161話 少しずつ役割分担
「……すごいな。いつもこんな感じなのか?」
ドルイドさんが、罠に掛かっていた全ての野兎を見て感心する。
仕掛けた罠の数は5個。
通常は、2羽か3羽。
運が良ければ4羽ぐらいだろう。
私たちの目の前には15羽の野兎がいる。
「はい。いつもシエルが驚かせるのか追い込むのか、大猟です」
「すごいな~シエル。偉いぞ」
「にゃうん」
「あっ! ドルイドさん駄目!」
「えっ? ……もしかして失敗した?」
シエルを見ると、ドルイドさんの言葉がうれしかったのか尻尾が激しく揺れている。
その為シエルの後ろで土が舞い上がって、ちょっとすごい事になっている。
「シエル~、落ち着こう! 尻尾はとりあえず何とか抑えて!」
「にゃ~」
後ろを見て、ちょっと耳を寝かせるシエル。
可哀想になるが、さすがにちょっといただけない。
「ごめん、アイビー。何が駄目だった?」
「ハハハ、助けてくれるのはうれしいのですが、罠の仕掛け方などの良し悪しが全く分からなくなります」
ドルイドさんは罠を見る。
そして積み上がった野兎を見て、納得したようだ。
どんな罠を仕掛けても大量に狩れてしまうと、どれが一番いい罠なのか分からない。
「確かに、これでは分からないな」
「はい。私の仕掛けでは不安なのか、いつも手伝ってくれます。手伝ってくれた結果は、目の前にありますね」
「シエルも、アイビーの事を思ってやっている事だろうしな」
「はい。だから止めづらくて」
とりあえず、水のある場所に移動する。
狩りが終われば、解体して売りに行く。
いつもの順番だ。
途中でバナの木を見つけたので葉を収穫する。
殺菌作用のある葉なので、肉を包むのに活躍してくれる。
川の近くに来たので、周りを注意深く観察する。
昨日のようにグルバルが大量にいたら大変だ。
解体どころではなくなる。
また、ギルマスさんのお世話になる事になる。
さすがに連日は避けたい。
「今日はいないみたいだな」
「そうみたいですね」
「に~」
シエルが少し不服そうに鳴く。
狩りがしたいのかな?
……シエルに思う存分狩りをしてもらった方が良いのかな?
ただ、積み上がるだろうグルバルを、どうしていいのか分からないが。
解体を始めると、ドルイドさんが少し手伝ってくれた。
ただ彼は、自分が思った以上に出来なかった事に衝撃を受け少し落ち込んでいる。
この場合、慰める方が良いのか、落ち着くまで待った方が良いのか……分からない!
「えっと、お待たせしました。町へ戻りましょうか」
「あぁ、そうだな。はぁ~、本当に役にたたないな。悪い」
少しではなく結構落ち込んでいるようだ。
確かに、出来ていたことが出来なくなるのは辛いだろうな。
……なんて言えばいいの?
「えっと……」
慰めるなんて高等な技術は無いので。
「片手でも出来る方法か、もしくは出来る作業を探したらいいと思います」
わ~、なんだか偉そうなことを言っている気が……。
「確かにそうだよな。出来ることをゆっくり探すしかないよな。ありがとう」
「いえいえ」
肉をバナの葉で包む。
「シエル、ありがとう」
「にゃうん」
「ぷっぷ~」
「てりゅりゅ~」
返事が多すぎます。
「こらっソラ。今日はお前、俺の頭の上でずっと寛いでいただけだろうが」
「ぷっぷぷ~」
ちょっと不服そうにドルイドさんの頭の上で揺れるソラ。
あっ、落ちそうになって焦ってる。
「ソラ、暴れるから」
「ぷ~ぷ~」
スッと視線を動かして、シエルの足元にいるフレムを見る。
フレムも縦に伸びる運動をしている。
ただしソラと違い、かなりゆっくりの運動だ。
フレムを見ていると、ソラよりかなり横着な所がある気がする。
楽できるならそっち! みたいなところが窺える。
スライムにも色々と性格があるんだな~。
「行こうか」
お肉の入ったバッグをドルイドさんが肩から提げる。
手を貸そうかと迷ったが、手伝ってもらう事にする。
私は解体したので、ドルイドさんは運搬係だ。
「シエル、今日はありがとう。グルバルを狩る必要は無いからね。お願いね」
「にゃうん!」
……何か非常に不安を覚えるのはどうしてだろう。
それに、シエルの返事に力がこもっている気がする。
えっと。
「本当に無理に狩ったりしたら駄目だよ」
「にゃうん」
ちょっと鳴き方の音が下がった。
……大丈夫だと信じよう。
「シエル、また明日な」
ドルイドさんの言葉にスッと近づくと、彼の頭の上にいるソラをさっとひと舐め。
次にフレムを舐めてから、颯爽と去っていく。
「わぁっ、何?」
舐められたソラがちょっと激しく縦運動をしてしまったようだ。
頭の上で。
もちろん安定が悪いので、頭から落ちてしまった。
ドルイドさんは慌てるが、落ちた衝撃より舐められた衝撃の方が大きかったようだ。
そのまま私達の周りを飛び跳ねだした。
「ソラ?」
おかしいな、ソラも慣れてきていたはずなのに。
「どうしたんだ?」
「シエルに舐められたためです。でも、ここ数日は少しずつ慣れてきていたんですが」
ドルイドさんがソラを視線で追いかける。
ぴょんぴょんと跳ね回っている。
少し方向を見誤って木にぶつかっているが、まぁソラの事だから気にしていない。
「俺の頭の上にいたから、舐められるとは思わなかったのかもな」
なるほど、不意に舐められて驚いたのか。
ただ、そろそろ慣れてもいいと思うが。
「ソラ、帰るよ」
私の一言にピタリと動きを止めたと思ったら、大きくジャンプして定番の場所に戻る。
「俺の頭の上が定番になってきているな」
既に私の中では定番の場所なのだが……。
「そうですね。嫌だったらちゃんと言ってくださいね」
「大丈夫」
既に夢の中に旅立っているフレムをそっとバッグに入れる。
この子はソラより寝ることが好きだ。
体が求めているのか、性格なのか、今はまだ分からないが。
途中でソラもバッグに入ってもらって町へ戻る。
まだ商業ギルドに登録はしていないので、ドルイドさんの知り合いの肉屋へ向かう。
何と、トキヒさんのお店らしい。
そう言えば、ドルイドさんの実家のお店が何を売っているのか聞いていないな。
「ドルイドさんのお父さんのお店では、何を売っているのですか?」
「あぁ、雑穀店だ。取り扱っている『むぎ』と『こむぎ』の評判がかなり良いんだ。エサなども売っているよ」
……まさかね。
でも、なんだか似ている気もするような……。
「もしかして、屋台が集まっている場所の近くのお店ですか? 大通りから言うと左側なんですけど」
「あれ? なんで知っているんだ?」
すごい。
既にドルイドさんのお父さんと会っているかも!
「ちょっとお米を買いに行って」
「エサの『こめ』?」
あぁ、そうか。
ここではエサだった。
そうだ!
「はい。美味しくいただきました」
「えっ? いただく? エサ……父は、ちゃんと説明しなかった? 『こめ』はエサだよアイビー」
やばい。
思ったより反応が大きかった。
「あの落ち着いてください」
「いや、まさか父がそんな商売『違います!』ん?」
驚かせようとか、思わなければよかった。
心臓に悪い。
「私の記憶の中では立派な食料です」
「……あっ、そういう事か」
「はい。すみません、そこまで慌てるなんて思わなくて」
「いや、エサを知らない子供に売りつけたのかと……はぁ、父がそんな事をするわけないな」
ちょっと苦笑いするドルイドさん。
もう一度しっかり謝って、米の情報を話す。
「へ~、面白いな」
「はい……ただ、いまだに成功していないのが問題です。水加減が難しくって」
4回、米を炊いたのだが上手くいっていない。
火加減は記憶の中にあったので多分あっているはず、あとは水加減なのだがこれが難しい。
まだまだ研究中です。
そうだ、帰りに買って帰ろう。