1097話 お父さんの報告
「ただいま」
「お父さん、おかえり」
夕飯を食べに食堂へ行くと、お父さんが帰っていた。
「お父さん、未来視に会ってきたの?」
私の問いに、お父さんが頷く。
「あぁ、少しだけど話せたよ」
「そっか」
お父さんの前の椅子に座り、お父さんの様子に首を傾げる。
どうしたんだろう。
ちょっと落ち込んでいるように見える。
「あら、ドルイド、帰ってきていたの? おかえり~」
何かあったのか聞こうとすると、ランカさん達が食堂に入ってくる。
「ただいま」
「フォロンダ公爵の用事は未来視の事か?」
シファルさんがお父さんの隣に座ると問いかける。
「あぁ、そうだ。アイビーにも言ったけど、少しだけ話せたよ」
「少しだけ?」
お父さんの答えに不思議そうな表情をするラットルアさん。
「年配の方で、長く話せなかったから」
「そうか」
ラットルアさんが私の隣に座ると、ドールさんが皆の夕飯を並べてくれた。
「ありがとう。いただきます」
ランカさんが待ちきれないとばかりに料理を食べ始める。
「「「「「いただきます」」」」」
「忙しかったのか?」
ランカさんの様子を見て、お父さんがシファルさんに聞く。
「冒険者ギルドに行ったら、中位冒険者から相談を受けたんだ。あとで話があるから、時間を取って欲しい」
シファルさんの言葉にお父さんが頷く。
「わかった」
「それで、未来視とどんな話をしたんだ? アイビーの事は聞けたのか?」
シファルさんがお父さんを見ると、お父さんは少し困った表情をした。
「アイビーが捨てられた大地の奥へ行く方法は、フォロンダ公爵が聞いてくれたんだが、わからなかった。未来視が見たのは、捨てられた大地へ入って行くところと、森の奥へ辿り着いたところだったそうだ」
「そうなんだ」
お父さんの言葉に、ちょっと残念な気持ちで頷く。
それだと、どうやって森の奥へ行ったのかわからないね。
何かヒントがあればいいなと思ったんだけどな。
「アイビー」
「何?」
お父さんを見ると、食べるのをやめて真剣な表情をしていた。
「捨てられた大地へ行くのは、アイビーや俺達以外にもいるようだ」
「そうなの?」
「あぁ、他の冒険者達が捨てられた大地へ入って行くのを未来視が見ていた」
私達だけじゃないんだ。
「その冒険者達は森の奥へ行けたのかな?」
「それはわからない。見えたのは捨てられた大地へ入って行くところだけだったそうだ。でも、未来視は、意味のない未来は見ないそうだから、その冒険者達も重要なんだろう」
「そっか」
未来視が見た、他の冒険者達か。
もしかしたら彼らが森の奥へ行く未来もあるのかな?
だって、未来はちょっとした事で変化すると言っていたから。
「他にはどんな話をしたの?」
ランカさんが、ヌーガさんが持っていたお肉料理が載ったお皿を奪いながら、お父さんに聞く。
「ランカはもう食っただろう」
「ヌーガは肉ばかり食べ過ぎ! アイビーがまだ食べてないでしょ。それに、ヌーガは野菜もちゃんと食べないと駄目でしょ」
ヌーガさんがランカさんの行動に文句を言うと、ランカさんは野菜料理をヌーガさんの前に置く。
「食べなさい」
ランカさんを見たヌーガさんは、諦めた様子で溜め息を吐くと、目の前に置かれた野菜料理を食べ始めた。
ランカさんは満足げに頷くと、お父さんへ視線を向けた。
「未来視達は、10年くらい前まで、教会側が勝つ未来を見ていたそうだ」
「「「「「えっ……」」」」」
お父さんの話に全員の手が止まる。
「そうなのか?」
シファルさんの問いに、お父さんが頷く。
「あぁ。ただ、さまざまな要素が重なって大きく変化した。その変化の1つを担ったのが、教会に利用されていた占い師達みたいだ」
お父さんの話を聞いて、幼い私を助けてくれた占い師を思い出した。
もしかしたら、彼女の行動も未来を変えたのかな?
「占い師達は、自由が利かない状態でも教会と戦っていたんだ」
教会と戦っていた?
あの占い師も?
「そうだ。フォロンダ公爵の先祖に、アイビーと同じ存在がいた」
「「「「「……はっ?」」」」」
お父さんの話の意味がわからず、ちょっと戸惑ってしまったけど、私と同じ存在って何?
「前世の記憶があるのか?」
ヌーガさんの呟きに、「あっ」と小さな声が漏れる。
「そうか、前世の記憶だ」
「うん」
お父さんが肯定すると、シファルさんがお父さんを見る。
「未来視がフォロンダ公爵の先祖を知っていたという事は、その人も重要な人だったのか?」
「冒険者ギルドを作った人だそうだ」
お父さんの返答にシファルさんが目を見開く。
「それは重要な人だな」
シファルさんの呟きに、皆が頷く。
「冒険者ギルドがなかったら、なんて考えたくないわよね。絶対に貴族や金持ち達に、利用されまくっていただろうから」
ランカさんが嫌そうに言うと、ラットルアさんも嫌そうに頷く。
「冒険者ギルドがあっても、貴族共は色々と言って来ていたからな。まぁ、王様が変わって、貴族法が大きく変わったお陰で、大人しくなったけどな」
「貴族法?」
「そう。前も貴族法はあったんだけど、それは『貴族が何しても守ります』みたいな法だったの」
冒険者達が見つけた証拠や証言は、裁判で採用されないと聞いた事があるな。
「でも新しい貴族法は『犯した罪は、しっかり償え。貴族は平民の模範にならなければならない。それなのに罪を犯したのだから、一般より罰が重くなるのは当たり前』みたいな法に変わったの」
ランカさんの説明に、私は思わず笑ってしまう。
「凄い変わりようだね」
「そうでしょ? しかも、冒険者が捜査に加わる事も認められたし、冒険者を妨害した場合も罪になるのよ。王様、凄く頑張ってくれたと思うわ」
ランカさんが嬉しそうに言うと、ラットルアさんも満足そうに頷いていた。
「お父さん」
「どうした。ごちそうさまでした」
夕飯を食べ終わったお父さんは、お茶を飲むと私を見た。
「フォロンダ公爵の先祖って、どんな方だったの? 聞いた?」
私の問いに、お父さんは少し困った表情になった。
もしかして、聞いたら駄目だったのかな?
「フォロンダ公爵は、残っていた日記から判断したらしいんだけど『口がもの凄く、本当にもの凄く悪くて豪胆な女性』だったそうだ」
「えっ、口が悪い……女性?」
お父さんの説明に、ポカンとしてしまう。
そんな私を見て、お父さんが笑う。
「俺と同じ反応だな。俺も聞いた時に、そんな感じだったよ」
仕方ないよ。
だって、口が悪いなんて言葉が出てくると思わなかったから。
「フォロンダ公爵がアイビーに前世の記憶があるかもしれないと思ったのは、王都で焼きおにぎりが流行ったからだそうだ」
えっ、焼きおにぎり?
「先祖が残した日記に、焼きおにぎりという言葉が載っていたそうだ」
そうだったんだ。
「流行ったわねぇ。安いこめであんなにおいしい料理ができるのかって話題になって、専門店も出来たわよ。今は、『丼物』が人気ね」
ランカさんが頷きながら言うと、ラットルアさんが首を傾げる。
「焼きおにぎりの専門店は今もあるのか?」
「ないわ。丼物がすぐにその地位を奪ったから。丼物の方が、色々と種類が多いからね」
ランカさんとラットルアさんの会話を聞きながら、王都の大通りを思い出す。
そういえば、丼物を扱っている店があったかも。
私の中で丼物は普通に料理の1つだったから、気にならなかったな。
「アイビー」
「何?」
お父さんを見ると、少し困った表情をしていた。
「お茶漬けがどんなものかわかるか?」
お茶漬け?
「フォロンダ公爵が、どんな料理なのかアイビーに聞いてほしいと言っていたんだ」
もしかしてフォロンダ公爵の先祖の人が残した日記に載っていたのかな?
「温かいご飯にお茶を掛けて食べる料理だったと思う」
こめが手に入った時に、思い出した料理の1つだ。
「こめにお茶?」
お父さんの呟きに頷く。
「うん、濃いめに味付けした肉や野菜を温かいご飯の上に少し載せて、お茶をかけてたと思う」
確か、そんな感じだったよね?




