表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/1142

115話 想像以上に危険だ

「あの、ラットルアさん。私まだ奴隷を持つとは言っていませんよ」


朝食用スープに野菜と一口大に切ったお肉を入れて煮込んでいく。

味付けはさっぱりと塩味ぐらいでいいかな。

今日の夜はこってりだったし。


「ん? 知っているけどさ、いい人がいたら紹介したいって思ったから」


「はぁ」


「団長に話を訊いたら、組織とどこまで関わっていたのか調べて問題がないと分かるまで契約は出来ないって。しかも今いる奴隷は全て他の町や村に移動させるって!」


ちょっと興奮気味のラットルアさん。


「アイビーの旅のお供を作る予定だったのに」


いつの間にか彼の予定に組み込まれているようだ。

それに驚きだ。

しかし全部駄目というのは奴隷が全て移動するという事を言っていたのかな?

さっきは混乱して、ラットルアさんの言葉を反芻してただけなんだよね。

それにしても無茶な事はしないと思うが、ある日「はい。決定!」とか言って奴隷が連れて来られそうな雰囲気だ。

……ちらりとラットルアさんを見る。

えっと、ここでしっかりと止めておいた方がいいよね。

でも、どう言えばいいのかな。


「あの……」


「こら、ラットルア! アイビーの意見を聞いていない状態で暴走するな!」


セイゼルクさんが、ラットルアさんを叱ってくれる。

ありがとうございます。

心配してくれているのは分かっているので、何と言っていいのか分からなかった。

とはいえ、奴隷はちょっとな。

なんとなく忌避感があるんだよね。

ん~、どう話して分かってもらうべきか。

困った。


「でもセイゼルク! アイビーが1人で旅を続けるのは絶対に危ない。これからの事を考えたら絶対必要だって!」


ん?

これからの事を考えたら絶対に必要?


「まぁ、安全を考えたら必要だろうけど。だからと言って無理やり考えを押し付けるのは駄目だろう」


え?

セイゼルクさんも?


「あの……これからの事を考えたら絶対に必要ってどうしてですか?」


『えっ!』


えっ?

セイゼルクさんとラットルアさん以外の人達も驚いた表情で私を見る。

どういう事?


「アイビー、えっと話しづらいんだけど。前に言った言葉覚えているかな? 成長すると誤魔化せなくなるよって」


成長すると誤魔化せなくなる。

確か、男の子に変装するのは無理があるって話だったはず。


「はい」


「それが原因。どうしても女の子の1人旅は狙われるから」


ラットルアさんが、声のトーンをちょっと落として答えてくれる。

なるほど、女の子の1人旅だから狙われやすいって事か。

それにしても今の反応……全員、私が女だって気が付いているのか。

やっぱり誤魔化し通すのは無理だったか。

少しの関わりぐらいだったら今はまだ大丈夫だろうけど。

長く一緒にいるとばれてしまうんだろうな。

そう言えばラットルアさんが、私は女顔だって言っていたような……。


「やっぱり無理ですかね?」


「諦めた方がいいと思うよ」


シファルさんの言葉に大きくため息をついてしまう。

そうか。

無理か。

まぁ、私も年齢通りに成長したいと思っているしな。


「シエルは良い護衛にはなると思う。だけど、逆に人の注目を浴びてしまう可能性も高い。それに町や村には連れて入れないしな」


ラットルアさんの言葉に頷いてしまう。

シエルは強い魔物だから、護衛として活躍してくれる。

でも、アダンダラと言う珍しい魔物のため注目も浴びてしまうだろう。

注目されるのは避けたい。

テイムしていないことがばれてしまう可能性がある。


「シエルを手に入れるために、アイビーをどうにかしようと考える奴も出てくる可能性もある」


う~、考えたら怖いな。

でも、シエルは仲間だから一緒にいたい。


「森の中でも人に会わないように気を付けます」


「そうだな、自分をしっかり守れるようになるまではその方がいいと思うよ」


シファルさんの言葉に周りも頷いている。

自分を守れるように……それってどうやって?

戦うスキルなんて持っていない。

頑張って小型ナイフの扱いぐらいは覚えたけど……解体用だしな。


「ね、だから護衛として奴隷を考えたんだ」


ラットルアさんの言葉になるほどと思う。

確かに今の私、かなり危ないのかも。

とはいえ、誰かを雇うとなるとお金……あっ、今回の事で問題ないって言っていたっけ。

忘れていたな。


「ちゃんと考えます」


忌避感だけで反対するのは駄目だな。

本気で心配してくれているのだから、私も真剣に考えないと。

成長すると女性として見られてしまう。

誤魔化すのが無理ならどうするか。

シエルは人に見られると注目を浴びてしまう。

ソラを見られるのも、駄目だよね。

……あれ?

なんとなく問題が増えているような気がするのは気のせいかな?


「まぁ、謝礼金と懸賞金のことがあるからまだ当分この町にいる事になるし。ゆっくり考えたらいいよ」


ボロルダさんが、お茶を入れて渡してくれる。

お礼を言って一口飲む。

温かさに、体から力が抜ける。

そうだ、焦ってもいい答えは出ないよね。

ゆっくり考えよう。


「まぁ、それより明日だな。アイビーはどうする? 明日は何処かに行く予定でもあるのか?」


セイゼルクさんが、明日の朝食用スープを味見しながら聞いてくる。


「味見にしては多くないですか? 明日は罠の様子を見に行く予定です」


「美味しいよ。罠? あぁ、そう言えば野兎用の罠を作っていたっけ。珍しい狩りをするよな」


罠を仕掛ける狩りはやはり珍しいのか。

前も言われたもんな。


「掛かっていたら解体して売りに行きます」


「売るのか? 食べないのか? 前に野兎の焼いたヤツ、美味かったんだが」


ヌーガさんが、残念そうに聞いてくる。

それに、リックベルトさんが呆れた表情をしている。


「えっと、いっぱい狩れたら夕飯で出します」


「期待している」


何だろう、ものすごい重い期待が寄せられたような気がする。

これは、明日は少しでも狩れたら夕飯にした方がいいのかな?


「アイビー、売りに出して余ったヤツでいいからな。ヌーガの事は気にするな」


ボロルダさんが、ヌーガさんを軽く叩きながら言う。

シファルさんもヌーガさんを睨んでいる。


「分かりました」


売りを優先して良いようだ。

というか、ヌーガさんが不貞腐れている。

ふふ、可愛いな。


「アイビー、明日は町の様子に注意してくれ。もし危険を感じたら詰所に避難してほしい」


「ギルマスにも話しておくから冒険者ギルドでもいいぞ」


ボロルダさんとセイゼルクさんの言葉にちょっと緊張する。

明日は、町の人達にとって大変な日となる事は間違いない。

それがどう作用するか。


「分かりました。危ないと感じたらすぐに避難させてもらいます」


「あぁ、大丈夫だと信じたいがな。こればっかりはな」


ボロルダさんが肩をすくめる。

ファルトリア伯爵が捕まる衝撃が町の人にどう影響するか、彼らにも予測が出来ないようだ。


「上位冒険者達は異変に気が付いているようだな」


ロークリークさんの言葉に、広場に集まっている彼らの様子を見る。

自警団のピリピリした雰囲気を感じとったのだろう。

何かが起こると予想して、いつもより多くの冒険者達が広場に集まっていた。

飲みに行っている人達も少ないようだ。


「まぁ、自警団と俺達が動き回っていれば何かを感じるだろう。感じられない奴は駄目だな」


セイゼルクさんが苦笑いで、飲んで帰ってきて騒いでいる集団に視線を向ける。

ボロルダさんも呆れた表情なので、討伐隊などの隊を組むときの参考になるのだろう。

異変を感じる事は、冒険者にとっては命に関わる重要な事だ。

異変を感じられない冒険者に、仕事は任せられない。


「さて、そろそろ明日のために休むか」


ボロルダさんの言葉に、それぞれテントに戻って行く。

私も、体を拭くためのお湯をもらってテントに戻る。

テントの中ではソラが既に寝ていた。

絞ったタオルで体を拭いて、寝巻にしている服を着る。

明日か、何もないといいな。

ソラの隣に横になるとソラがそっと寄り添ってくる。


「ふふ。おやすみ、ソラ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い。みんな良い人、素敵な人達で心が温まる。 [気になる点] アイビーが頑固な点。9歳の女の子一人旅で、今までにも危ない目や怖い目にたくさんあってるのに、みんなが心配して必要って言ってく…
[気になる点] あれ?お昼頃に副団長に会いに行く約束すっぽかしてしまいましたね。
[気になる点] 拒否感より忌避感の方が気持ちいい気がする 拒否感ってあんまり使われない気がするのだけれど、私だけかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ