119話 干し肉で人気店
ソラをバッグに入れて森へ向かう。
「おはよう」
「おはようございます」
連日の事なので、門番さん達に顔を覚えられたようだ。
挨拶だけでなく、ちょっとした情報を教えてくれたりする。
特に森の中の動物や魔物の動きなどは本当に感謝だ。
「今日も狩りか?」
「はい」
「そうか。あぁ、そうだ。洞窟に向かうほうの森に中級の魔物の情報が来ているから気を付けてくれ」
「ありがとうございます」
中級の魔物ならシエルの事ではないな。
どんな魔物なのか分からないが気を付けよう。
しばらく森を進み、人の気配がない事を確かめてからソラをバッグから出す。
「ぷっぷ~」
私の周りをピョンピョンと飛び跳ねて、そしてそのまま森の奥へ。
「ソラ、そっちじゃないよ」
「……ぷ~」
最近気が付いたのだが、ソラは方向音痴だ。
旅の道中ではすぐにバッグに隠せるように、ずっと私の傍にいたから気が付かなかった。
自由に歩かせる? と、とんでもない方向へ行くことがある。
ソラは自分でもその事に気が付いているようで、注意すると不貞腐れたような声を出す。
可愛いのだが、その事を言うともっと不貞腐れるので注意だ。
罠を仕掛けた方向へ歩き出すと、シエルの気配を感じた。
立ち止まってしばらく待つと、木の上からシエルが降りて来る。
「おはようシエル。なんだかすごい大量だね」
得意げなシエルの口には少し大き目のカゴ。
そのカゴは、獲物を咥えて持って来るのは大変だろうと渡しておいた物だ。
それに野兎や野ネズミが、かなりの数放り込まれている。
昨日から罠は私、狩りはシエルと分ける事にしたのだが、かなり頑張ってくれたようだ。
「すごいな。急いで罠の方を見に行こうか」
シエルは口にカゴを咥えたまま、罠を仕掛けた場所へと歩き出す。
何だかその姿は微笑ましい、カゴの中身を考えなければ。
「さてと、どうかな?」
仕掛けた罠の数は16個。
少しは成功しているかな?
仕掛けた罠を1つ1つ確認していく。
あっ、掛かっている。
罠に掛かっている獲物を、持ってきたカゴの中に入れていく。
16個中12個の罠に獲物が掛かっていた。
……おかしいな?
こんなに掛かるかな?
普通は半分に獲物が掛かれば、大量だ。
なのに今日は12個に獲物が掛かっている。
これだとシエルが威嚇した時と同じだ。
……まさかシエルが協力しちゃった?
「シエル、もしかして威嚇してくれた?」
「にゃうん」
この鳴き方は『はい、したよ』って事だよね。
……あれ?
昨日、お願いしたよね。
獲物を威嚇する必要はないからって。
シエルも納得した表情を見せたと思ったんだけど、通じていなかった?
というか、シエルが狩ってきた獲物と合わせると一体どれだけの数になるの?
……これは解体を急がないと。
獲物の入っているカゴを1つ持って、川辺へ急ぐ。
もう1つのカゴは、シエルが咥えて持って来てくれた。
「ありがとう」
数えると、シエルは野兎4匹、野ネズミ7匹。
よくこれだけの数を狩れるよね。
すごいな。
私の方は野兎8匹、野ネズミ4匹。
そして、野バト。
何故か野バトが罠に掛かっていた。
地面に仕掛けた罠に掛かるって、どれだけ運が無いんだろう。
「よし、解体だ!」
野兎12匹、野ネズミ11匹。
さすがに慣れたと言っても数が多すぎる。
しかも、解体2回目の野バトまでいる。
頑張らないと。
「はぁ~、疲れた~」
目の前には大量のバナの葉に包まれた肉。
野バトも今日は無駄を出さずに綺麗に解体出来た……はずだ。
骨もしっかりと手に入れた。
腕を伸ばして、体をほぐしているとごきっと音がする。
自分の体の中から出した音だが、すごいな。
「さて、町へ戻って肉を売ろう!」
シエルとソラは近くの木の傍で寝そべっている。
ソラはまた熟睡中だ。
羨ましいな。
って、鮮度が落ちてしまう。
「シエル、ありがとうね。次は罠を仕掛けても威嚇しないでね。お願い」
「にゃっ!」
これって嫌だって言っているのかな?
「にゃうん」とは言っていないよね。
今は時間が無いから、次の時にしっかりと話し合おう。
「よし……ソラは起きないな~」
熟睡中のソラをバッグへ入れて、お肉の入ったバッグを持つ。
そう言えば、ここ数日異様にソラが寝ている気がする。
気のせいかな?
元気はあるし、よく食べるし。
ただ、寝ている時間が多くなっているだけ?
ん~、今は時間が無いな。
後でゆっくりと考えよう、もしくはラットルアさんにスライムについて訊こう。
「シエル、また後でね」
罠を仕掛けに戻って来るので、その時にしっかりとシエルとは話し合おう。
確かにうれしい結果にはなるが……私の狩りが上達しないからな。
どう言えば、分かってくれるだろうか。
門番に挨拶をして町へ入る。
大通りを進んで、ここ数日お世話になっている肉屋へ。
「こんにちは」
「おぉ~。待ってたよ!」
待っていた?
何かあったのかな?
「どうかしましたか?」
「あれ」
店主が指す方向には空になった棚。
もしかして完売?
「全部売れたのですか?」
「あぁ、今日完成した干し肉を棚に置いて1時間もしない間にな」
「すごいですね」
まだお昼だ。
それなのに売り切ってしまうとは。
話がかなり広まっているという事だろう。
「今日はどうだった?」
「頑張りました」
シエルがそれはもう。
バッグからバナの葉に包まれた肉を取り出していく。
「あの、野バトもいいですか?」
「野バトを狩れたのか。すごいな」
「ハハハ、あの骨も」
「もちろん大丈夫だ。野バトはかなり珍しいからな、高値で売れる」
よかった。
「野バトは180ダル。骨が150ダルでいいか?」
以前は野バトの肉だけで150ダルだったはず。
かなりここでは高いのだな。
「はい。それでお願いします」
「銅板でいいのか?」
「はい。使いやすいので」
「わかった。2300ダルに野バトの330ダル。全部で2630ダルだな」
銅板と銅貨を受け取るとマジックバッグに入れる。
「大量にありがとうな」
「いえ。あの私、そろそろ次の町へ行く事を考えているのですが」
「あ~、そうか」
「すみません」
組織の事も終わったし、そろそろ謝礼金などの問題も解決するだろう。
なので、次の町へ向かう予定にしている。
店主には悪いが。
「まぁ、分かっていた事だ。それに今回の事で決めた事があるからな」
店主がちょっとニヤリとした笑いを見せる。
「なんですか?」
「ハハハ、そんなたいした事ではないんだが、ギルドに依頼を出すことにした」
「肉の確保に? でも、余分なお金がかかるって」
「まぁ、そうなんだが。それ以上に肉が売れるという事が分かってな」
「?」
「冒険者の奴らなんだが、洞窟でうまくいったら俺の店に肉を買いに来るんだよ。それもお祝いだとかでちょっと高めの肉を。店を広めるのに、干し肉は良い材料になるらしい」
なるほど、干し肉を大量に買えた事でお店の印象が良いのだろう。
これって初期投資っていうモノなのかな。
あ~、前の私の知識のような気がする。
「よかったですね」
「おう。坊主が大量に肉を持って来てくれなかったら気付けなかったよ。ありがとうな」
「いえ、安心して旅に出れます」
「寂しくなるな~」
店主の言葉にちょっと驚く。
そんな風に言ってくれるとは。
「まだ、しばらくはお世話になりますので」
「それは俺の言う言葉だな。よろしくな」
「こちらこそ。ではまた明日」
「おぅ、無理はするなよ」
「はい」
店を出て、罠を取りに広場に向かう。
あ~、やばい。
絶対に顔がにやけている。
まさか、あんな風に言ってくれるなんて。
それにしても、干し肉でお店の評判が良くなるとは。
面白いな。
さて、シエルにどう言って威嚇を止めてもらおうかな。
あ~でも、威嚇を止めたら獲物の数がぐっと減りそうだな。
あのお店の状態を考えるとギルドに依頼を出したとしても、すぐには安定した数は手に入らないだろうし。
「店主にはお世話になったし、この町ではシエルに頑張ってもらおうかな」
……そうしよう。
あと少しだし。