよう。


「アイビー?」


「美味しいの作りますね」


「あっ、聞いてない」


えっ?

何を?

首を傾げてドルイドさんを見ると苦笑いされた。


「期待しているよ」


店主さんの言葉に大きく頷くが、醤油が有る無しでかなり変わるな~。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「少しの塩と卵を落とすと美味しいと思いますが」 六の実?
[一言] ん? 『159話 ドルイドとドルウカ』で >そう言えば、ここ数年父と話をしていないな。 ってあったけど、20年以上会ってないんです?
[一言] この町にきてからアイビーの性格がとても変わった感じがしますね
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