137話 幼くはない!
「大丈夫か?」
前を見ると、ガラガラ声のギルマスさん。
少しボーっとしていたようだ。
シエル達がいないのだから、気を引き締めないと。
「はい。大丈夫です」
終わったのかと周りを見るが、冒険者達はまだ作業を続けている。
けっこうな時間がかかるものなんだな。
あっ、そうだ!
「あのっ」
「なんだ?」
「私の事ってどれくらい広まっているんですか?」
多くの人に私の情報が広まっているなら、色々と気を付ける必要がある。
「ん? あぁ、さっきの事か。いや、アイビーの事は全く広まっていないぞ?」
「えっ? でもさっき有名って」
「悪い、俺の言い方に問題があったな。被害が出た村や町の俺達、ギルマスの間で有名なんだ。ギルマスには組織に関する情報と潰すのに貢献した者達の情報が届くんだが、そこに見慣れない名前があったからな。しかも名前以外の情報が、全て伏せられていたから噂になったんだ」
「噂?」
「あぁ、情報が伏せられる事は珍しいから、性別だとか、年齢とか色々と噂が立ったんだ。その中で信憑性の高い噂の1つに子供では? というものがあったんだ。悪い、さっきは少し興奮してしまった」
良かった、特に気を付ける必要は無いみたいだ。
でも、ギルマスさん達には名前が伝わっているのか。
けっこうな数の村や町が被害にあっていたような。
子供という噂は流れたみたいだし。
ん~、純粋に喜べないような。
あれ?
「どうしてギルマスさんは、私を知って……はいなかったですよね。気が付いたんですか?」
名前と子供という噂だけで、気が付くモノなのか?
「俺のところに、組織に手を貸している上位冒険者がいると情報が入ってな。信じられなくて、オトルワ町まで直接話を聞きに行ったんだ。その時に、上位冒険者達と一緒にいる幼い子供の後ろ姿を見かけてな。見た時に似ていると思ったんだが、名前を聞いてもしかしてと思ったんだ」
「なるほど」
おそらく、ボロルダさん達と一緒にいるところを見たのだろう。
そうか、それがあったからギルマスさんは気が付いたのか。
だったら、別のギルマスさんは問題ないかな。
「アイビー、あの組織を潰してくれてありがとう」
スッと視線が合ったと思ったら、ギルマスさんがお礼と共に頭を下げた。
それに驚いて、固まってしまう。
まさか頭を下げられるとは思わなかった。
「ハハハ、驚いているな~」
「……はい、驚きました」
何だか、変な受け答えになってしまった。
「悪い、悪い」
「いえ。でもどうしてお礼なんて?」
「組織の被害にあっていた所のギルマスは、皆お礼を言いたがっているよ」
「そうですか、ありがとうございます」
被害が大きかったって事なんだろうな。
それにしても、私にとってあの組織は既に過去の事なので本当に驚いた。
「アイビーは良い子だな」
まっすぐ目を合わせて言われると、想像以上に照れる。
やばい、顔が熱い。
真っ赤になっているかも。
「ハハハ、その辺りはまだまだ子供だな」
子供?
そういえば、ギルマスさんには何歳に見られているんだろう。
さっき間違いでなければ『幼い子供』って聞いたような気がする。
……すごく嫌な予感がする。
「子供をからかうなよ」
横からドルイドさんの声が聞こえる。
視線を向けると、すこしふら付いているがしっかりと自分の足で立っている彼の姿があった。
少しずつ、体が慣れてきているのかもしれないな。
「悪い悪い。そうだな幼い子供をからかったなんて奥さんにばれたら怒られる」
奥さんがいるのかって違う。
やっぱり幼いがついている!
「あの、私は9歳なので、子供ではありますが幼いと付ける必要はありません!」
あっ、ちょっと声が大きくなってしまった。
だって、幼い幼いって。
ものすごく気になる言葉が耳に付くんだもん!
「「えっ、9歳!」」
ドルイドさんもか……。
「はい。こう見えても、ちゃんと9歳です」
自分で言うのが一番悲しい。
食事の量を増やしたけど、すぐに成長は無理だよね。
毎日、足が伸びるかなって思う運動してるけど……。
大丈夫、焦らない。
ゆっくり成長していく予定だから。
「あ~、悪い。そうか、そうだよな。あんな組織を潰す事が出来るんだから幼い子供には無理だな」
私はいったいどんな表情をしているのか、ギルマスさんが私を見て慌てている。
ごめんなさい、ちょっと過敏になっているだけです。
「ごめんな」
ドルイドさんが、ちょっと困惑しながら謝ってくる。
「いえ、大丈夫です」
成長期はこれからだから。
背を伸ばすのは、やっぱりお肉かな?
「あの~」
救援に来た冒険者の2人が、緊張の面持ちでギルマスさんに声を掛けた。
どうやら仕事が終わったようだ。
被害状況の確認作業は、大変だろうな。
それにしても、どうしてそんなに緊張しているのだろう?
「おぅ。ご苦労」
ギルマスさんの声に2人は頭を下げて、紙を渡す。
紙の内容をさっと目を通して、何度か頷いた。
「問題ないな。遺体の回収も終わったか?」
「はい。出来る範囲ですが」
酷い者もいたからな。
「馬車は?」
「馬を用意して取りに来る手筈になります」
「よし、他は」
「えっと……」
見ていると、ずいぶんと悩んでいる。
やはり、上位冒険者ではない。
どうしてだろう?
セイゼルクさんは救援は上位冒険者が、基本行うと言っていた。
それは持ち込まれた情報が正しいと判断出来ないため。また、駆けつける場所に、まだ問題が起こっている可能性があるためだという。
「自警団への報告です」
「あ~、まぁいいだろう、ご苦労様。帰るか」
「はい!」
ギルマスさんの言葉に、冒険者2人の顔から緊張が取れた。
その様子にギルマスさんとドルイドさんが苦笑い。
……何とも言えない雰囲気だな。
もしかして、何かの試験だったのだろうか?
帰る用意をしだした冒険者達に指示を飛ばすギルマスさん。
ドルイドさんの歩き方を見て、少し眉間に皺が寄る。
「後処理があるから戻るが」
「心配するな。ゆっくり歩いて帰る」
「あ~、誰か呼ぶか? 馬車でもいいが」
「いや、大丈夫だ。慣れるためにも歩いて帰るよ。此処からだと6時間ぐらいだろう」
6時間?
半日ぐらいかかると思ったけど、地図を読み間違えたのかもしれない、気を付けよう。
ギルマスさんはドルイドさんを気にしながらも、仕事のために帰っていった。
ギルマスさんも大変だ。
「ドルイドさん、町まで一緒にいいですか?」
「あぁ、俺は問題ないが、良いのか? 気にしなくて大丈夫だぞ。あいつ等もいるし」
ドルイドさんが視線を向ける先には、3人の冒険者達。
救援隊の後に来た冒険者達だ。
ギルマスさんが心配だから、ドルイドさんと帰ってくるようにと指示を出していた。
「ギルマスさんのペースは、私には速すぎると思って」
「なるほど。だったら宜しく」
ドルイドさんと一緒に、冒険者達の方へ向かう。
彼らも気が付いたようで、こちらに近寄ってくれた。
「先輩、その……」
ドルイドさんの後輩にあたる冒険者だったのか。
「気にするな。しかし休みの日なのに駆り出されたんだな」
ドルイドさんのこの言葉に、1人の冒険者が堰を切ったように話し出す。
「そうなんですよ! ようやくとった休みだったのに。人数が少なくなったためどうしようもないってギルマスが! でも、本当にようやくとれた休みだったんです」
何だかオール町にも色々と事情があるようです。
巻き込まれませんように!
……あっ、幸香。
もしかして既に巻き込まれているような……。