123話 美人?
「ふぅ、それにしてもアイビーの仲間はすごいな」
「だよな。俺もさすがに1人では抱えきれなかった。シファル、助かるよ」
「……はぁ~、まぁ、仕方ないか」
……なんだか申し訳ないです。
私も、シエルだけでなくソラまでそんなすごい存在だとは思わなかった。
ただ今思えば、私の傷を治し瀕死のシエルを救ったのだから気付けたような気もするが。
逃げる事に意識がいっていて、他の重要な事を見過ごしていたな。
気が付けてよかったのだろうけど……。
「そう言えばラットルアは、アイビーに冒険者の奴隷を薦めていたんだっけ?」
「あぁ、旅を続けるならアイビーが狙われる可能性は高い。それを防ぐ意味も込めて冒険者の奴隷を考えている、じゃないな薦めている」
狙われる可能性が高い。
シエルやソラの事を話す前からずっと注意を受けているけど、なんでだろう。
なんとなく女性というだけではないような雰囲気なんだけど。
「私が狙われやすいのは、子供で女性だからですか?」
それだけ?
「……もしかして気が付いていないのか? アイビーって整った顔をしているんだよ。成長すれば美人になると思う」
……美人?
両手で顔を包み込む。
………………えっ! 私って美人になれるの?
「気が付いていなかったんだ」
「だからか。狙われるという話をすると、少し不思議そうな顔をしていたのは」
シファルさんが、なるほどっと言う表情をする。
そんな顔をしていたのか。
というか、美人になれるのか。
……ぅわっ、顔が熱い。
「ハハハ、アイビー照れてる」
「そんな事、言われた事が無いので」
恥ずかしい。
顔が赤くなっているような気がする。
「ハハハ、性格もいいしね」
シファルさんの言葉に、逃げ出したくなる。
美人になると言われて、正直うれしい。
恥ずかしい気持ちが大きいが、うれしい。
だが、狙われやすくなるのは嫌だな。
「う~、熱いです」
顔をパタパタと手で扇いでみるが、落ち着かない。
シファルさんとラットルアさんに、なぜか頭を撫でられた。
「さて、だからこそ守りを考えないとな。危ない連中に、目を付けられやすいはずだ」
ラットルアさんの言葉に、シファルさんが頷いている。
「やはり奴隷が一番いいのでしょうか?」
「俺はそう思う」
ラットルアさんは少し思案したが、やはり考えは変わらないようだ。
でも、シファルさんは少し難しい表情だ。
奴隷に反対なのだろうか?
「ん~、冒険者の奴隷はやめた方がいいかもしれないな」
シファルさんの言葉に、ラットルアさんが驚いた表情をする。
「どうしてだ?」
「ただ守るだけなら冒険者で問題ないと思う。でもアイビーの場合は目立たない事が重要なんだ」
「まぁ、そうだろうな」
確かに目立った場合、ソラとシエルの事がばれる可能性が高くなる。
それは、絶対に避けたい状況だ。
「冒険者の奴隷は確かに護衛としては問題ないが、目立つ要因になりかねない」
「あ~、確かに」
ラットルアさんも何か思い当たったのだろうか、少し顔を歪ませた。
そんなに冒険者の奴隷は、目立つだろうか?
旅の途中で何人か見たことがあるけれど。
……目立つかも、私もついつい目で追ってしまっている。
「それに、護衛になる冒険者ともなると知り合いも多いだろう」
「あっ~、その点を考えてなかった! 確かに知り合いが多い事は守りには良いが目立つ事になるな」
護衛が出来る冒険者ともなれば、それなりの腕を持った冒険者という事か。
でも、そんな奴隷はかなり高いだろう。
私には無理だと思うのだが。
それとも、安いのだろうか?
「あの、冒険者の奴隷って幾らぐらいなのですか?」
「俺よりラットルアの方が詳しいよ」
シファルさんは奴隷についてはあまり詳しくないのかな?
ラットルアさんに視線を向けると。
「だいたい上位冒険者の奴隷だと、5年契約で金貨25枚ぐらいからかな。俺がアイビーに薦めているのも、このくらいの奴隷だよ」
……金貨25枚ぐらいから?
えっ、絶対無理だよね。
そんなお金、持っていないよ?
あっ……謝礼金と懸賞金?
えっと、まさかね……。
「あの、お金って……」
「お金の問題は謝礼金と懸賞金で大丈夫だって」
ラットルアさんが笑って答えてくれるが、顔が引きつったのが分かった。
えっと、謝礼金と懸賞金は金貨25枚?
そんなにあるの?
「奴隷1人だったら余裕だよ。余裕どころか十分残るよ。もしかしたら2人いけるかも」
「……………………はっ?」
えっ、今何か恐ろしい事が耳に聞こえた。
奴隷1人だったら余裕?
つまり謝礼金と懸賞金は金貨25枚以上。
奴隷を買っても、お金が残る……。
2人目も。
「あぅ」
「あっ、アイビーが壊れた」
おかしな声が口から零れたため、シファルさんに笑われた。
だが、それも仕方ないと思う。
私は謝礼金と懸賞金で、多くても金貨10枚ぐらいだろうと考えていた。
それが予測を超える金額だったのだから。
……でも、まだそうと決まったわけではない。
実際に謝礼金と懸賞金がどれくらいなのかは、さすがのラットルアさんでも分からないだろう。
「アイビー、ラットルアの言っている金額は妥当だから」
シファルさんに止めを刺された。
妥当なのか。
「あれだけの組織を潰した最大の功労者だからね。しかも、殺人での指名手配犯の事もある。そうだな、金貨50枚は確実だと思う」
……金貨50枚……
「あっ、え~……。なんだか頭が痛くなってきた気がします」
なんだか、もう何も考えたくないな。
いや、問題解決のため考えないと駄目なんだが。
「話を元に戻そうか」
シファルさんの言葉に何とか頷く。
2人が色々考えてくれているのだから頑張ろう。
それにしても謝礼金と懸賞金って、恐ろしい。
「冒険者の奴隷が無理なら、商人?」
商人の奴隷もいるのか。
今まで冒険者にしか意識がいっていなかったからな。
「ん~、商売か。確かにアイビーなら上手に商売しそうだよね」
「だな。料理とか美味いし。人気店とか作れそうだと思わないか?」
「……人気店にしてどうするんだ。目立つだろ?」
「あっ、そうだった」
シファルさんとラットルアさんが話を続けているが、私はいったいどう見られているのだろう。
商売なんてした事ないから成功は難しいと思う。
料理だって、前の私の助けがないと駄目だし。
「ん~、冒険者の奴隷以外か」
ラットルアさんが頭を悩ませている。
「冒険者以外の奴隷は、探すのが難しいのですか?」
「いっぱいいるよ」
シファルさんのちょっと呆れた声。
「ただし、奴隷になった原因が問題なんだ」
「えっと、問題?」
「冒険者は仕事の失敗が原因で借金を抱えて奴隷落ちする者が多いが、一般人はお酒や賭け事の借金問題で奴隷落ちする者が多いんだ。何度も繰り返す者もいて、こういう奴は駄目だ」
「一番駄目なのはお酒の問題だな。酒が入ると性格が変わる奴もいるし」
奴隷落ちになる原因か。
確かにお酒の問題はすぐに改善する事はないだろうし、私も遠慮したい。
賭け事も癖になると聞いた事があるな。
「他にどんな理由で奴隷落ちになるんですか?」
「ん~、家が商家で事業の失敗の穴埋めのためだとか、治療費のためという話も聞いたことがあるな。ただそういう者達は人数が少なくて人気だから、なかなか巡り合えないんだ」
なるほど、本人以外が原因の奴隷落ちか。
確かにそういう人達の方が、私も良いな。
「王都の隣町に向かうって言っていたよな?」
「はい」
「という事はオトルワ町の隣の町、オール町を通る道筋か?」
「はい」
「あそこの町には有名な奴隷商がある。あそこなら希望の奴隷が手に入るかもしれない」
ラットルアさんは奴隷に本当に詳しい。
何か理由でもあるのだろうか?
「アイビー、ラットルアは1度奴隷落ちした経験があるんだよ」
「えっ!」
シファルさんの言葉にラットルアさんを凝視してしまう。
「昔な、冒険でちょっと無謀な依頼を受けてしまって。知り合いの冒険者が、買ってくれて4年で借金返済は出来たんだけど」
なるほど、だから詳しいのか。
「いい人に買ってもらえるのは運だからな。アイビーなら安心だ」
私のためでもあり、奴隷のためでもあるのか。
ラットルアさんは本当に優しいな。