150話 グルバルなんて嫌いだ!
「シエル、おはよう」
今日も無事に森に来ることが出来た。
まぁ、相変わらず門の所で少し時間がかかるけど。
何度も何度も同じ説明に、ちょっとうんざりする事もあるけど。
全部グルバルが悪い!
昨日の夜、グルバルの群れが門から見える場所で目撃されたのだ。
ただグルバル達は何かに怯えて、直ぐに森の奥へ逃げていったらしい。
いったい何に怯えたのだろう?
門番達は、グルバルより強い魔物が近くにいる可能性があるから危ないと言っていた。
シエルは大丈夫かな?
と心配しながら森の奥を目指したのだが、シエルと無事に合流。
よかった。
「シエル、この辺りにグルバルより強い魔物がいるかもしれないって、気を付けてね」
「……にゃうん」
ん?
答えるまでにちょっと間があったような気がするけど、気のせいかな?
「大丈夫?」
「にゃうん」
シエルが大丈夫と言うのだから大丈夫だろう。
でも、さっきの間は何だったんだろう?
まぁ、気にしても仕方ないか。
「よし! 頑張って罠を仕掛けようかな。あっシエル、獲物を追い込まないようにね」
「にゃ!」
……相変わらず、これに関しては迷いなく反対するね。
少しは技術が向上していると思うのだけど、シエルから見るとまだまだ甘いという事なのかな。
いったいいつになったら、任せてもらえるようになるのやら。
「気を取り直して、仕掛ける場所を探そうかな」
森の中を、小動物の痕跡を探して歩き回る。
ただ、やはりグルバルが森を動き回っているようで仕掛ける場所を見つけるのが難しい。
「ここかな?」
小動物の痕跡が他の場所より多いので、いつもだったら迷わず選ぶのだがグルバルの歩き回った跡もある。
ただ、グルバルはかなり活発に動き回っているようで、何処にでも痕跡が残されている。
今回は罠を仕掛けても、グルバルに壊されるかもしれないな。
「小動物も隠れているのか、痕跡が少ないな」
まだ痕跡があるこの場所の方が、成功する可能性はある。
罠は全部で10個。
それぞれ少し離れた場所に仕掛けていく。
いつもなら3ヶ所ぐらいに仕掛けるのだが、今日は1ヶ所に全て仕掛ける事にする。
まぁ、仕掛ける場所を見つけられなかったからなのだが。
「よし、終わった」
屈めていた腰を、反らして伸ばす。
う~、気持ちがいい。
ずっと前かがみだと、腰が痛む。
「ぷぷ~ぷっぷ~」
「てゅりゅっりゅ~」
あっ、フレムの鳴き方が増えた。
でも、その前に。
「その鳴き方はそのままなのかな?」
私に視線を向けるソラとフレム。
ちょっと難題を言ってしまったのかも。
「ごめん、なんでもないよ」
私が謝ると、ソラがピョンピョンと跳ねて私の周りをくるくる。
フレムもその場でプルプルと少し揺れている。
怒ったのかな?
「てゅちゅっちゅ~」
「ぷっぴゅっぷ~」
フレムの鳴き方が少し変わった。
ただ何と言うか、前の方が良いとか今の方が良いとか選べないレベル。
そしてなぜソラまで挑戦したのか。
「無理しなくていいよ。元通りで」
うん、何事も無理は駄目。
自然体が一番。
「ぷうしゅ~、ぷりゅりゅ~」
「ソラ、元に戻そうか。その方がかっこいいから」
「……ぷっぷぷ~」
「うん。それが一番」
本当にその鳴き方が一番いいと思う。
シエルとソラとフレムで、少し森の中を散策。
シエルと食べられる実を探す競争をする。
って、私が一方的に勝負を挑んでいるだけだけど。
ちなみに完敗中。
「ソラ、フレム、そろそろ町へ戻ろうか。シエル森は危険だから充分に気を付けてね」
「にゃうん」
「怖い魔物がいたらすぐに逃げるんだよ」
「にゃうん」
頭をそっと撫でる。
気持ちよさそうに目を細めるシエルは本当に可愛い。
「また、明日」
「にゃ~ん」
シエルはまたソラと今度はフレムもひと舐めして走り去った。
ソラはまだちょっと緊張するようで、ピキンと固まるがフレムはプルプルと嬉しそうだ。
「さて、帰ろうか。明日は朝方に仕掛けを見て、午後からは夕飯の仕上げだね」
ドルイドさんが冗談で言った野菜が苦手。
あれって、本当に冗談だったのか今でも少し疑問があるんだよね。
もしかしたら、無意識に本音を言っている可能性もある。
もしくは分かっていて、気を使わせないようにした可能性も。
どちらにしても、少し野菜が苦手なのではないかと思っている。
なので固まり肉を煮込むとき、野菜を多めにしておいた。
栄養面だけでなく、コクも出るので一石二鳥だ。
ただし付けあわせの野菜をどうするかだ。
葉野菜か根野菜か。
お肉がガッツリなので葉野菜が良いのだけど、青臭くて苦手だと言っている人を見たことがある。
根野菜のサラダの方が食べやすいかな?
あっ、潰した芋にサッパリ系のソースを混ぜたら軽く食べられるかも。
後は、食後に果物を出したらいいかな。
よし、なんとなく形になったな。
明日が楽しみだ。
…………
「おはようシエル。えっと、どうしたの?」
シエルの様子が何やらおかしい。
「にゃん」
「えっと、体調悪い?」
「に~」
違うのかな?
「元気?」
「にゃうん」
元気は元気なのか。
あっ、落ち込んでるのかな?
でも、何に?
とりあえず、仕掛けを見に行こうかな。
時間も今日は限られているし。
「えっと、罠を見に行こうか」
「に゛~」
えっ!
何か、すごい声が出てるけど……。
なるほど、シエルが落ち込んでいる理由はこれか。
視線の先には、踏みつぶされた罠。
おそらく足跡からグルバルだろう。
「シエル、大丈夫だよ。これも覚悟のうえで罠を仕掛けたから」
「に゛~」
「えっと、そんなに落ち込まないで」
あ~、ものすごく落ち込んでいる。
もう、グルバルなんて大嫌いだ!
「次! シエル、次は守ってね」
守ってなんて言ったら張り切ってしまうかもしれないけれど、これ以外になんて言っていいのか分からない。
「にゃうん!」
あぁ~、ものすごくやる気になってしまった。
でも、今日は罠を仕掛ける予定はないし、というか仕掛ける物がない。
「明日、罠を持って来るから。よろしくねシエル」
「にゃうん!」
今日中に何個か罠を作らないとな。
ただ、今日の夜はドルイドさんにお礼をする日だ。
「……今日はちょっと忙しいから、無理だったらごめんね」
シエルが首を傾げる。
その周りをソラがピョンピョンと飛び跳ねている。
そしてフレムがいつの間にか、座っているシエルの足の間に入り込んで揺れている。
自由すぎる……ソラの性格の一部を確実に受け継いでいるフレム。
もし、もしまた増えるなら、少しだけ常識がある子が良い。
「ぷっぷぷ~」
「てゅりゅっりゅりゅ~」
「はぁ~」
「にゃうん」
シエルに頑張れって言われた気がするのは、気のせいかな?
壊れた罠を回収する。
それにしても見事に踏みつぶされているな。
やっぱり、体が大きい魔物が暴れている時に罠を仕掛けるのは無謀かな。
でも、グルバルがいつ落ち着くか分からないしな。
そういえば、そろそろ上位冒険者達が戻ってくる予定だと言っていたな。
何かいい報告があるといいけれど。
「シエル、今日はごめんね。早いけど戻るね」
「にゃうん」
「ありがとう~」
シエルと別れて町へ向かう。
フレムはまだ自力で移動できないので、バッグへ。
ソラは私の周りを元気に跳ね回りながらついて来る。
本当に元気だよね。
木々の間から太陽の位置を確かめる。
少し予定より遅れているけど、あとは温めてお皿に入れるだけだから間に合うだろう。
それにしても、シエルがあんなに落ち込むなんて。
これからは気を付けないとな。
門が近くなったのでソラをバッグに入れる。
「大人しくしててね」
門番さんに挨拶をして、少し急ぎ足で広場を目指す。
テントの近くに戻ると、微かにいい香りが漂ってくる。
朝からとろ火でお肉を温めておいたのだ。
お鍋を確かめる。
これで焦げていたら悲しいが、問題なし。
後はサラダを完成させないとな。
テントに戻りソラとフレムをバッグから出す。
「今日はテントに戻って来るのが遅くなると思うから、ポーションは出しておくね。お腹が空いたら食べてね」
ポーションをバッグから出して、テントの中央に並べる。
少し転がれば食べられる位置に、フレムを移動させる。
「よし。また後で様子を見に来るから、良い子にしておいてね」
ソラは激しく、フレムは優しくプルプルと揺れている。
おそらく大丈夫だろう。
よし、完成させよう!