1109話 思い当たるのは……
「キャス」
「はい」
ラットルアさんの呼びかけに、ピクリと体を震わせるキャスさん。
そんなキャスさんに、ラットルアさんは微笑む。
「詳しく話を聞かせてもらえるかな?」
「はい」
キャスさんが緊張した面持ちで頷くのを見て、ラットルアさんはランカさんに視線を向けた。
「ランカ、任せていいか?」
「もちろんよ。そうね、ここで話すのは危険だと思うから、場所を移動しましょう。ラットルア達は、先に戻ってくれるかしら」
ランカさんの言葉に、ラットルアさんが頷く。
キャスさんは、ランカさんの提案に安堵した表情を見せた。
「ランカ、頼むな」
お父さんがランカさんのほうを見ると、キャスさんが少し怯えた表情を見せた。
かすかな変化で気にしなくてもいいのかもしれないけれど、私はなぜか少し気になる。
「わかったわ。それじゃ、キャス、それとあなたたち2人も一緒に行きましょうか」
ランカさんがキャスさん達を見ると、3人はそれぞれ頷き、ランカさんと一緒に大通りのほうへ向かった。
「ランカがキャスを問い詰めなかったのは、あれが原因だな」
4人の姿が見えなくなると、ラットルアさんが小さな声で呟く。
「そうだな」
お父さんもキャスさんの何かに気付いたのか、頷いている。
「どういう事? キャスさんに何かあるの?」
2人の会話の意味がわからず、私は首を傾げてお父さんを見る。
「キャスは隠していたけど、怯えていただろう?」
「うん」
お父さんの言葉に、キャスさんの様子を思い出しながら頷く。
キャスさんは、なぜか異様に怯えていた。
とはいえ、よく観察しないとわからないくらいの反応だったけど。
「俺が腕を少し動かした時も、無意識に体が引いていた」
ラットルアさんが私を見て言う。
それには気付いていなかったので、私は少し驚く。
「そうだったの?」
「あぁ、キャス本人も気付いていないかもしれないな。あれは、無意識に自分を守ろうとしたんだと思う」
ラットルアさんが腕を動かしただけで、何かされると思ったのかな?
「子供の頃に何かあったのかもな。ランカはキャスの態度から、彼と話をするなら親しい者が一緒のほうがいいと考えて、相談を受けた時は詳しく聞かなかったんだろうな。あんな相談を受けて、詳しく聞かなかった事が不思議だったけど、キャスを見て納得したよ」
「そうだな」
ラットルアさんの説明に、お父さんも頷く。
「さて、帰るか。それにしても、魔物をおかしくさせる道具か。……嫌な感じだな」
ラットルアさんが嫌そうに言うと、お父さんも溜め息を吐く。
「思い当たるのは魔法陣だよな」
「あぁ、またか~」
お父さんの言葉を聞いたラットルアさんが嫌そうに叫んだ。
「おかえりなさいませ」
玄関に入ると、ドールさんが笑顔で出迎えてくれた。
「ただいま帰りました」
「冒険者ギルドで凄い事があったようですね」
私の傍を歩いているシエルと、シエルの背に乗っているソラ達を見て嬉しそうに言うドールさん。
「はい。沢山の魔物が集まって、凄い事になっていました」
冒険者ギルド内と前を占領していた沢山の魔物を思い出して、思わず笑ってしまう。
あの中にいた時は、テイマーが集まっている事と魔物が沢山いる事に興奮して気付かなかったけど、冷静に考えると、今まで見た事がない風景で面白いよね。
「楽しかったみたいですね」
「はい。王都にはあんなに沢山のテイマーがいたんですね。魔物も大きい子から小さい子までいて、楽しかったです」
「どのテイマーも、自分の子が可愛いと言い張っていたよな」
ラットルアさんの呟きに、お父さんも笑って頷く。
「そうなの?」
私の問いに、ラットルアさんが少し呆れた表情で頷いた。
「そう。冒険者ギルド内にいたテイマー達なんだけど、自分のテイムした魔物のほうが可愛いって言い合っていた。まぁ、可愛い? ……テイマーから見たら可愛いんだろうな。前も思ったけど、テイマーって少し変だよな」
ラットルアさんの言葉に、ドールさんが小さく笑う。
「その言葉、ギルマスさんも言ってたよ」
私がそういうと、ラットルアさんが私を見る。
「もしかしてアイビー、バスカのチョンとイッカクギのデズを可愛いと思ったのか?」
「うん。可愛かったよね」
「…………そうか」
どうして納得できないという表情で頷くのかな?
「ヒスさんとミミーナさんに甘えるチョンとデズは、凄く可愛いと思う」
私の断言に、ラットルアさんが困った表情をする。
「テイムしている事を知らないと、襲っている風にしか見えないと思うけどな」
「えっ?」
そうかな?
ん~、まぁ、そう見えなくもないか。
「あっ、納得した」
ラットルアさんが私の様子を見て、楽しそうに言う。
「アイビーとシエルが寝っ転がって遊んでいるのを見た時、アイビーが襲われているのかと思った事があったな」
「にゃっ」
お父さんの言葉に、シエルがお父さんを見て不満そうに鳴く。
「いや、すぐに遊んでいる事には気付いたぞ」
少し慌てて話すお父さんに、私は思わず笑ってしまう。
「にゃ?」
シエルは「本当に?」という雰囲気を出して首を傾げる。
「本当に本当。まぁ……慣れるまで、何度も焦ったけどな」
「にゃ!」
尻尾を少し激しく降るシエル。
お父さんは、少し不機嫌になってしまったシエルの頭を撫でる。
「ごめん。上位魔物のアダンダラについては、知らない事が多いから、色々不安だったんだよ」
「……にゃうん」
まるで「しかたないな」という風に鳴くシエルに、お父さんは嬉しそうにもう一度シエルの頭を撫でた。
「フォリーがお菓子を用意しています。休憩をいたしましょうか」
お父さんとシエルの様子を見ていたドールさんが、私達を促すと、食堂へ向かう。
食堂にある椅子に座ると、ドールさんがお菓子の載ったお皿をテーブルに置く。
「どうぞ。今日はまだ少し暑かったので、果実水にしました」
「ドールさん、ありがとう」
果実水を受け取り一口飲む。
9月に入って暑さも落ち着いたけど、今日は暑さがぶり返したので、冷たい果実水がおいしい。
「そういえば、隣町にも不穏な空気があるみたいですね」
ドールさんがそういうと、お父さんとラットルアさんが驚いた表情でドールさんを見る。
「情報は「速さ」と「正しさ」が命ですよ」
ラットルアさん達を見て微笑むドールさん。
「その顔、怖いですよ」
ラットルアさんの指摘に、ドールさんは神妙な表情をする。
「それは失礼いたしました。ですがおかしいですね。人に好感を持っていただける笑みを研究し、最適だと思う笑みを浮かべている筈なのですが……」
ドールさんが自分の頬に手を当てる。
「あ~、普通は気にしないというか、好感を持つと思いますよ。俺は、色々見てきた冒険者なので」
ラットルアさんが呆れた表情で言うと、ドールさんが納得した表情で頷く。
「そうでしたね」
「というか、笑い方を研究したんですか?」
ラットルアさんが少し困惑した表情で聞くと、ドールさんが頷く。
「はい。仕事柄、必要でしたので」
「笑い方まで研究するなんて、執事は大変な仕事なんですね」
私の言葉に、ラットルアさんがなんとも言えない表情をし、ドールさんは優しげに微笑んだ。
「ドールさん、隣町の情報をいただけますか?」
お父さんの問いに、ドールさんが真剣な表情で頷く。
「今、集めているところです。ある程度集まったら、知らせますね」
「お願いします」




