1088話 木の魔物とノース
「あっ、増えた!」
ミンガさんの呟きにつられて木の魔物に視線を向けると、さっき枝を振ってくれた木の魔物の隣に、新たな木の魔物が姿を見せていた。
「ぎゃっ」
木の魔物の声が聞こえると、ミンガさんが緊張した表情で私を見た。
「襲ってくる合図じゃないよな?」
「えっ? 違いますよ。あれは……ただの鳴き声です」
どうして鳴いたのかは分からないけど、シエル達が焦っていないから大丈夫だと思う。
「そうか」
「ぎゃっ。ぎゃっ」
「にゃうん」
「ぎゃっ」
「にゃうん」
木の魔物の鳴き声に答えるようにシエルが鳴くと、アートンさんが驚いた表情を見せた。
「魔物の種類が違うのに、会話が出来るんですね」
「木の魔物もアダンダラも頭がいい魔物だからだと思うぞ」
アートンさんの呟きに、お父さんが答える。
「何を話しているのかしら? すっごく気になるわ」
ランカさんが木の魔物とシエルを交互に見て、私を見る。
「アイビーは分かる?」
「いいえ、私も分からないです」
私もすっごく気になるんだけど、まったく分からない。
「そっか。でも、嫌な雰囲気ではないわよね」
「はい。ちょっと楽しそうですよね」
「えっ?」
シエルと木の魔物の様子を見て応えると、ランカさんが驚いた声を上げた。
ミンガさん達も、首を傾げてシエルと木の魔物を見ている。
「それって、どこで分かるの?」
ランカさんの問いに、シエルと木の魔物を見る。
「シエルも木の魔物達も、鳴き声が弾んでいますし、楽しそうな雰囲気じゃないですか?」
「「「「「…………」」」」」
ランカさんとミンガさん達が、何度もシエルと木の魔物を交互に見て首を傾げる。
「シファル、あなただったら分かる?」
ランカさんの問いに、シファルさんが苦笑する。
「雰囲気が悪くない事は分かるけど、鳴き声は分からない」
えっ、そうなの?
「アイビー」
お父さんを見ると、ポンと頭を撫でられた。
「何?」
「その感覚は、おそらくシエルと繋がっているから分かるんだと思う」
「そうなの?」
テイマーとしてシエルと繋がっているから?
ガサガサ、ガサガサ。
木が揺れる音に木の魔物へ視線を向けると、2匹の木の魔物がこちらに向かって枝を振っていた。
「ここでお別れみたい」
2匹の木の魔物に手を振ると、枝の振り方がちょっと激しくなった。
「まぁ、テイムしていない、しかも初めて会った木の魔物の感覚まで分かるのは不思議なんだけどな」
「んっ? お父さん、何?」
小さな呟きが聞こえたのでお父さんを見ると、お父さんは首を横に振った。
「木の魔物も帰ったし、俺達も戻ろうか」
「うん」
木の魔物と別れて王都に向かう。
シエルを見ると、尻尾が楽しそうに揺れていた。
王都に着くと、そのまま冒険者ギルドへ向かう。
「何か……慌ただしくない?」
冒険者ギルドに入った瞬間、ランカさんが呟く。
「また何か、あったみたいだな」
ミンガさんが嫌そうに言うと、オッズさんが溜め息を吐いた。
皆で冒険者ギルド内を歩きながら、冒険者達の話し声に耳を傾ける。
「今度は木の魔物が出たらしいぞ」
「しかも数体だろ?」
近くにいた若い冒険者達の会話に、皆の足が止まる。
「木の魔物が何かしたのか?」
ハグルさんが、青い髪の若い冒険者に声を掛けると、彼は少し驚いた様子で頷いた。
「はい。木の魔物が数体現れ、その、巨大化したノースを襲ったそうです」
「えっ、ノースを襲った? 木の魔物が?」
ハグルさんが驚いた表情で確認すると、若い冒険者が何度も頷く。
「はい。噂では、数十体のノースが木の魔物によって倒されたそうですよ」
さっき見た木の魔物を思い出す。
ノースを襲ったあとだったのかな?
「そうか、話してくれてありがとう」
「いえ、では失礼します」
ハグルさんがお礼を言うと、若い冒険者は小さく頭を下げ、冒険者ギルドを出て行った。
「木の魔物が他の魔物を襲うなんて初めて聞いたんだけど、ミンガ達は聞いた事がある?」
ランカさんがミンガさん達を見ると、彼らは首を横に振る。
「俺達も初めて聞いた話だ」
ミンガさんの答えにランカさんが頷くと、少し考え込む。
「巨大化したノースが数十体いた事も気にならないか?」
オッズさんが慌ただしく動き回っている冒険者ギルド職員を見ながら言うと、シファルさんも彼らに視線を向ける。
「そうだな。巣でもあったのか?」
「そうだと思うぞ」
初めて聞く、少ししゃがれた声に視線を向けると、50代くらいのスキンヘッドの冒険者がシファルさんに手を上げた。
「『炎の剣』と会うのは久しぶりだな。おっ、可愛い冒険者と一緒だ。俺は、上位冒険者でスートだ。よろしくな」
「アイビーです。よろしくお願いします」
「いい子だな。シファル達をお手本にしたら駄目だぞ。腹が真っ黒になる」
えっ?
「はぁ、余計な事を言わなくていい。それよりノースの巣が見つかったのか?」
シファルさんが呆れた表情で聞くと、スートさんが笑って頷く。
「たぶんな」
「たぶん?」
スートさんの返答に、ラットルアさんが首を傾げる。
「木の魔物が、ノースを襲うところに遭遇した冒険者達に直接話を聞いたんだ。なんでも、いきなり土の中から数十体のノースが飛び出してきたそうだ。慌てて逃げようとしたら、木の魔物が現れて走り回るノースを襲ったらしい。あっという間の出来事で、動いているノースがいなくなると、いつの間にか木の魔物もいなくなったらしい」
「数十体って、実際は何匹だったの?」
ランカさんの問いに、スートさんは首を横に振る。
「それはまだ不明だ。今、ギルマスの指示で確認に行っているから、あと少しすれば分かるだろう」
「そう。それで、巣というのは?」
「木の魔物がいなくなったと分かってから、生き残ったノースがいないか確認したそうだ。その時に、ノースが出てきた土の下に、大きな穴を見つけた。そしてその穴の地面には大量の木の葉が積んであったから、巣の可能性があると報告したと言っていたよ」
「なるほど。それにしても、どうして木の魔物はノースを襲ったのかしら?」
「助かった冒険者達が、木の魔物に助けられたと騒いでいたから、冒険者達を助ける為に襲ったんじゃないかと一部で言い始めている」
ランカさんが首を傾げると、スートさんが冒険者ギルドの奥へ視線を向ける。
そこには、人だかりが出来ていた。
「遭遇した冒険者達か?」
ミンガさんの問いに、スートさんが頷く。
「あぁ、報告を終えてからずっとあんな感じで、次々と冒険者達が話を聞きに行っているよ」
私の噂、今回の事で消えないかな?
消えて欲しいな。
「シファルは、木の魔物が冒険者達を守る為にノースを襲ったと思うか?」
「ん~、どうかな?」
スートさんがシファルさんを見ると、シファルさんが少し考えてから、なぜか私を見る。
「遭遇した冒険者の中に、木の魔物と仲のいい冒険者はいるのか?」
「はっ? いや、木の魔物と仲がいい人なんて。あぁ、王様がいたな。でも、遭遇した冒険者の中に、木の魔物と仲のいい者はいなかった」
「それだったら冒険者を守ったわけじゃないと思う。きっとノースを襲う理由が他にあったんだろうな」
「もしかしたら、縄張り争いかもしれません」
アートンさんの呟きに、皆が彼を見る。
「縄張りって?」
ランカさんがアートンさんに聞くと、彼は少し考えてからランカさんを見た。
「昔、土魔法を習った師匠から、木の魔物は土の中が縄張りだから気を付けろと言われた事があるんです。彼以外に、そんな事を言った者はいなかったので、今まで忘れていたんですが。もしかしたら本当の事で、ノースを縄張りから排除したのかもしれないと思って」
木の魔物って、土の中が縄張りなの?




