127話 出発
「よし!」
テントを畳んで、マジックバッグに入れる。
貰ったマジックバッグは全部で6個。
ボロルダさんが3個、ロークリークさんが2個、ヌーガさんが1個くれた。
皆、予備も含めてかなりの量を持っているらしい。
さすが上位冒険者だけはあるな。
それにしても、正規版のマジックバッグは容量が大きく使い勝手がとてもいい。
今までの荷物が、2つのバッグに全て収まってしまうのだから。
そして、何より時間停止がうれしい。
食べ物を入れても腐らない。
ただ、前みたいにソラを入れないように気を付けないとな。
「すごい」
「だろ? 余った分は予備で持っていったらいいよ。どうせあいつ等もそのつもりだろうし」
ラットルアさんが、テントが設置されていた周辺のゴミを集めてくれている。
その彼からはマジックライトをもらった。
マジックバッグもマジックライトも、この町の近くの洞窟内の魔物を討伐すると簡単に手に入るらしい。
まぁ、上位魔物らしいので私には無理な話だが。
「はい。ありがとうございます」
バッグを肩から提げて、ソラ専用バッグを最後に肩から提げる。
この町に来たときはバッグが5個。
今はマジックバッグ2個にソラ専用バッグが1個。
荷物は増えたのだが、身軽になった。
「ラットルアさん、ありがとうございました」
彼も仕事の準備がある筈なのだが、後片付けを手伝ってくれている。
最後の最後まで、本当にお世話になってしまった。
「こっちは完了」
テント周辺を綺麗にして、広場でやる事も終了。
ラットルアさんが、優しく頭を撫でてくる。
視線が合うと、とても柔らかな笑顔だ。
何度も勇気づけられた表情。
「では……」
何と言えばいいのか迷う。
「またな。良い旅をしろよ」
「はい」
「ただし、無理はしない事。体にも気を付けて」
「はい。ラットルアさんも」
一度深く頭を下げてから、広場を後にする。
広場を出た所で後ろを振り返ると、手を振ってくれた。
手を振りかえして、門へ向かう。
本当に最後の最後までいい人だ。
絶対に、また会いに来よう。
門のところでは、門番さんに別れを惜しまれた。
これにはちょっと驚いてしまった。
森を少し歩いて周りを確認する。
人の気配はしない、少し遠くまで気配を確かめるが問題なし。
バッグからソラを出す。
「ソラ、今日からまた旅だね。よろしく」
「ぷっぷぷ~」
「ふふふ、シエルもね」
近くにシエルの気配を感じたので名前を呼ぶと、木の上からすっと目の前に降りてくる。
相変わらず、身軽だな~。
「よし。行こうか! …………ソラ、そっちだと前に行ったラトメ村に戻る事になるから」
「ぷ~~~!」
いや、怒らないでほしいのだが。
勢いよくピョンピョン跳ねるソラ。
勢い余って思いっきりシエルにぶつかっているが、シエルは気にも留めていない。
体の作りが丈夫なのだろうか?
ソラの体当たりって、最近結構痛いのだが。
「ソラ、遅くなっちゃうし行こうよ」
「……ぷ~」
あっ、不貞腐れちゃった。
そういえば、このところよく不貞腐れるんだよな。
ちょっとした事でも、怒りやすくなっているような気がするし。
……反抗期?
スライムにそんな成長があるのだろうか?
「シエル、今日から次のオール町へ行く道中はずっと一緒にいられるね。よろしく」
「にゃうん」
私の言葉にすりすりと顔をすり寄せて可愛く鳴いてくれる。
ものすごく可愛い。
「ぷ~!!」
ソラのちょっと大き目の声に驚いて視線を向けると、勢いよく腕の中に飛び込んでくる。
慌てるが、何とかソラを抱き留める事に成功した。
良かった、落とさなくて。
腕の中のソラを見ると、私の顔を見てプルプルと小刻みに揺れている。
これは構って欲しい時に見せる態度だ。
不貞腐れているのを放置されて寂しかったのかな?
「ソラも、よろしくね。頼りにしているんだから」
「ぷっぷぷ~」
声のトーンが、機嫌がいい時のモノに変わった。
それに笑って、止まっていた足を動かす。
あまりゆっくりしすぎると、今日の目標の場所までたどり着けなくなってしまう。
ソラはピョンと地面に降りて、周りを跳ねまわっている。
気分がコロコロ変わるのも最近の傾向だな。
何なんだろうな。
……………………
「今日はこの辺りで休もうか」
周りに残されている痕跡を調べていく。
高い所に爪とぎ跡があるかどうか、また地面に大きい足跡などがあるかどうかだ。
それらがある場合は、大きな動物や魔物が来る可能性が高い。
痕跡を探すと小さい足跡はあるが、大きな物はない。
「大丈夫みたいだね」
「にゃうん」
よし!
寝床になる場所を探そう。
「ぷ~ぷぷ~」
少し離れた場所からソラの声がする。
しまった、周辺を調べる事に集中しすぎてソラを見てなかった。
「ソラ?」
ソラの声を頼りに、周りを見て回る。
「ぷっぷ~」
すぐにソラは見つけることが出来たが、その近くには洞窟の入り口らしき穴がある。
洞窟には、動物や魔物がいる事がある為少し慌ててソラの元に駆け寄る。
洞窟の中をそっと窺うが、生き物の気配は無かった。
「よかった~。ソラ、洞窟とか危ないから気を付けないと」
「ぷっ!」
ちょっと自信ありげに声を上げるソラ。
もしかしたら寝床を探してくれたのだろうか?
確かに、洞窟だと思った場所は、少し大き目の穴という感じで寝床にちょうどいい。
穴に入って痕跡を確かめる。
魔物などが寝床にしている可能性があるからだ。
「大丈夫みたいだね。ソラ、さすが!」
「ぷ~!」
やっぱり自信ありげだ。
なんとなく胸を反らしているように見えなくもない。
ただ、あまり変わらないが。
「シエル、今日はここにしようか」
シエルも穴の中を見て回っていたので、問題があれば教えてくれるだろう。
「にゃうん」
問題なしと。
今日は良い場所を見つける事が出来たな。
ソラの手柄だ。
「ソラ、ありがとう。ここ、いい寝床になりそうだね」
ソラに声を掛けると、プルプルと揺れている。
さて、暗くなる前にご飯を食べて寝てしまおう。
ソラの食事用にポーションをバッグから出していると、シエルがグルッと喉を鳴らす。
視線を向けると、穴から外に出ようとしている。
おそらくお腹が空いたので、狩りに行くのだろう。
「いってらっしゃい。気を付けてね」
グルグル。
喉を鳴らして返事をすると、穴から出て行った。
シエルは私たちの前で食事をしたことがない。
離れた所で食べてから、帰って来てくれるのだ。
本当に頭の良い、優しい子だな。
「ソラ、私たちもって……もう、食べているし」
バッグから出したポーションを、既に食事中だった。
どうぞって言っていないのだが。
まぁ、仕方ないか。
干し肉と、森で収穫した木の実と果物をバッグから出して食べる。
時間停止のマジックバッグを持っているので、ちょっと多めに収穫してしまった。
まぁ、食べる量が増えているので問題ないだろう。
これでちょっとは成長できるかな。
やっぱり年齢より小さい子にみられるのは、気になる。
グル
「ん? シエル、お帰り」
ちょっと満足そうな顔のシエルが穴に戻ってくる。
狩りは成功して、お腹は膨れたようだ。
良かった。
それにしても、この干し肉美味しい。
お店それぞれで味が違うのだが、あの肉屋の店主はかなり腕がいいようだ。
人気店になったのは店主の力のような気がするな。