1100話 冒険者達の情報
―冒険者ギルドでアイビーに手を振った上位冒険者のダッド視点―
冒険者ギルドの奥へ向かう一団を見ていると、チーム仲間の一人であるバーグが傍に来た。
「ダッド、おはよう。あれ? 今、冒険者ギルドの奥に行ったのって、アダンダラをテイムした子?」
「あぁ、そうだ」
ようやく魔物が暴走した後の処理も終わり、王都の冒険者ギルドも落ち着いたと思ったが、またひと騒動起こりそうだな。
少し前、捨てられた大地から暴走したリュウが溢れた。
そしてそのリュウの強い魔力にあてられて、森にいた魔物達が大混乱を起こして暴走した。
暴走した一部の魔物達が王都を襲い、王都を守る門は破壊。
上位冒険者達と騎士団が一丸となって対応したが、その場にいた全員が、王都が大きな痛手を負うと覚悟した筈だ。
でも暴走したリュウは落ち着きを取り戻し、捨てられた大地へ戻ったらしい。
そこで何が起こったのか、冒険者ギルドからの詳しい報告はなかった。
ただ、リュウが影響を受けたのは魔法陣ではないかと、上位冒険者達の間で噂になった。
またその日、上位冒険者試験を受けていた子のテイムしていた魔物が、リュウと戦ったのではないかやその魔物がアダンダラだったなど、様々な噂が飛び交った。
冒険者ギルドの情報と噂から、何が起こったのかおおよその予想は出来たが、それ以上は考えるのを止めた。
俺は、不吉な魔法陣には関わりたくないからな。
「前も思ったけど、かわいい子だよな」
仲間の呟きに不審な目を向けると、バーグは慌てて首を横に振った。
「別に変な意味はない。娘もあんな時代があったなって思ってさ」
「あったか?」
こいつの娘は幼い頃から、父親に対して結構厳しい態度だった気がする。
「あるに決まっているだろう。まぁ、短かったけどな。あの子は早くから、母のような冒険者になると言って頑張っていたから」
その気持ちを汲んで、両親でしっかり鍛えたんだよな。
「おはよう、バーグ、ダッド」
少し聞きづらい声に視線を向けると、もう一人のチーム仲間であるイーダが眠そうな表情で傍に来た。
「おはよう、イーダ。眠そうだな。それに声がおかしいぞ」
「徹夜だったからだ。昨日から馬鹿騒ぎしているあいつ等は、今日もうるさいな」
イーダとバーグが、冒険者ギルドの職員に詰め寄られている冒険者達を見る。
「そうだな」
「アダンダラの話を聞いて、愚かな考えを持つ者が出るとは思ったけど本当に出たな」
呆れた表情で冒険者達を見るイーダ。
「早かったよな」
同じような表情でバーグが言う。
「だったら、本当にテイムしているのか証拠を見せろ!」
「「「……はぁ」」」
あまりに呆れた言葉に、俺達から溜め息が零れる。
周りを見ると、俺達と同じ感想を持った冒険者達が呆れた表情をしていた。
「それで、奴らが言っている噂の出所は?」
イーダを見る。
徹夜という事は、噂を調べたんだと思うんだけど……。
「誰が言い始めたのかは、半日調べたくらいではわからなかった。でも噂を広めたのは、カシム町、カシメ町、カシス町から来た一部の冒険者達だ。飲み屋や食事処で、かなりあくどい噂が広まっていた」
「そうか」
イーダの説明に頷く。
アダンダラをテイムした子供が王都にいると噂が流れた。
その噂に隣町にいた冒険者達は「噂が本当なら、アダンダラに会ってみたい」と、王都に集まって来ている。
純粋に会いたいと思っているだけならいいが、身勝手にも子供がテイムした事に不満を持った冒険者がいたんだろうな。
王都にも、あの子がアダンダラをテイムした事を信じようとせず、悪い噂を流した冒険者がいたよ。
あれ……そういえばあいつ等を最近見ていないような……。
俺が気にする事じゃないな。
うん、触れない方がいい。
おそらく不満を抱えた冒険者は、王都でテイマーの悪い噂を聞いたんだろう。
そして、不満を晴らす為に、聞いた悪い噂に色を付けてあちこちにばらまいたってところか。
性根の腐った奴らがしそうな事だな。
「でも噂を流した奴は、何がしたいんだろうな?」
バーグの問いに、イーダが嫌そうな表情をする。
「上位魔物3位のアダンダラだからな、手に入れたいと思った冒険者がいてもおかしくはない。ただ、今流れている噂からは、テイマーの信用を落としたいのか、追い詰めたいのか、その辺りは不明だけどな」
噂は、人を追い詰める手段の1つだ。
噂の的になった者の信用を落としたり、周りに不信感を持たせたり。
簡単に取れる手段であり、広まると厄介な攻撃方法だ。
イーダの答えにバーグが首を傾げる。
「アダンダラを手に入れたいと思うのは冒険者だけではないと思う。金持ちの商人や貴族も手に入れたいと思うんじゃないか?」
「確かにその通りだな。商人や貴族だったら厄介だな」
バーグの言葉に眉間に皺が寄る。
貴族が動いているとなると、冒険者に出来る事は……。
「今回は動けるだろう」
イーダを見ると、楽しそうに俺達を見て笑った。
「どういう意味だ?」
俺の言葉にイーダは少し目を見開いた。
「お前、忘れているのか? 貴族法が変わっただろう? 商人も貴族と手を組んだ場合は、貴族法が適用されるし」
「「あっ」」
イーダが俺達の反応を見て溜め息を吐く。
「俺もすっかり忘れていたな」
「俺もだ。でも本当に新しい貴族法が適用されるのか?」
近くにいた俺達より若い冒険者達から小さな呟きが聞こえた。
「大丈夫だと思うぞ。フォロンダ公爵が目を光らせているみたいだから」
俺が声を掛けると、若い冒険者達が俺に視線を向ける。
「あの方なら信用出来るな。もし、今回の事に貴族が関わっているなら……」
「うん」
若い冒険者達の会話に、イーダが興味を惹かれたのか視線を向ける
「どうするんだ?」
イーダの問に、冒険者達が顔を見合わせて頷く。
「しっかりと対応しないといけないですよね」
確かにその通りだ。
貴族法が変わったのだから、今までとは違うのだと思わせないといけないだろう。
「だいたいあのガキは、アダンダラと一緒にいないじゃないか。テイム自体が嘘だったんだろう」
「まだやっていたのか」
冒険者の暴言に、バーグが呆れた表情をする。
「俺達は中位冒険者なので森の奥には行けなかったんですけど、森の奥で片付け作業をした知り合いの上位冒険者達が、テイマーとアダンダラが一緒にいたところを見たそうなんですよ。すっごく仲が良かったって言っていました」
羨ましそうに呟く若い冒険者に、俺は思わず微笑んでしまう。
「俺達は見たぞ」
イーダの言葉に、中位冒険者達が驚いた表情をする。
「嘘、羨ましい……」
森の片付けか。
上位冒険者達の配置を見たけど、あれは確実に誰かの思惑で決まっているよな。
というのも、あの子が片付けている場所の傍には、裏仕事の経験があり、場数を踏んだ口の堅い上位冒険者だけが選ばれていた。
しかも、通常なら一度決まったメンバーは入れ替わらないのに、今回はかなり入れ替わりがあった。
確かに魔物が出た事で、やむを得なかった面もあるけど、それにしては入れ替わりが多すぎた。
おそらく、問題ないと判断された上位冒険者達に、あの子とアダンダラの様子を見せる為だろう。
「あの、凄く仲が良いと聞いたんですけど、本当でしたか?」
中冒険者の問いに、俺達は顔を見合わせると頷く。
「あぁ、かなり仲が良かったぞ。アダンダラがテイマーに寄り添って助けていたからな」
イーダの言葉に、俺とバーグが頷いた。
冒険者ギルドの誰かの思惑通り、彼らの様子を実際に見た上位冒険者達は全員が納得しているからな。
「お前達、羨ましいと思うのは良いが、愚かな考えは持つなよ。アダンダラを怒らせたら恐ろしいぞ」
バーグの言葉に中位冒険者達が頷く。
「わかっています。俺達はテイマーではないですし、そもそも……アダンダラですよ。テイムされていると言っても最強のアダンダラ。遠くから様子を見られれば満足です」
普通はそう思う筈なんだけどな。
どうして「欲しい」とか「自分の方が」なんて思えるのか疑問だ。
「あっ」
イーダの声に彼が見ている方を見て、小さく息を呑む。
「ひっ」
「こわっ」
中位冒険者達も、ギルマスの恐ろしい表情を見たのか、小さな悲鳴を上げた。
「本気で切れてるな」
バーグの言葉に、全員が頷いた。




