147話 自分で判断します!
ギルドから出て背伸びをする。
「どうしようかな」
今日は果物を売る店を探す予定にしていたので、予定が無くなってしまった。
それにしてもギルドを通せる事になるとは、全くの想定外だ。
ギルドは持ち込まれた商品を、かなり厳しく検査する。
そこに不安を感じるが、通れば間違いなく高値が付く。
シエルがせっかく見つけてくれたので、なるべく多く許可が下りてほしいな。
懸賞金などのお金はあるが、できるなら貯めていきたい。
これから何が起こるか分からないのだから。
このオール町に来るまでにも色々あったしね。
何だか、問題が起こる事に慣れてきているような気がする。
……それは嫌だな。
「あっ、ドルイドさんが何処にいるか訊くの忘れた!」
今日のお礼をしたいから、帰りに訊こうと思っていたのに忘れてしまった。
戻ってギルマスに訊く事は出来るだろうけど、仕事の邪魔になってしまう。
何処にいるかな、飲み屋?
ん~、朝から飲んでいるような人には見えない。
門番さんなら知っているかな?
この町で話をした事があるのはギルマスさんドルイドさん、そして門番さん。
今、話を訊けるのは門番さんだろう。
忙しそうだったら諦めて、町をグルグル回ってみよう。
門番さんは……子供達と言い合いの最中でした。
どうも、子供達だけで森へ行きたいと言っているようだが、反対しているみたいだ。
そういえば、朝方町の近くにグルバルが来た痕跡があったとか冒険者達が話していたな。
「グルバルが出たらどうするんだ?」
「戦う。グルバルなんて怖くない!」
そんな会話が聞こえてくる。
子供達を見ると、皆剣を持っている。
だが、その剣はどれも体に合っていないように見える。
「中位冒険者を惨殺したグルバルが怖くない? そんな馬鹿な事を言っている者を森には出せない」
「なんだよ。俺達はちゃんと冒険者だぞ! チームだって組んでいる!」
へぇ、あの子達はチームなんだ。
すごいな。
私より少し大きいぐらいかな?
成人はしていないように見えるから、13歳か14歳かな?
「チームを組んでいる、いないは関係ない。死にに行くのか?」
「なっ、そんなわけ『ヒルス、お前俺の剣を勝手に持ち出したな!』って、ぅわあ、ばれた。逃げろ」
ん?
一番声を張り上げて文句を言っていた子供が、慌てて逃げ出した。
その後を、似た雰囲気のこちらは成人した年齢ぐらいの子が追いかけていく。
……どうやら、お兄さんの剣を勝手に持ち出していたようだ。
だから、あの子には少し大きかったのか。
彼らが走り去って静かになったところで、門番さんに近づく。
オール町に初めて来た時に対応してくれた人だ。
「すみません。少し聞きたい事があるのですが」
「ん? おぉ、確かアイビーだったかな?」
「はい」
よく、覚えているな。
覚えやすいのかな?
「どうした?」
「ドルイドさんを探しているのですが、何処にいるかご存知ですか?」
「ドルイドか? 今日『あんな奴と一緒にいると死ぬぞ』って、おい! 何を言う!」
門番さんの言葉を不穏な言葉が遮った。
驚いて声が聞こえた方へ視線を向ける。
あっ、この人。
ドルイドさんの肩を押した人だ。
あの時も雰囲気がすごく悪かったけど、近くで見ると分かる。
ものすごく悪意に満ちた目をしている。
この目は知っている。
私も向けられた事がある。
「あの化け物、今度は仕事仲間を殺したそうじゃないか」
「おい、いい加減にしろ! それに原因はドルイドじゃないだろうが」
「いいや、奴のせいだ。アレが悪い!」
酷いな。
「ドルガス! やめろ!」
門番さんの雰囲気がガラリと変わる。
それにビクリと体が震えてしまう。
ドルガスという人物も一瞬で顔を青くした。
「いい加減にしろと言っているんだ」
「お前に何が分かる。俺が『聞こえないのか?』!」
えっと、離れたい。
何でこう、後から後から……ちょっと遠い目をしている気がする。
「聞こえているなら黙ってここから離れろ。お前には関係の無い事だ」
「俺はその子が可哀想だから、説明『気にしないで下さい』して……はっ?」
あっ、つい言葉が出てしまった。
だって、知らない人の話を聞くほど暇ではないし。
それにドルイドさんの事は自分で判断します。
自分で判断した結果、何か問題が起きたとしてもそれは私が背負うモノ。
たとえ後悔したとしてもだ。
「誰か知りませんが、心配してくださりありがとうございます。ですが見知らぬ人の意見を聞くほど愚かではありませんのでご心配なく」
あれ?
穏便に済ませようと思ったのに、棘が含まれたような……。
そんなつもりはなかったのだけど……大丈夫だよね?
ド……なんだっけ?
目の前の男性を見ると、ぅわ~怖い。
ものすごい目で睨み付けられてしまった。
やだやだ、この人心が狭い。
あっ、私もつられているかも、落ち着こう。
ふ~と、小さく深呼吸をする。
「なっ! お前!」
えっ?
どうして、さっきより怖い顔になっているのだろう。
困ったので門番さんに助けを求めるために視線を向ける。
視線が合うと苦笑いされてしまった。
「はっ、心配しただけ無駄だったな。お前も人を馬鹿にするようなクソガキか!」
ド何とかさんは、分からない事を叫んで何処かへ行ってしまった。
どうやら私は、火に油を注ぎまくったみたいだ。
あ~、厄介な事には首を突っ込まないように気を付けていたのに。
もう、何をやっているんだ!
「大丈夫か?」
自分の行動を思い返して首を振っていると、門番さんにそっと声を掛けられた。
心配されている。
「はい、大丈夫です。ちょっと自分の行動の反省を」
「あぁ、見事な返しだったな」
「……そんなつもりはなかったんです」
「ハハハ」
笑われた!
「しかし、悪かったな。あれはドルイドの兄になるんだが」
「あの、特に気にしていません。というか、私にはどうでもいい事です」
「えっ? どうでもいい事?」
「はい。ドルイドさんの家庭環境に私は興味がありません。興味があるのは何処に行けば彼に会えるか、ただそれだけです」
「……そうか」
「そうです。私と彼の関係に家族は関係ありません。とりあえず、お礼が言いたいので、何処にいるかご存知ありませんか?」
そう。
彼がどんな家庭環境で育っていようがどうでもいい事だ。
そんな事を言えば、私も家族に捨てられた存在。
確かに家庭環境が影響する部分はある、だが全てではない。
「ハハハ、アイビーは色々と経験しているんだな」
「そうですね~」
まだ9年しか生きていないのだけど、それは思う。
神様に言いたい、星なしでこの人生、恨むぞって。
門番さんは、かなり嬉しそうに私を見る。
もしかしたら、似たような事が今までにもあったのかもしれない。
そしてその時は、ドルイドさんから人が離れた。
まぁ、想像だけど。
「あの、そろそろ居場所を」
何だか質問を忘れ去られているような気がするので、再度訊いてみる。
「あっ、そうだったな。森へは行っていないから自宅の可能性が高いな。あの腕では依頼を受けている可能性は少ないだろうしな」
そうだ。
あの腕で狩りは出来るのだろうか?
「彼は冒険者を続けられそうですか?」
「ん~、難しいと思うぞ。慣れるまで周りが助けられればいいが、ドルイドがそれを拒否するだろうからな」
確かに彼は人に何かされることを嫌いそうだ。
「家族に色々と言われて育ってきたからな、人を寄せ付けない性格になってな」
家族に色々?
あの兄だけではないという事か。
「家の場所を教えるよ。いい事ではないが、アイビーならいいだろう」
肩をすくめて門番さんが笑う。
「ありがとうございます」
門番さんといい関係? を築いていてよかった。
そうでなかったら、オール町をさまようところだったな。