1098話 相談?
皆が夕飯を食べ終わると、ランカさんは真剣な表情になった。
「シファルが少し話したけど、今日、冒険者ギルドに行ったら中位冒険者から相談を受けたの。名前はキャス。テイマーよ」
中位冒険者のテイマーから相談?
「知り合いの冒険者なのか?」
お父さんの質問に、ランカさんは首を横に振る。
「シファル達は関わった事がないみたい。ただし私は冒険者ギルドの職員をしていたから、知り合い……顔見知り? くらいの関係だわ。今まで個人的な話はした事がないのよ。ドルイドは、名前に聞き覚えはない?」
ランカさんの説明に、お父さんが首を横に振る。
「アイビーはどう?」
「ないです」
テイマーのキャスさんは、初めて聞く名前だよね。
「それで相談内容なんだけど、『テイムしている魔物の様子が少しおかしいんです。ランカさん達と一緒に行動しているテイマーがいると思うのですが、何か知りませんか? それと、テイムしているアダンダラに変化はありませんか?』って言われたの」
「シエルに変化? ないと思うが、アイビーはどう思う?」
ランカさんの説明が終わると、お父さんが私を見る。
「いつもと変わらないよ」
今日のシエルを思い浮かべるけど、特に気になるところはない。
「ソラ達はどうかしら?」
「ソラ達も、いつも通りだと思う」
今日も朝から沢山食べて、庭で思う存分遊んでからお昼寝をして、私が夕飯を食べに来る前にお腹が空いたと言ってきたら、沢山ポーションと剣、それにマジックアイテムを用意していきた。
きっと今頃は、お腹がいっぱいになって熟睡していると思う。
……なんだか、羨ましい生活をしているような気がする。
「そう、問題ないのね」
ランカさんは私の答えを聞くと、ホッとした表情をした。
「はい」
「ラットルア達は心配ないと言ったんだけど、私とはまだちょっとしか関わっていないから心配になっちゃって」
それは仕方ないよね。
これから付き合っていけば、シエルの面倒見がいいところを沢山見られると思うな。
「魔物の様子がおかしいって、どんな風におかしいんだ?」
「キャスの話だと、良い関係を築けていた筈なのに、最近は威嚇をされる事があるそうだ」
お父さんの問いに、ヌーガさんが答える。
「威嚇なら……キャスさんの事を敵だと思ったのかな? もしくは怖がっているのかな?」
威嚇は「攻撃的」と「防御的」な時に出るものだよね。
でもキャスさんという人は、良い関係を築けていると言っているし……どういう事だろう?
「何か思い当たる事はある?」
ランカさんの問いに首を横に振る。
「ないですね」
「キャスという人物に問題はないのか?」
お父さんがランカさんを見ると、彼女は少し困った表情をした。
「わからない。これまでの付き合いでは、彼の性格までは知るすべがないから」
顔見知り程度ではそうだよね。
「キャスがどんな人物なのか調べようと思って、彼と親しい冒険者とテイマーに連絡を入れているの、数日以内に返事が来ると思うわ」
親しいテイマーがいるんだ。
「キャスはどうして私達に相談したのかしらね。本当に悩んでいるなら、親しいテイマーに聞けばいいのに」
確かに、そうだよね。
「誰かに相談するように強要されたとか?」
シファルさんの呟きに、皆が首を傾げる。
「テイムしている魔物が、テイマーを威嚇するって相談して、誰が得をするんだ?」
お父さんの問いに、シファルさんが肩を竦める。
「得をする人物はわからないが……この中で狙われるとしたら……」
ヌーガさんが言葉を止めて私を見る。
「私?」
「うん。アイビーというか、アダンダラを狙っている可能性だな。子供がテイム出来るなら、俺だって出来ると考えた奴がいてもおかしくないだろう」
ヌーガさんの話に首を傾げる。
シエルを狙っているとして、キャスさんの話にどうつながるの?
「アイビーとシエルの関係を壊そうとしているのかな?」
ラットルアさんの呟きに、お父さんが眉間に皺を寄せる。
「もしかして、アイビーの不安を煽ろうとしているという事か?」
私の不安を煽る?
「私がシエルに不安を感じるって事? もしかして、シエルが何時か私に威嚇するかもしれないって?」
私が唖然と呟くと、お父さんが困った表情をする。
「おそらく。ただ、シエルが狙われている前提だけどな」
「シエルが私に威嚇したら……私を逃がそうとしているとか、シエルに何か問題が起きて近付かないようにしていると考えると思うけど……」
だって、シエルが意味もなく私を威嚇するとは思わないから。
「アイビーとシエルはしっかりと絆が出来ているから、そう考えるよな」
お父さんの呟きに私は頷く。
「でも、アイビーとシエルの関係を知らない者は多い。おそらく一般的な関係だと思っているだろう」
お父さんの言葉に首を傾げる。
一般的な関係?
「私とシエルは一般的な関係ではないの?」
「魔力をシエルにあげていないだろう?」
私の呟きにお父さんが答える。
「あっ、そうだ」
シエルだけじゃなくソラ達にも魔力をあげた事がないから、一般的とは言えないんだった。
「キャスの年齢は?」
「16歳よ。本人が言っていたから間違いないと思う」
お父さんは、ランカさんの答えを聞いて少し悩む。
「16歳なら……自分の力くらいは把握しているよな? 彼のテイマーのしての力は?」
「普通ね」
テイマーの普通ってなんだろう?
「テイマーの普通って?」
あれ?
ラットルアさんも知らないの?
「『普通』というのは、ギルド内で使われている言葉なの。下位魔物と中位魔物をテイムしているテイマーは『普通』。上位魔物をテイムしている時は『注目』。警戒が必要な魔物の場合は『特殊』に分けられているの。だからアイビーはギルド内では『特殊』ね」
アダンダラだから警戒されているんだろうな。
「レアな魔物をテイムしているテイマーは?」
シファルさんの問いに、ランカさんが苦笑する。
「そのまま『レア』よ。あっ、アイビーの場合は『特殊』と『レア』ね。でもこれ、王都の冒険者ギルド職員達だけで通じる言葉だから」
そうなんだ。
「キャスがシエルを狙っている可能性はないのか? キャスに会った皆の印象は?」
お父さんの問いに、ランカさん達は顔を見合わせる。
「正直、シエルを狙っているようには見えなかった」
シファルさんの返答に、ラットルアさんが頷く。
「俺もシファルと同じ意見だ」
「少し怯えた様子に見えなかったか? ただ、あれが何かに怯えているからなのか、彼の性格からくるものなのかわからないが」
「確かに、怯えていたように気がするな」
ヌーガさんの言葉に、シファルさんが頷く。
「やっぱりキャスがどういう人物なのかわからないと、答えは出ないわね」
ランカさんがそういうと、私を見た。
「ヌーガが言ったように、シエルが狙われているかもしれないわ。アイビーは必ず誰かと行動を共にしてくれる?」
「はい」
今も誰かと一緒だから、それは大丈夫だよね。
「とりあえず、少し様子見だな」
「キャスと別れた後、テイマー達と一緒にいる魔物の様子に変化がないか聞いてほしいと冒険者ギルドに依頼を出してきた。明日か明後日には返答があると思う。他にも異常があるなら、テイマー全体の問題だからな」
「えっ、いつの間に?」
シファルさんの言葉に、驚いた声を上げたランカさん。
「……冒険者ギルドに依頼を出したと、報告したぞ」
「あれ?」
呆れた表情をしたシファルさんに、ランカさんがそっと視線を逸らす。
「シエルの様子を思い出していたから……聞き逃しちゃったみたいね」




