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129話 雷は怖い

空を見上げる。


「雨は降っていないね」


昨晩、厚い雲が(おお)っていたので心配したが、雨は降っていない。

だが、まだ雲が空全体を覆い尽くしている。

風にも湿気を感じるので、降り出す可能性が高い。

小雨ぐらいなら問題ない。

だが、大雨になってしまったら厄介だ。

動物や魔物の匂いが消されるので、森の中での危険度が増す。

しかも、雷という問題も出て来る。


「ぷぷ~」


ソラは、今のところ機嫌が良いようで周りを楽しそうに跳ね回っている。

それを見守っているシエルが、時折空を見上げている。

何か、感じる事でもあるのだろうか?


「シエル、雨が降るとか分かるかな?」


「にゃっ」


今のは、分からないって事だな。

ん~、もう一度、空を見る。

どうにも空を覆っている雲が、雷雲に見えてしまう。


「困ったな」


雷が鳴った場合、木の近くにいるのは危ない。

なので、洞穴や洞窟などを探すのだがこれから進む方角にあるとは限らない。

バッグから地図を取り出し、この辺りを確かめる。

何処かに洞窟などの印がないだろうか?


「ないか。雨だけだったら問題ないんだけど……雷は……」


「ぷっぷぷ~、ぷぷっぷぷ~」


ソラが、ぴょんと地図の上に飛び乗ってくる。


「ソラ、雷が鳴った時の事を考えないと危ないよね?」


町へ進む方向を地図で確かめるが、森が続いている。

岩山などがあれば、もしも雷が鳴ったとしても身を隠せる洞穴がある可能性が高いのだが。


「少しずれるけど、岩山を目指そうか。雷は怖いもんね」


ソラと2人の時に、雨が降り出して雷が鳴った事がある。

急いで安全な場所を探したが、その周辺に洞穴や洞窟などは無く。

やむをえず、小さな木の下に身を隠した。

どんどん近づいて来る雷に恐さを感じていたら、近くの大木に落ちたのだ。

あの時の恐怖は、二度と味わいたくない。

幸いなことに少し離れていたので、影響はなかったのだがソラと2人で飛び上がった。


「ぷ~」


ソラも覚えているのか、雷という言葉にぷるっと体を震わせた。

雷が鳴るかどうかはわからないが、鳴った時の事も考えておかないとな。

少し、町へ行くのが遅くなるけどしょうがない。

何より、身の安全が第一。


「よし、町へ行くには遠回りになるけど岩山の方へ行こうか。此処からだと、1時間ぐらいかな」


岩山に行っても洞穴や洞窟があるとは限らないが、それは仕方がない。

ある事を、祈っておこう。

もしくは雷が鳴らないように、それが一番の願いだな。


荷物を片付けて、少し足早に移動する。

少し歩くと、小雨が降りだした。


「やっぱり降り出したね。ソラ、バッグに戻ろうか」


ソラをバッグに入れて、その上から雨を防ぐマントをバッグから取り出して着る。

これである程度の雨でも大丈夫だ。


「シエル、大丈夫?」


シエルは、小雨程度では気にしないようだ。

何でもないような表情をしている。

強いな。


そのまま歩き続けると、どんどん雨足が強くなる。

そして、(かす)かに聞こえる雷の音。

まだ、遠いようだが鳴りだしてしまった。


「ふ~、あるかな? あってほしいな」


何とか、雷が近づく前に岩山に到着。

ただ、雷から身を隠せる場所があるかどうかは運次第なのだが。

岩の様子を見ながら、移動する。


「あっ!」


見つけた!

少し小ぶりの洞穴。

中の様子を窺うが、生き物がいる気配はない。

洞穴周辺の痕跡も調べるが、特に大型の魔物や動物の形跡も無い。

これなら問題なく使える。


洞穴に入ってマジックライトを灯す。

思ったより奥行きがあって、シエルでも余裕の広さだ。


「いい洞穴を見つけられたみたいだね」


「にゃうん」


ソラがバッグの中でもぞもぞと動いているので、外へ出す。


「ここで雨と雷をやり過ごそうか」


ソラは、興味深そうに洞穴を飛び跳ねている。

声が少し反響するのが楽しいようで、鳴いている声がいつもより大きい。


「ぷっぷ~……ぷっぷぷ~」


シエルは、洞穴の出入り口の近くで体を何度か震わせる。

その度に飛び散る雨のしずく。

けっこう、雨の中を歩いてきたからな。

私もマントだけでは防げなかったので、服がぬれている。

濡れた状態を放置するのは、風邪を引きかねないな。


焚火を起こして服を乾かしたいが、洞穴に風の流れが無いと危ない。

濡れた腕を伸ばしてじっと待つ。

風の通り道があるのか、しっかりと風が流れているのを感じた。

焚火をしても大丈夫そうだ。


マジックライトを頼りに、洞穴の隅にあった木の枝や落ち葉を集める。

太い木の枝もあったので、役立ちそうだ。

細い木だけだと、すぐに火が消えてしまう。


落ち葉を積み上げて、その上に細い木を組んでいく。

よし!

火打ち石をバッグから取り出して、火花を起こす。

洞穴にカチカチと石のぶつかり合う音が響く。


パチパチッ


落ち葉が完全に乾燥してくれていたようで、何度か繰り返すと火を付けることが出来た。

拾った枝も、しっかり乾燥していたので大丈夫だろう。


「ソラ、火は危ないから気を付けてね。シエルも」


「ぷっぷ~」


「にゃうん」


細い木に火が付いたようで、少し勢いが増す。

少し、様子を見たが問題ないので太い木を足していく。


「大丈夫そうだな」


マジックバッグから服と布を取り出す。

頭を拭って、体を拭いて行く。

濡れた服は近くの突き出した岩に掛けておく。

これで、乾くだろう。


「シエル、体を少し拭こうか」


大きめの布を持ってシエルに近づく。

毛を触ると、まだ少し濡れている。

ゆっくりと布で水分を取っていくが、体が大きいので結構な重労働だ。


「にゃうん」


心配そうに顔を見るシエル。


「大丈夫だよ。……よし、これでどう?」


だいたい濡れた所は拭けたはずだ。

シエルも、満足そうだ。


「ぷ~!」


ソラの不満そうな声に視線を向ける。

何故かバッグの近くで、鳴き叫んでいる。

お腹が空いたのだろうか?

でも、まだ早い。

ソラに近づくと、バッグの近くに乾いた布。


「ソラも拭くの?」


「ぷ~」


どうやらシエルだけなのが、ちょっと嫌だったようだ。

何だか我儘度わがままどが増しているな。

ソラの体を布でそっと撫でる。

濡れていないので、必要ないのだが。


「よし。これで大丈夫」


「ぷっぷ~」


火の勢いを調整しながら、お鍋でお水を沸かす。

しばらくすると、外からものすごい雷の音が鳴り響いた。


「ぷ~!!!」


ソラが勢いよくシエルのお腹の下に潜り込む。

やはり前に見た雷の印象が強かったのだろう。

私も正直、無茶苦茶怖い。

体が(かす)かに震えてしまう。


連続でなる雷。

かなり激しく鳴り響いている。

雨足もかなり強いようで、雨の音もひどい。


「洞穴が見つかってよかった。もし、なかったら……」


「にゃうん」


シエルも、そう思っているようだ。

お腹の下に潜り込んだソラを優しく舐めて落ち着かせてくれている。

それにしても、すごいな。


洞穴に響く雷と雨の音。

外の様子が心配になるほどの激しさがある。


「被害が出ないといいけれど」


雨が激しいと、道が通れなくなることがある。

また、雷で火が出てしまうと森から急いで離れないと危ない事もある。

心配だな。


「ぷぷ~」


ものすごくか細いソラの声が聞こえる。

視線を向けると、シエルのお腹の下に潜り込んだ状態で鳴いているようだ。

……いいな、私も隠れたい。

ド~ンと雷が落ちる音が響く中、ちょっとソラが羨ましくなってしまった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大猫の舌で舐められて大丈夫ならソラも結構丈夫になったな
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