139話 魔物の変化?
町の中へ入ると、どことなく慌ただしい。
不思議に思い、周りを見回していると。
「俺達が襲われたという情報が、流れたんだよ」
ドルイドさんが、周りの状況を教えてくれた。
「それで……」
町の近くで誰かが襲われると、色々な噂が一気に広がる。
襲ったモノが町に来ないかという心配だったり、仕事で門の外にいる家族の心配だったり、襲ったモノは何なんだ等と様々だ。
噂だけならいいのだが、疑心暗鬼が混乱を生んでしまう事があるため注意が必要となる。
「そう言えば、すごい人達と知り合いなんだな。あっ、でもあの組織を潰した関係なのかな?」
「えっと、それもありますね」
やっぱり目立つよね。
それにしても、どうして何も言わずに保証人になっているのだろう?
「もしかして王都か周辺の町に行くのか?」
「はい、一応王都の隣町に行く予定です。なぜ分かったのですか?」
何処へ向かう等の話はしていない。
何か気付かせるような事でも、言ったかな?
「保証人だよ」
「えっ?」
保証人。
勝手に増えていたあれですか?
「王都とその周辺は、町に入る時に入念に調べられるんだが。当たる人によっては、まぁ色々あるんだよ」
色々?
「だが、それだけの人物が保証しているなら問題ないな。すぐに通れるよ」
色々、もしかして言いがかり……とか?
門番がそんな事を?
「不思議そうな表情しているけど、王都に近づけば近づくほど問題のある門番に出会えると思うよ」
「……それは、嫌です」
「ハハハ、アイビーは大丈夫だよ」
……? あっ、保証人か。
「オグト隊長は冒険者の中でも伝説みたいな人だし」
そこまですごい人なのか。
「バークスビー団長は、組織を壊滅させた事で王族関係者と良い関係を築けたようだしな」
そうなんだ。
あっ、そういえば装飾が派手な手紙を見て、ものすごい嫌そうにため息をついていたな。
良い関係?
……まぁ、団長さんなら大丈夫だろう。
「ギルマスのログリフさんも冒険者の時から活躍していて、憧れている冒険者も多いからな」
そうなんだ。
奥さんの事で照れまくっていたギルマスさんもすごい人なんだ。
「3人に喧嘩を売るような馬鹿はいないよ。まぁ、担当した門番の頭が狂っていなければ、大丈夫だよ」
狂うって、すごい説明だな。
それにしても、その為に名前を載せてくれたのかな。
それだったら、言ってくれたら……断るかもしれない。
だって、申し訳ないし。
ボロルダさん達には性格を読まれていたけれど、ギルマスさんや団長さんにも読まれていたのかも。
そうでなければ、内緒で保証人にはならないよね。
今度会ったら、しっかりとお礼を言おう。
「大丈夫だよ? まともな人も多いから」
考えにふけっていると、ドルイドさんが慌てている。
心配そうな表情でもしていたのかな?
「大丈夫です。それよりドルイドさんは今から何処に?」
「あっ……ギルドに行って事情を話さないと駄目だったな」
ギルド?
さっき通り過ぎたような気がするけど。
「なんとなく、アイビーについて来てしまった」
「えっ……お疲れなんですよ。きっと」
「ハハハ、そう言う事にしておいてくれ。アイビーは広場かな?」
「はい、その予定です。場所を取ってから森へ戻ります」
「森にか……大丈夫だと思うが気を付けてくれ。グルバルがまだ近くにいる可能性もある」
そうだ、グルバル!
「あの、どんな魔物なんですか?」
「知らないのか?」
「はい、本で見た事もありません」
「そうか。奴はここ1、2年で強くなって性格が凶暴化したからな、知らない冒険者も多いか」
そんな事があるんだ。
新しい情報をどんどん得ていかないと駄目だな。
覚えておこう。
「グルバルは鼻の先に大きな角があって足はそれほど速くはないんだが、力が強い。襲われた時は、いたる所から来られて逃げ場がなかったな」
鼻の頭に大きな角。
いたる所からって事は群れで動いているのかな?
それとも幸香の臭いにつられて集まってきた?
「群れで行動するのですか?」
「それが生態系も少し変化していて、よく分かっていないんだ。以前は群れてはいなかったんだが」
「そうですか。ありがとうございます」
「いや、でもどちらにしてもあの子よりは弱いよ」
あの子ってシエルの事だな。
といっても、数で来られたら危ないだろうし。
今はソラを守ってもらっているから、自由に動けないかもしれない。
「分かりました。でも心配なので」
「そうか。あっ、これを」
ドルイドさんが持っているバッグから、何かが入っている小袋を3つ取り出し差し出した。
とっさに受け取ってしまったが、何だろう?
「激袋だけど、知っているか?」
「激袋なら知っています」
対象となる物の顔周辺にぶつけると、中から粉が舞うんだよね。
その粉の種類によって効果が違うはず。
袋の口に鼻を近づけてみる。
「あっ、止めた方が良い。ちょっとでも吸い込むと鼻が痛むから」
ドルイドさんの言葉に小袋を持っていた手が止まる。
よかった。
あと少しで吸い込むところだった。
痛むという事は唐辛子かな。
「顔にぶつけたら、逃げる時間が稼げるから。まぁ、数で来られたら逃げられないんだが」
「ありがとうございます。でも、いいのですか?」
「問題ない。すぐ作れる物だからな」
私も作って持っていたけど、切らしているな。
今度しっかり数を作っておこう。
「では、頂きます」
「あぁ、ではまたな。気を付けて」
「はい、ありがとうございます」
ドルイドさんに1つ頭を下げて、広場へ向かう。
少し歩いてから振り返って、彼の様子を見る。
随分と歩くのにも慣れたようだ。
「よかった」
右腕を失くしたので、利き腕だったらと思ったが彼の利き腕は左だった。
なのでちょっとホッとした。
利き腕だったら生活にかなり支障が出てしまう。
ギルマスさんもその事には少しだけ安心していた。
「さて、広場に行って、場所取りしてから森だ」
ちょっとグルバルが怖いけど。
シエルとソラ……そうだ、ソラの事もちゃんと調べないと。
ソラにソラ?
……名前を変えていいか訊いてみよう。
それにしても分裂したのか……分裂か。
まさかずっと増え続けるとかあるのかな?
というか、新しい子も分裂して増える?
ハハハ、ソラ達の先の事を考えるのはやめよう。
怖い怖い。
「あった」
少し先に広場を発見!
このオール町の広場も広い。
出入口が2ヶ所あるけど、何か意味があるのかな?
「どうした?」
広場の出入口から中を見ていると、1人の男性に声を掛けられた。
「はい、出入り口が2ヶ所あるので何かあるのかと思いまして」
「こっちは、3人以上の冒険者チームが多い。あっちは1人か少人数の冒険者チームだな」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「おぅ、といっても特にこっちでも問題ないから自由でいいぞ」
「はい」
男性にお礼を言って、もう一つの出入口へ向かう。
人数の多い冒険者チームの近くは、騒々しい事も多い。
特にお酒に酔って歌いだす人とかいるからな。
広場に入って周りを見渡す。
そう言えば、オール町の広場には管理者はいないようだ。
出入口に誰もいない。
あっ、でも小屋があるから自警団の人は見に来るのかな?
よかった。
テントの件があったから、いてくれると安心できる。
広場を少し歩いて、テントや人の様子を見て回る。
テントの中ではソラを出してあげたい、もちろん新しい子も。
なので、テントを張る場所には注意しないと。
1人旅に見える女性と男性のテントの間に適度な広さがあったので、2人に声を掛けて許可をもらう。
快く了承してもらえたので、テントを張る。
「よし、終了」
中に入って、必要な物だけを1つのバッグに入れていく。
貰った激袋はすぐに取り出せる場所に入れる。
グルバルに出会いませんように。