122話 知れば知るほど
「アイビー、聞いていい?」
ラットルアさんに促されて、止まっていた足を広場へ向ける。
そう言えば人通りが少ないとはいえ、通りだった。
話す場所をもっと考えればよかったな。
「はい」
「星なしって確か全てにおいて力が足りないだっけ? それってテイム出来ないって事だよね? シエルは前から魔力の事が気になっていたんだけど、ソラはテイム出来ているのか?」
全てにおいて力が足りない?
そんな風に言われているのか。
初めて聞いたな。
「シエルは魔力が足りないのでテイム出来ていません。ソラはテイムしています」
「だったら、星なしが間違いなのでは?」
「いえ、ソラって崩れスライムなんです」
「……ぇえ~! あっ、ごめん。うるさかったな。えっ、あの崩れ?」
何だか私が星なしといった時より驚いているな。
そんなにソラが崩れスライムというのが驚きなんだろうか。
「はい。風にも転がされる崩れスライムです。今はしっかりとしてきましたが」
「そうか。普通のスライムより弱いから星なしでもテイム出来たって事か?」
「おそらくそうだと思います」
他に考えられないしな。
ラットルアさんはソラが入っているバッグを見つめている。
そんなに崩れスライムって珍しいのかな?
「崩れスライムってそんなに珍しいのですか?」
「あぁ、スライムの中でもレア中のレア。といっても、すぐに死んでしまうから役に立たないって探す冒険者もいないけど……生きてるね」
「……はい。元気ですよ」
「そうか……あ~、崩れスライムって星なしのテイマー専用なのかな?」
「私もそれは思いました」
「そうだよな。星1つのテイマーでも崩れスライムのテイムは力が掛かり過ぎて死なせてしまう。だからこれまでテイムの話を聞いたことがないんだし。なるほど星なし専用のスライムか。何が出来るか訊いていい?」
「えっと」
どうしようか。
此処まで話したのだし隠してもしょうがないか。
「言いづらい事だったら……」
「いえ、たぶんソラってかなり特別だから」
「ハハハ、人を判断出来るって事だけでも特別だから」
そうだった。
既にやってしまっていたな。
だったらいいか。
決心して、ソラの食事やアダンダラの出会いなどを話す。
途中で、ラットルアさんの表情が険しくなったのでちょっと怖かった。
「アイビー」
真剣な表情と声で名前を呼ばれたので、緊張感が走る。
「はい」
「俺に話してくれてうれしかったけど、これからは基本隠し通す事。話す相手は相当選ぶ必要がある」
やはりソラは特別なのか。
そうだよね、劣化版のポーションをビンまで消化してしまうのだから。
「まさか、重傷者を癒すなんて。それは光のスキルで星を5つ持っている者の力だ」
あれ、そっち?
というか。
「光のスキルってなんですか?」
「知らない? ヒールのスキルは知っているかな?」
「はい。傷や病気を治すかなり珍しいスキルですよね」
「あぁ、光のスキルはそれの上位版だと思ったらいいよ」
ヒールのスキルでもかなりすごいのに、それの上位版?
その星5つの力をソラが持っているの?
えっと……。
「確か光のスキルで星5つって言えば、王に仕える2人が有名だな。というかこの2人以外にいなかったはずだ」
王様に仕える……なんだか、ソラが雲の上の存在になってしまった。
知らないって、ある意味幸せかも知れない。
自分の事を認めてから、周りをゆっくりと見る事が出来るようになったけど。
知れば知るほど……。
「何と言っていいか、分かりません」
「ハハハ、俺も言葉が出て来ないな。まさかソラにそんな力があるとは……。あっ、シエルはテイムしていないって言ったっけ?」
「はい」
「ソラの事を聞いた後だからものすごく訊きづらいんだが、シエルの額にあった印って何?」
「……シエルが自分でソラの印を真似て作ったものです」
私の答えに、変な唸り声を出してラットルアさんが頭を抱えた。
たまたま隣を通り過ぎた人が、奇怪な目で彼を見るが気にしている余裕はないようだ。
ものすごく答えを聞くのが怖い。
「あの、もしかしてすごい事なんですか?」
確かに本には『自然と現れるモノなので、作ったモノだと偽物だとすぐにばれる』とはあったが。
「すごいって言うか、ありえない事かな」
ありえない事か。
ハハハ、問題がどんどん積み上がっていくな~。
「そうとうな力のある者でも、テイムの印を真似る事は難しい。出来てもすぐに崩れてしまうんだ。しかもその部分が焼け焦げるとも言われている」
焼け焦げる!
それは、知らなかった。
「シエルが作った印が崩れるのは見たことがないですし、焼け焦げる事もないです」
「アイビー、シエルの事も内緒だな」
「ですよね」
2人で視線を合わせて、ため息をつく。
問題がありすぎて、もうどうしていいか分からない。
「こうなったらシファルを巻き込むか。いい解決方法を考えてくれるかもしれない」
それは良い考えだと思う。
シファルさんなら、私も大丈夫だと思える人だし。
「アイビー、どうする?」
「巻き込みましょう」
「よし、だったら今から行こう。早い方がいいだろうからな」
「何処にですか?」
「シファルの家だよ。ちょっと歩くけど大丈夫?」
シファルさんの家か、ものすごく興味があるな。
すごくこだわり抜いている家の想像が出来るのだが、どうなんだろう。
「はい。大丈夫です」
「しかし、驚くだろうな。今の話をすると。楽しみだ」
機嫌のいいラットルアさんとシファルさんの家に向かう。
広場を通りこしてしばらくすると、門からこだわりの窺える家が見える。
さすがシファルさんだ。
想像通り。
「ラットルアにアイビー?」
玄関で驚いた表情を見せるシファルさん。
ラットルアさんの顔を見て、眉間に皺を寄せた。
きっと、問題ごとを持ってきたと気が付いたのかも知れない。
「ちょっと話があってな。彼女は?」
「あぁ、別れた」
「なんだ、別れたのか……えっ? 別れた? なんでまた」
「色々と面倒な事を言ってくるようになってね。仕事に口を出されるのはさすがに」
ため息をつきながら首を振るシファルさん。
男女関係は私には難しい。
「まぁ、今日ばかりは丁度いいかな。気付いているだろうけど、アイビーの事で相談だ」
「だろうね。どうぞ」
シファルさんの許しがもらえたので、家に上がる。
棚から椅子から全て纏められている。
それでいて派手過ぎず、落ち着いている。
「座って、お茶持って来るよ」
椅子に座って部屋全体を見る。
やはりシファルさんらしい空間だ。
「お待たせ」
「すみません。急に来てしまって」
シファルさんに頭を下げると、ポンポンと軽く撫でられた。
「ソラも出してあげたら」
「はい」
バッグからソラを出してシファルさんのお家だと説明する。
ソラは周りを見て、ピョンピョンと部屋を一周すると私のもとへ戻って来た。
どうやら満足したらしい。
「それで」
シファルさんに促されてラットルアさんにした話をもう一度話す。
ソラの事を話す時、自分の事を話すより緊張した。
星なしより、光スキル星5の存在の方が狙われやすいと思ったからだ。
「それで……」
あれ?
何でシファルさんを巻き込む必要があったんだっけ?
安全に旅を続けるため?
ソラとシエルは今まで通り人に見られない様にって事で変化はない。
「えっと?」
「あ~、ちょっと混乱したみたいだな。確信犯もいるみたいだが」
「確信犯?」
ラットルアさんを見る。
彼はちょっとばつが悪そうに笑っている。
「ふ~、確かにすごい話だな。ソラは間違いなく光スキルの星5つだ。シエルは大魔法師と呼ばれる魔術師長より魔法に長けている可能性がある」
魔術師長って何だろう。
何だか聞くのが怖いな。
「魔術師長というのは王家が抱える魔法の研究施設のトップの事だよ。魔法の技術で、この人に勝る人はいないと言われている」
シファルさんの言葉に大きなため息をつく。
知りたくなかった。