138話 増えてる!
「すまない。時間がかかってしまったな」
ドルイドさんが申し訳なさそうに謝罪する。
もうすぐオール町へ着くが、彼がゆっくりとしか歩けなかったため思ったより到着に時間がかかったのだ。
「大丈夫ですって、なっ!」
後輩さん達とドルイドさんは、後輩さん達が冒険者になりたての時に出会ったそうだ。
冒険者に必要な事を基礎から教えてもらった事もあり、かなり尊敬している様子。
今までずっとお世話になってきたと、道中ドルイドさんの活躍ぶりを話してくれた。
ドルイドさんは止めていたが、話し好きが1人。
エリドという人で、ずっと話している。
周りは慣れている様子なので、いつもの事なのだろう。
私は初めてなので、正直驚いている。
主にドルイドさんの話が多いが、自分の活躍話に失敗談と次から次へ。
よく、ここまで色々と話題が尽きないモノだ。
「エリド、そろそろ町だ」
声を掛けたのは、3人の中でリーダー的存在のドロさん。
「ん? あぁ、だな」
そう言うと、バッグから何かごそごそと取り出して……。
ごそごそとバッグの中を漁っている。
「エリド?」
「いや、大丈夫。入れたのは覚えているから」
立ち止まってバッグの中を探しているエリドさん。
ドロさんは、大きなため息をついている。
「どうしたんですか?」
「冒険者の許可証だと思う。エリドはよく物を落とす子だから」
「そうですか」
町に拠点を構える冒険者は、冒険者ギルドから専用の許可証がもらえる。
おそらくそれだろう。
まだ、探してる。
それにしても、どうして落し物をよくするエリドさんが持っていたんだろう?
あっ、ドロさんがバッグを奪った。
「はぁ、あの時はかなり慌てていたからな。エリドが持った時に止めなかった俺が悪いが、まさか、また落とすとは」
「落としてない! 絶対ある!」
ドロさんがバッグの中を1つ1つ確認しているようだが、出てこない。
ん?
この場所からは既にオール町の門が見えているのだが、門の所で両手を振っている人がいる。
誰かを呼んでいるのかな?
「あの、呼ばれているのでは?」
「えっ?」
全員が門に視線を向けると、振られていた手が激しくなる。
やはり正解の様だ。
「とりあえず、行くか」
ドルイドさんの声に、ドロさんはバッグの中を探しながら歩き出す。
ただ、もう諦めているように見える。
確か、もう一度許可証をもらう時はお金がいるって聞いたな。
「また、落としたな」
「ハハハ、仕方ないな」
ドルイドさんが苦笑いしている。
ドロさん達の様子から、2回目という事もなさそうだ。
「ドルイド、大丈夫か?」
門から1人の男性が近づいて来る。
熊みたい。
?
くま?
って、前の知識だな。
声に出さなくてよかった。
体のがっしりした髭を蓄えた男性。
一見かなり強面だ。
……いや、ずっと見ていても強面だ。
小さい鋭い目を怖がる人はいるだろうな。
「あぁ、大丈夫だ。それよりどうしたんだ?」
「これだ」
そう言って、1枚の緑のカードをドロさん達に見せる。
その瞬間、ドロさんがちょっと安心した表情を見せた。
もしかして、許可証?
「ありがとうございます。今、探していたんです」
ドロさんが手を出すと、男性はそれを手渡す。
「門を出たすぐの場所に落ちていたよ。今年これで何度目だ?」
男性の呆れた声に、全員が苦笑いだ。
エリドさんだけが、ちょっとばつが悪そうだ。
まぁ、そうなるだろうね。
それにしても綺麗なカードだな。
「おっ、この子か?」
この子?
おそらく私の事だろうな。
で、ギルマスさんが何か言ったのかな?
「初めまして」
挨拶をすると、にこりと笑って挨拶を返してくれる。
ちょっと驚いた。
笑うと印象が変わる。
随分と可愛い……は言い過ぎだが、ちょっと可愛くなる。
「ギルマスから聞いているよ。すぐに許可証を出すからこっちへ来てくれ」
やっぱりか。
ギルマスさんが何を言ったのか気になるな。
聞いて大丈夫かな?
「ギルマスは何を言ったんだ?」
一緒について来たドルイドさんが訊いてくれた。
ありがとうございます。
「ん? ドルイドの事を助けた子が来るから、怖がらせるなって」
怖がらせるな?
「あぁ、なるほど。でもアイビーはお前を見ても怖がっていなかったぞ」
「そうなんだよな。驚いた」
ん?
熊さんみたいな人を怖がる?
あっ、やばい。
無意識に出るな、気を付けないと。
「お前、小さい子にいつも泣かれるもんな。まぁ、見た目がな」
小さい子。
私が少し落ち込んでいると、ドルイドさんと目が合う。
「あっ、悪い。えっと」
「いえ、大丈夫です」
ドルイドさんが慌てて謝る姿に、男性が不思議そうな顔をして振り返る。
「なんだ、どうした?」
「いえ、大丈夫です」
「そうか? こっちだ、ギルマスからは言われているが確認だけはさせてくれ」
「はい」
男性の後を追うと、門の近くにある部屋に入って行く。
続いて入ると、机に棚という簡素な部屋はオトルワ町と似ている。
まぁ、荷物の確認や少し話を聞く程度なので何処も似たような感じになるのだろう。
紙が1枚手渡される。
【名前・出身の町・目的】が書き込める紙だ。
オトルワ町と同じでいいのかな?
名前を書き込み、目的欄も埋める。
ただし、出身の町は書かずに口座の白いプレートを取り出す。
それを見た男性は少し驚いた表情をしたが、棚から石を取り出してきた。
石にプレートを近付ける。
「よし、問題ないな。ん? 保証人の欄すごいな」
保証人の欄?
口座の中身は見られないと聞いたけど、保証人は見られるようになっているのかな?
確かめておくのを忘れたな。
「えっと、ラトメ村のオグト隊長ですよね?」
「ん? それだけじゃないぞ。オトルワ町のギルマス『ログリフ』に、自警団団長の『バークスビー』の名前が載っているが?」
……何をしてくれているんですか!
目立つことはしたくないって言っておいたのに。
「すごい人達の名前が……」
一緒に来てくれていたドルイドさんが驚いている。
「よし、これが許可証だ。無くさないように、この町を発つ時には返してくれ」
「はい。ありがとうございます」
お礼を言うと、頭を撫でられた。
完全に小さい子に対する態度だ。
でも、熊さんだとなんとなく怒る気にならない。
なんでだろう。
見た目?
許可証を受け取り、ドルイドさんと部屋を出る。
部屋の外には3人の後輩さん達。
ドルイドさんを待ってたのかな。
「なんだ、まだいたのか? 町に戻って来たんだもういいぞ」
「本当に大丈夫ですか? 生活とか」
「大丈夫だ。まぁ、少し生活は変わるだろうが問題ない。それよりこれで仕事は終わりだろう? しっかり休めよ」
「はぁ。何かあったら言ってください。協力しますから」
「その時は頼むよ」
3人は気になるのか、ちらちらとドルイドさんを見ながら離れて行った。
本当に慕われているんだな。
ソラが助けたのがこの人で良かった。