145話 休憩中
不思議な事に、ドーナツは想像通りの味だった。
それに首を傾げるが、そんな事もあるのだろう……たぶん。
それにしても、美味しい。
ドルイドさんに買ってもらったのは、ドーナツに似ているが周りが飴でコーティングされている。
アメッポというお菓子。
こちらも美味しい。
「美味しいですね」
「久しぶりに食べたが、旨いな」
「甘い物は食べないのですか?」
「ん? あぁ、最近参加してたチームの奴らは食べなかったからな」
そうだった。
ドルイドさんは仲間を失ったばかりだった。
昨日も迷惑をかけてしまったのに。
休憩に誘うなんて、ちょっと図々しかったかな。
でも、今回は事情があったわけだし……。
「ん? どうかしたか?」
困った表情でもしてしまったかな、ドルイドさんに心配されてしまった。
「いえ、大丈夫です」
あれ?
『最近参加してたチームの奴ら』と言ったけど、なんだか不自然な言い方だな。
「あの、参加してたチームってなんですか?」
「あぁ、俺はチームに所属していないんだよ」
「えっ? ん? でもチーム?」
「悪い、説明不足だな。俺は依頼ごとに、色々なチームに参加させてもらっているんだ。だから独自のチームは持っていない」
「そうなんですか」
依頼のたびにチームに参加するなんて初めて聞いた。
オール町では普通なのかな?
「あの、オール町ではそういう人は多いのですか?」
「俺みたいな奴か?」
「はい」
「いや、少ないよ。ちゃんとチームを組んでいた方が、依頼の成功率も上がるからな」
こんなに面倒見がいいのに、独自のチームを持っていないなんて。
きっと良いリーダーになると思う。
いや、リーダーの暴走を止める補佐役かな。
チームを組まない理由が何かあるのかな?
……訊くべきではないだろうな。
「そうですか」
あっ、最後の1個。
残り1つのドーナツを口に入れる。
ほっこりとした甘さ。
やっぱり何度食べても好きだな~。
……あっ、前と今の記憶がごちゃごちゃになっている。
今の私としては、初めて食べたのに!
「ハハハ、美味しそうに食べるな。おかわりいるか?」
「いえ、大丈夫です。それに、これから森へ行って今日の報告です」
「あっ、そうだ。条件に合う人はいたのか?」
「いましたが、断りました」
「そうなのか?」
「はい。なんだか違和感を覚えて」
「そうか。残念だったな」
「問題ないです。ゆっくり探します」
「そうか。あ~、あのさ、森へ行くなら俺も一緒に行っていいかな?」
ドルイドさんも?
何だろう、期待するような視線を感じるのだけど……もしかして。
「シエルですか?」
「うっ、ごめん。昨日は色々あってゆっくり見られなかったから……許されるなら撫でたいです」
おぉ~、ドルイドさんもやっぱり興味あるのか。
最初のときは驚いていたけど、その後は普通だったから興味がないのかと思っていた。
まぁ、大怪我をしたすぐ後だもんね。
そんな余裕ないか。
「一緒に行きましょう! 門番さんもその方が安心すると思いますし」
今朝の門番さんとのやり取り。
門を通るたびに繰り返されるのかと思うと、心配してくれるのはうれしいがちょっと困る。
なので、一緒に行ってくれるなら、こちらとしてもありがたい。
「門番か。ハハハ、あそこの連中はどうも『自分達が町の子供達を守る』という意識が強くてな」
「そうですね。朝、大変でした」
「アハハハ、成人の15歳を過ぎても心配される奴がいるからな」
「そうなんですか?」
「危なっかしい奴や、見た目が幼い奴、他にもそうだな、無謀な事をしそうな奴かな。1年に1回か2回、門番と子供達が大ゲンカするのはこの町では有名だ。『森に行く!』『保護者と一緒だ!』ってな」
すごいな。
何と言うか、今朝は森に出られてよかった。
もしかしたら、保護者がいないと駄目だと言われていた可能性があるのかな?
……あっ、私は旅の冒険者だから大丈夫か。
「では、行きましょうか」
「あぁ、楽しみだ」
ドルイドさんは本当に楽しみなのか、ちょっとそわそわしている。
私にとってシエルはいつでも会える仲間だから、その感覚が良く分からない。
珍しい魔物だという事も忘れてしまう。
広場を出て森へ向かう。
門番さんもドルイドさんと一緒なので、許可がすぐに出た。
やっぱりスッと通れるっていいな。
しばらく森の奥へ向かって歩いて行く。
ドルイドさんを見ると、視線をあちらこちらへ走らせてシエルを探している様子。
ただ、その探し方では見つからないだろう。
「あの」
「あぁ、ごめん。何?」
「すぐそばに居ますよ」
「えっ?」
私の言葉に周りを見回す彼に、少し苦笑してしまう。
「あの、上です」
「上?」
「はい。シエル、降りてきて」
私の言葉に、足音を一切させずに木の上から降りて来るシエル。
「ぅわ。上にいたのか」
ドルイドさんはシエルが降りてきた木を見つめている。
そんなに不思議な事なのかな?
「かっこいいな」
「はい」
あっ、返事に力がこもってしまった。
でもシエルのかっこよさを、誰かに認めてほしかったんだもん。
私が独占しているなんてもったいないと思うぐらい、自慢の仲間なのだから。
「あっ、ソラ達を忘れてた」
肩から提げたバッグの蓋を開けると、ソラと視線が合う。
なんとなくふくれっ面のような……。
すっかり忘れてしまっていたので、言い訳出来ない。
「え~、ごめんなさい。外に出ますか?」
私が聞くと、勢いをつけてバッグから飛び出してくるソラ。
とっさにバッグを押さえ、中を確かめる。
よかったフレムは無事だ。
見ているとスッと私を見るフレム。
……ものすごく眠そうだな。
「フレム、まだ寝るの?」
少し揺れて、ゆっくりと目が閉じていく。
寝た。
出会った頃のソラより、よく寝ている。
しかも、またよだれが。
「どうした?」
「いえ、フレムが寝てしまって」
「フレム?」
あっそう言えば、会った事はあるけどあの時は私も混乱していたし。
というか、そもそもあの時は名前が無かったな。
「もう1匹のスライムの事です」
「あぁ、フレムっていうのか。……よだれ?」
バッグの中を覗き込んだドルイドさんに、不思議そうに訊かれるが。
「よだれですね」
と答える以外にどう答えろと?
やっぱり気になるよね。
寝ているスライムの口からよだれがタラーって。
ソラの時はこんな事はなかった。
あっ、よく見たら、よだれのシミがバッグに!
「スライムの寝ているところを、初めて見たな」
それはシファルさん達にも言われたな。
やはりテイムしている人ぐらいしか見ないのか。
「にゃうん」
「あっごめん。シエル、旅のお供はまだ見つからなかったよ。今探してもらっているからね」
「にゃうん」
「ぷっぷ~、ぷっぷぷ~、ぷぷぷぷぷ~」
ドルイドさんがシエルの声に驚いて、ソラの声に目を見開いている。
ソラはちょっとドヤ顔。
「ソラ、遊んじゃダメ」
ソラはどうも人の様子を見て、からかう時がある。
「すごい! テイムされたスライムを見た事があるが、ソラの様な子は初めてだ」
ドルイドさんがいきなり興奮しだした。
不意な事だったので、ちょっとビビって体が離れてしまった。
それに気が付いたドルイドさんが、何度か咳を繰り返す。
「悪い。ちょっと興奮してしまった」
「いえ。ソラってすごいですか?」
まぁ、瀕死の人の治療をしてしまうのだからすごい事は知っている。
でも、今の言い方はそれとは違う感じだったんだけど。
「こんなに感情豊かなスライムを見たのは初めてだよ」
感情豊か?
ソラを見る。
……ちょっと胸を張っている。
確かに、珍しいね。