1087話 気になったのは?
「ぺふっ」
ソルが口の中の物を吐き出すと、嬉しそうに鳴いた。
「あれ? 全部、食べないの?」
いつもだったら、全部食べちゃうのに。
「ぺふっ」
私の問いに、ソルが体を左右に揺らす。
「その箱、マジックアイテムではないな」
「ぺふっ!」
お父さんの言葉に嬉しそうに鳴くソル。
「えっ、マジックアイテムじゃなくて、ただの箱だったの?」
ソルが吐き出した物を見ると、少し光沢のあった緑の箱が光沢を失い、薄汚れた緑の箱に変わっていた。
「この箱、どうしようかしら?」
ランカさんが箱を見て首を傾げる。
「燃やした方がいいんじゃないか?」
ミンガさんの提案に、ランカさんは少し考え込んだ。
「シファル、書き写した魔法陣をちょっと見せて」
ランカさんがシファルさんに手を差し出すと、シファルさんは魔法陣を書き写した紙を渡した。
ランカさんは、紙を受け取ると、ジッと魔法陣を見つめる。
「箱も持ち帰るわ」
「えっ?」
ランカさんの決定に、ミンガさんが驚いた声を上げる。
「ただの箱じゃないのか?」
シファルさんの問いに、ランカさんが嫌そうな表情をした。
「魔法陣に、大昔に使われていた文字で、『要注意』と指定されているものが含まれているのよ」」
大昔の文字?
「負の遺産か」
アートンさんの呟きが聞こえ、彼に視線を向ける。
「そういえば、ミンガ達は魔法陣が出てきても驚かなかったわね。魔法陣に詳しいの?」
ランカさんの質問に、ミンガさん達が頷く。
「魔法陣については少し知っている。村道を作ったり、森を整備する時に注意するものだ。一番気を付けなければならないのは魔物だと言われているが、俺は魔法陣だと思う。魔物は魔物除けを使ったり、冒険者に協力してもらう事である程度は回避出来る。でも、魔法陣は急に動き出す。そして動き出したら止められないから、逃げるしかない。まぁ、今日は動き出す前に無効化出来たんだけど……」
ミンガさんがソルを見る。
視線を向けられたソルは、なぜか胸を張ってミンガさんを見返した。
「んっ?」
ソルの反応に首を傾げるミンガさん。
そんな彼の反応に、ちょっと悲しい表情になるソル。
「えっと、アイビーちゃん? 俺は、どうしたらいいんだ?」
ミンガさんが小声で私に聞いてくる。
「褒めて欲しいのだと思います」
「ぷっ」
私の答えを聞いたミンガさんは頷き、近くにいたお父さんが口を手で覆った。
「ソル、ありがとう。ソルは凄いな」
「ぺふっ、ぺふっ」
「かわいいなぁ」
満足げに鳴くソルを見て、オッズさんの頬が緩む。
ミンガさんも嬉しそうに笑った。
パンパン。
「仕事を始めましょうか」
手を叩いたランカさんに視線を向けると、斧を手に持って、私達を見ていた。
それに頷くと、それぞれの仕事に戻る。
「今日は終わりにしましょうか」
魔法陣が見つかってから2時間後、ランカさんの声に作業の手を止めた。
「お疲れ様。ちょっと休憩してから戻ろうか」
ミンガさんの言葉に頷くと、後片付けを始める。
ミンガさん達による森の整備は、あの後1回行われた。
範囲は最初に比べると半分弱だった。
もしもの時のために、魔力を残したからみたい。
後片付けはすぐに終わり、皆が集まって果実水を飲む。
「ふぅ、まだまだ終わりそうにないわね」
「広範囲に被害があったからな」
ランカさんの呟きにヌーガさんが頷き、地図に出してある場所を丸で囲った。
「それはなんですか?」
「整備が終わった所に印を付けたんだ」
私の問いに、ヌーガさんが地図を見せてくれる。
「なるほど」
地図を見ると、今回の魔物の被害状況がわかる地図だった。
そして、その地図に丸が書き込まれていた。
「帰りましょうか」
休憩が終わると、皆で王都へ向かう。
「にゃうん?」
ランカさんと一緒に先頭を歩いていたシエルが立ち止まって、右側の森へ視線を向ける。
「どうしたの?」
ランカさんが不思議そうにシエルに聞く。
でもシエルはそれには答えず、ジッと森を見つめている。
「ぷぷ?」
「てりゅ?」
「ぺふっ?」
ソラ達も不思議そうに鳴きながら、シエルと同じ方向を見つめる。
「何かあるんでしょうか?」
アートンさんがソラ達の見ている方をジッと見る。
「魔物の気配はしないな」
シファルさんの言葉に、ラットルアさんとヌーガさんが頷く。
「あれ? 今、何か動かなかったか?」
オッズさんの言葉に、全員に緊張が走った。
「凶暴化すると気配はわかりづらくなるな」
ラットルアさんが武器を手にすると、ヌーガさんと一緒に皆の前に出る。
私は、オッズさんが見ている方をジッと見る。
あっ、確かに奥にある木の動きがおかしい。
ランカさん達が武器を構え、森の奥にいる木の魔物の様子を窺う。
「「「「「……」」」」」
二分ほど経つと、ランカさんが首を傾げた。
「凶暴化した魔物なら、すぐに襲って来るわよね」
「あぁ、そうだな」
ランカさんの呟きに、お父さんは少し考えると頷いた。
「ごめん、見間違いだったのか?」
「いや、俺達が見ている方の奥の木、あの動きが少し気になる」
オッズさんが謝ると、シファルさんが首を横に振る。
シファルさんの言う通り、周りの木々とは異なる動きをする木がある。
あの辺りに、気配の読みにくい魔物が潜んでいるのだろうか?
あれ?
あの木、今横に動かなかった?
「んっ?」
「もしかして……木の魔物か?」
私が木の動きに首を傾げると、お父さんが小さな声で呟いた。
「木の魔物? あぁ、その可能性があるな。木の魔物の気配は、森に紛れてしまってわかりづらいから」
シファルさんが頷くと、ラットルアさんとヌーガさんも頷いた。
「木の魔物だったら大丈夫か」
「襲ってくる木の魔物もいるから、安心は出来ないだろう」
ミンガさんがホッとすると、ハグルさんが注意する。
「それは、そうだけど……襲って来ないし、大丈夫じゃないか?」
ミンガさんの言葉に、全員が少しだけ警戒を解く。
ガサガサガサ。
次の瞬間、森の奥にいた木の魔物が大きく動き、ミンガさん達は身構えた。
「木の魔物と俺達は相性が悪いんだよな」
オッズさんの言葉に首を傾げる。
「木の魔物も土魔法を得意としているんだ。しかも、俺達よりかなり優れた魔法を使う」
そうなんだ。
土魔法を使う事は知っていたけど、ミンガさん達より凄いって驚きだな。
ミンガさんの話を聞いて、ランカさんがチラッとミンガさん達を見る。
「そうだったわね。木の魔物が襲ってきたら、ミンガ達はすぐ逃げてね」
「わかった」
ランカさんの提案にミンガさんが頷くと、オッズさん達も頷いていた。
「動かないわね。私達の動きを窺っているのかしら? ちょっと王都に向かって移動して、あの木の魔物が動くか確かめみましょうか」
ランカさんの言葉に全員が頷くと、彼女はゆっくり王都に向かった。
ガサガサガサ。
「近付いたな」
木の魔物が近付いたので、ランカさんは足を止める。
「人を襲うほうの木の魔物か?」
ミンガさんが困った表情で呟く。
ん~、違うような気がするな。
あの木の魔物は、ランカさんが言ったように、私達の様子を窺っている気がする。
「そうだ」
木の魔物に向かって手を振ってみる。
人を襲わない木の魔物だったら、反応してくれるかもしれない。
「アイビー?」
急な私の行動に、ミンガさんが目を見開く。
「あっ、動いた」
お父さんの言う通り、私が手を振ると、木の魔物の枝が大きく揺れた。
「あれは、手を振り返しているな」
シファルさんが武器から手を離す。
ラットルアさんとヌーガさんも、ホッとした表情を見せた。
「そんな簡単に調べる方法があったの?」
ランカさんがちょっと複雑な表情を浮かべて私を見た。




