1089話 木の魔物の情報
「そんな話は聞いた事がないが……」
お父さんが不思議そうにアートンさんを見る。
「そんな事を言っていたのは、俺の師匠だけでした。それに師匠も、土魔法を使う先輩に聞いたと言っていて、信じていたかどうかは分かりません」
真意は全く分からないって事か。
「俺は初めて聞いたな」
ミンガさんの呟きに、オッズさんとハグルさんが頷く。
「あれ? ドルイドさん?」
お父さんに声を掛けた男性のほうに視線を向けると、森の中に果樹園を持っているオトガさんがいた。
彼の傍には、果樹園を守る専属冒険者のガターさんとマルマさんの姿もある。
「オトガさん、お久しぶりです。果樹園は大丈夫でしたか?」
「大丈夫でした。でも、果樹園の真横を興奮した魔物が何匹も通り過ぎた時は、ヒヤッとしました」
オトガさんの説明に、ガターさんとマルマさんが何度も頷く。
「そんな事が……オトガさん達が無事で良かったです」
「本当ですね。それより、今日も何かあったんですか?」
オトガさんが冒険者ギルドを見渡すと、お父さんを見る。
「木の魔物がノースを襲ったそうです」
お父さんの説明を聞いたオトガさんが納得した表情で頷く。
「あぁ、縄張り争いですか」
「えっ? オトガさんは、木の魔物が土の中を縄張りにしていると知っているんですか?」
お父さんが驚いた表情でオトガさんに聞く。
ランカさん達も驚いた表情で、オトガさんに視線を向けた。
「知っているというか、考えれば分かるでしょう?」
オトガさんの言葉に、ランカさん達は首を傾げる。
「えっと、木の魔物は土の中を自由に動き回っています。だから、土の中が縄張りだと思っていたんですけど……」
「土の中を自由に?」
シファルさんが呟くと、オトガさんが彼を見る。
「あっ、『炎の剣』の皆さんも一緒でしたか? あれ?」
オトガさんがシファルさんを見ると、嬉しそうに笑う。
そして周りを見て首を傾げた。
「あぁ、リーダーが変わってランカになったんだ」
シファルさんが、オトガさんにランカさんを紹介すると、彼は小さく頭を下げた。
「オトガさん。見つけた!」
オトガさんを呼ぶ方に視線を向けると、ギルド職員の女性が走ってきた。
「オトガさん、前に木の魔物が土の中から出てきて、また入っていくのを見たって言っていたわよね」
ギルド職員は、オトガさんの肩を掴むと、少し大きな声を上げる。
「はい。何度か見た事がありますよ。でも、それがどうしたんですか?」
「ノースの巣が襲われて、二四匹のノースが木の魔物によって死んだ事が確認されたんだけど、どうしてだと思う?」
「えっ? 自分達の縄張りから追い出したんだと思いますけど……」
ギルド職員の勢いに、オトガさんが困った表情を浮かべる。
「ちょっと、落ち着いて」
その様子を見ていたランカさんは、オトガさんを守るようにギルド職員の腕を掴んだ。
「いたっ、あれ? ランカさん?」
「そうよ。とりあえず、落ち着いて。彼から手を離して。痛がっているわ」
「あっ、ごめんなさい」
ギルド職員は、オトガさんの肩から慌てて手を離すと彼に向かって頭を下げた。
「大丈夫です」
オトガさんの様子にホッとしたギルド職員は、ランカさんに小さく頭を下げた。
「ありがとう。木の魔物まで暴走したのかと思ったけど、人は襲っていない。でもノースは大量に死んでいるし。もう、何がなんだか……」
ギルド職員が疲れた表情で呟くと、ランカさんが彼女の肩を軽く叩いた。
「木の魔物を森の中で見たけど、暴走している様子はなかったから安心していいと思うわ」
ランカさんの言葉にパッと表情を明るくするギルド職員。
「本当ですか?」
「えぇ。今日の作業が終わって王都に戻ろうとした時、二匹の木の魔物と遭遇したんだけど、異常な様子はなかったわ」
ランカさんが傍にいたシファルさんを見ると、彼はギルド職員に向かって頷いた。
「そう。良かった」
大きな溜め息を吐くギルド職員にランカさんが笑う。
「かなり疲れているわね」
「魔物が暴走した日から、ずっと休みなしなんです! もう、本当に疲れてます。ランカさん、戻って来ませんか?」
「戻りません」
ランカさんがきっぱりと断ると、ギルド職員は少し拗ねた表情を見せた。
「先輩が冷たい」
ギルド職員の呟きに肩を竦めたランカさんは、オトガさんを見た。
「そんな事より、木の魔物の情報を集めているんでしょう? オトガさんを連れて行って話を聞かないといけないんじゃないの?」
「あっ、そうでした!」
ギルド職員がハッとした表情をすると、オトガさんに向かって頭を下げた。
「すみませんが、木の魔物について聞きたい事があるので、付いて来てもらっていいですか?」
オトガさんは、ギルド職員を見て少し困った表情をする。
「木の魔物について知っている事は、それほど多くないですよ。森に長くいると、色々見るので、それを話すくらいになりますが」
「それで十分です。お願いします」
勢いよくオトガさんの手を掴むギルド職員に、ランカさんは溜め息を吐いた。
「ほら、力が入り過ぎ。タナーは握力が強いんだから」
ギルド職員はタナーさんというのか。
「アートンも、師匠から聞いた事を話してきた方がいいんじゃないか?」
「えっ、俺もですか?」
ミンガさんの提案に、アートンさんが首を傾げる。
「もしかして、木の魔物について、何かご存じですか」
アートンさんの傍に寄るタナーさん。
その勢いに、少し背を反らしながらアートンさんが頷く。
「でも、師匠に聞いた事ではありますが、本当なのかは俺は分かりませんよ」
「大丈夫です。真意については、私達が調べる事なので」
タナーさんの言葉に、アートンさんがホッとした様子で頷いた。
「それでは一緒に来てください」
タナーさんに促されて、オトガさんとアートンさんがギルドの奥へ向かう。
それを見送っていると、ガターさんが私を見た。
「アイビー、そろそろ秋の収穫が始まるんだ。果樹園に遊びに来ないか?」
秋の果物は魅力だけど……。
「ありがとうございます。でも、森の後片付けをする仕事があるので、少し無理だと思います」
私の言葉に、ガターさんが首を傾げる。
「森の後片付けは上位冒険者の仕事だと思ったけど……あれ? 冒険者になったのか? それも上位冒険者?」
「はい。私は今、上位冒険者です」
私の答えを聞いたガターさんが驚いた表情をする。
「凄いな。おめでとう」
ガターさんの隣にいたマルマさんが嬉しそうに笑って言う。
「ありがとうございます」
「でも上位冒険者は今、凄く忙しいよな」
「はい」
残念そうに言うと、マルマさんが少し考え込む。
「分かった。仕事が終わったら、果樹園に来てくれ。待ってるよ」
「ありがとうございます」
「シファル達もな」
ガターさんがそう言うと、シファルさん達が笑って頷いた。
「そろそろ落ち着いてきたわね」
ランカさんの言葉に、ギルド内を見渡すと、慌ただしく動き回っていたギルド職員の数が減っていた。
「ミンガ、ドルイド。報告に行きましょうか」
ランカさんがお父さんとミンガさんに声を掛けると、2人は頷き報告へ向かった。




