116話 狩り?
朝食を食べ終わると、セイゼルクさん達は慌ただしく広場を後にした。
今日はかなり忙しそうだ。
何事も起こらなければいいなと思いながら、森へ行く用意をする。
町の様子も気になるが、仕掛けた罠の状態も気になる。
とりあえず、罠を見て掛かっている獲物がいたら解体して売る!
「ソラ、行こうか」
ソラがぴょんと跳ねて、腕の中に飛び込んでくる。
また~っと思いながら必死な思いで受け止める。
……はぁ、よかった。
腕の中ではソラがプルプルと揺れている。
なんとなくソラに遊ばれているような気がする。
ソラってこんな性格だったのかな?
かなりのマイペースなのは知っているけど。
「ソラ……焦らせないで!」
怒っても、プルプルと揺れるだけで気にした様子もない。
軽くため息をついて、ソラを専用のバッグに入れる。
ナイフなどが入っているバッグを肩から提げて、反対側の肩にソラを入れたバッグを持つ。
よし、準備完了。
テントから出て周りに視線を向けると、いつもなら既に広場を後にしている上位冒険者の姿がちらほら見える。
今日、何かがあると気が付いているのだろう。
少し緊張した面持ちだ。
軽く深呼吸して広場を後にする。
町へ行くと、やはり昨日よりピリピリした空気が流れている。
何が起こるのか分からなくても、自警団の動きなどで異変を感じているのだ。
その様子に、少し早足になりながら門へ向かう。
「おっ、出かけるのか?」
門番をしているのは、以前副団長さんの使いで来たアリバスさんの愚痴を止めてくれた人だ。
「お疲れ様です。森へ行こうと思っています」
「そうか。気を付けてな」
「はい。ありがとうございます」
手を振ってくれているので、軽く頭を下げて森へ向かう。
あの人がいなかったら、アリバスさんの愚痴がいつまでも続いた可能性があるもんね。
途中で止めようとは思ったんだけど、何処で切って良いのか分からなかったし。
あの時のアリバスさんを思い出して笑ってしまう。
ものすごく必死な表情だったもんな。
「アリバスさんには悪いけど、ちょっと表情の変化が面白かったんだよね」
森を少し歩くとシエルの気配を感じた。
また、木の上から様子を見てくれているのだろうな。
そのまま、森の奥へ向かって歩く。
人の気配は感じない。
今日は、森へ入っている冒険者も少ないようだ。
立ち止まるとスタッと上からシエルが降りてくる。
「シエル、おはよう」
……あっ、ソラをバッグから出すのを忘れていた。
慌ててバッグからソラを出す。
「ぷっぷ~!!」
ちょっと怒っているようだ。
「ごめんね」
ソラに向かって謝ると、少しじっと私を見てプルプルと揺れた。
雰囲気が優しくなったので許してくれたのだろう。
ソラの雰囲気の変化は、少しだけ分かるようになった。
といっても、まだそれほど区別はつかないのだが。
「さて、罠の結果を見に行こうか!」
ソラを促すと、ピョンピョンと森の奥へと突き進んでしまう。
その後を急いでついて行く。
……あれ?
こっちであってる?
「ソラ、こっちだったっけ?」
私の言葉にピタリと動きを止めるソラ。
そのまま、じっとしている。
もしかして本気で間違えたのだろうか?
ふふふ、……可愛い。
「えっと、シエル。罠の場所って何処だったかな?」
シエルはグルルルと喉を鳴らすと、ソラをぱくりと咥えて方向を変えて歩き出す。
咥えられたソラはじっとそのままの状態だ。
その姿に吹き出しそうになるが、耐える。
「あっ、ここだね。ありがとうシエル」
シエルの後をしばらく追うと、罠を仕掛けた場所に着くことが出来た。
周りを確認してホッとする。
大型の魔物や動物の足跡はないみたいなので、罠が壊される事はなかっただろう。
ソラはシエルに放してもらったようで、私の周りを何事もなかったようにピョンピョンと跳ね回っている。
突っ込みたいけど止めておこう、可哀想だからね。
それに、絶対拗ねるだろうし。
「さて、掛かってるかな?」
仕掛けた罠は10個。
どれだけ掛かってくれているかな?
1つ1つ罠を見て行く。
「……なんで?」
全ての罠を見たが、何も掛かっていない。
おかしい。
この辺りは野兎や野ネズミの足跡がいっぱいだった。
1つぐらいには掛かっていてもいいはずなのに。
仕掛ける場所を間違えた?
もう一度周りの足跡や痕跡を確かめる。
「何だろう? 新しい足跡が少ない。何かあったのかな?」
ん~、残念。
夕飯にするどころか売りに行く事も出来ないな。
「はぁ~、なんでだろう。シエル、分かる?」
シエルを見ると周りを見回している。
何かあるのだろうか?
一緒になって周りを見回してみるが何もない。
シエルとは見ている物が違うのだろうか?
「シエル、どうしたの?」
声を掛けると、すっと動いて少し森の奥へ移動してしまう。
何だろうと見ていると。
「フ~、シャー!」
「ぅわっ!」
シエルがいきなり威嚇の声を上げたので、小さな悲鳴をあげてしまった。
次の瞬間、周りからガサガサという音と野兎や野ネズミが慌てて走り回る姿が目に入る。
「えっ? 何?」
野兎と野ネズミは少しの時間走りまわり、しばらくすると何処かへ隠れてしまった。
この周辺にこんなに居たんだね。
ん?
目の隅に1つの罠が目に入る。
近付くと、2匹の野兎が罠に掛かっている。
これは、もしかして。
もう一度全ての罠を見て行く。
10個中8個の罠に野兎と野ネズミが掛かっている。
「なるほど、巻き狩り猟?」
シエルをみると、なんだか自慢げだ。
威嚇1回でこれほどの効果が出るとは。
それだけ、アダンダラって小動物には脅威なんだね。
すごい混乱状態だった。
あれ?
罠を仕掛けた後に動きが無かったのは、もしかしてシエルの気配を感じてって事は……。
えっと、あり得るよね。
怖い気配を感じたから様子を見て動かないって事。
シエルを見る。
罠にかかった野兎を見て、尻尾が嬉しそうに揺れている。
これは、何も言わない方がいいかな。
でも、これからはどうしようか。
ん~、罠を仕掛けて、2、3日様子を見る方法に変えるしかないか。
それでも駄目なら……そうなってから考えよう。
今は解体しないと。
「シエル、ありがとう。解体頑張るね!」
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
えっと、何気に問題が増えていっているような気がするな。
まぁ、何とかなるよね。
でも、毎回巻き狩り猟って事にはならないようにしたいな。
罠を持って川辺に向かう。
川辺では、すぐに解体の準備に取り掛かる。
ナイフに肉を包むバナの葉だ。
「さてと、がんばろう。シエルとソラは、ゆっくりしていてね」
シエルは木陰で寝そべり、そのお腹の辺りにソラが突進している。
相変わらずの関係性だな。
野兎と野ネズミの解体は随分と数をこなしているので、それほど時間を掛けずに終わらせることが出来た。
綺麗に血を拭ってバナの葉で1つ1つ包んでいく。
ナイフを綺麗に洗って布で拭いて完了。
さて、血の匂いにつられて魔物や動物が来る前に移動しよう。
まぁ、シエルがいるのでそれほど急がなくても襲われないような気もするが。
「お待たせ。シエルごめんね。解体が終わったから町へ戻るね」
「にゃうん」
ソラは……熟睡中っと。
そっとソラを抱き上げるが起きる様子はない。
この子、大丈夫かな?
ちょっと心配になるけど、きっとシエルがいて安心しているのだろう。
バッグにソラをそっと入れて肩から提げる。
「シエル、ありがとう。今日は……」
町の様子がどうなっているのか分からない。
約束して、これなかったら嫌だな。
「明日、また会いに来るね」
「にゃうん」
頭をそっと撫でると、目を細めて気持ちよさそうな表情をしてくれる。
これがとっても可愛い。
「さて、行くね」
今日も途中まで一緒に町へ向かってくれた。
本当に優しい子だと思う。
さて、町はどうなっているかな。
ちょっと不安だ。