1086話 倒れた木の下に
昨日と同じ場所に着くと、ランカさんとヌーガさんは斧を取り出して、木を小さく切り分け始める。
そして切った木を、私達が一ヶ所に集めた。
「あっ、待った」
私達の作業を見ていたミンガさんが、ランカさんに声を掛ける。
「何?」
「俺達の力なら、木はもう少し大きくても大丈夫です。あと、木を集める場所は、数ヶ所に分けてくれてもいいので」
「そうなの? 助かるわ」
ランカさんが嬉しそうに言うと、シファルさんも頷く。
「集める場所を一ヶ所にしなくていいなら作業が早くなって助かるよ。ミンガ、ありがとう」
ミンガさん達と木を集める場所を相談しながら、切った木を集める。
ランカさんとヌーガさんも、ミンガさん達に相談しながら作業を進めた。
「休憩しましょうか」
ランカさんの掛け声で、ミンガさん達が集まっているところに戻る。
「お疲れ様です。果実水でいいですか?」
アートンさんが、果実水の入ったコップをそれぞれに渡す。
受け取った果実水を一口飲むと、すっきりした甘さが、疲れた体に染み渡った。
「ランカさん達が休憩している間に、私達が作業をしますね」
ミンガさんがそう言うと、切った木を集めた場所にハグルさんが向かった。
そして、ハグルさんが切った木に手をかざすと、次の瞬間、木が粉々になった。
「凄い」
「アイビーさんは、初めて見ますか?」
アートンさんの問いに頷く。
「はい。初めてです」
ハグルさんが、次々と集めた木を粉々にしていく姿を見る。
「次は俺だね」
アートンさんが、粉々にした木が集まっている場所へ行くと、土に両手を付けた。
すると、土がボコボコと動き始め、粉々になった木に混ざり始めた。
「お父さん、生木をそのまま土に混ぜて大丈夫なの?」
粉々にしたけど、生木だよね?
「ハグルのスキルで肥料化してあるので大丈夫なんですよ」
オッズさんの説明に、お父さんも感心した様子で頷く。
「レアスキル持ちですか」
生木を肥料化するのはレアスキルなんだ。
「疲れた~」
ハグルさんが、とても疲れた表情で私達の傍に来ると、そのまま座り込んでしまう。
「お疲れさま」
ミンガさんの声に手を上げて応えるハグルさん。
土魔法って、声を出す元気もなくなるくらい疲れるんだ。
大変だな。
「終わり~、次頼む~」
作業を終えたアートンさんが、ハグルさんの隣に座り込むと、ミンガさんとオッズさんを見る。
「わかった」
ミンガさんとオッズさんは、切った木の山がなくなって平らになった場所に立つと、周りの木を見て話し合い始めた。
話し合いはすぐに終わり、2人が土に両手を付けると、周りの木々がゆっくりゆっくり移動し始めた。
「ふ~」
「今はここまでだな」
ミンガさんとオッズさんは、数十本の木を移動させると、両手を土から離した。
「本当に、凄いわよね」
ランカさんの呟きに、私は何度も頷く。
「2人とも、お疲れ様」
ミンガさんとオッズさんが戻って来ると、ランカさんが彼等に声を掛ける。
「今日はあと1回くらいなら、力が使えそうです」
ミンガさんの言葉に、ランカさんが小さく頷く。
「わかった。私達のほうの作業次第という事ね」
あっ、本当だ。
後片付けした部分が全て整備されている。
「さて、私達も頑張りましょうか。ミンガ達はゆっくりしてね」
ランカさんの言葉を受けて、果実水を飲みきり、休憩前にしていた作業に戻る。
「お父さん、凄かったね」
少し興奮気味にお父さんに言うと、お父さんが楽しそうに笑った。
「そうだな。でも、彼等だから、あんなに早かったんだと思うぞ」
「そうなの?」
「そうよ」
私とお父さんの会話を聞いて、ランカさんが頷く。
「彼等ほど力のあるチームは少ないの。『剛』のチームは、森の中にある村道の修復にも駆り出されるほどだからね」
んっ?
「村道を修復?」
「あっ、知らない? 森の中にある村道を作っているのは、土魔法を使える彼らなのよ。もっと身近だと、私達が毎日歩いている道ね。王都を守る壁も、土魔法を使える彼らが造るのに協力しているわ」
そうだったんだ。
「さて、頑張りましょうか」
「うん」
ランカさんとヌーガさんは木を小さく切り、私達がそれを数ヶ所に集める。
同じ作業はつらいけど、頑張れば早く終わると考えて、頑張って手を動かす。
「ぺふっ!」
「きゃっ」
ソルの声と、ランカさんの驚いた声に視線を向ける。
「どうした?」
ミンガさんがランカさんに声を掛けると、ランカさんが困った表情で私を見た。
「ごめん、ソルを移動してくれる?」
「えっ?」
ランカさんの傍に行くと、倒れた木の上で跳びはねているソルがいた。
「ソル。作業の邪魔になるから移動しようか」
ソルに声を掛けながら、首を傾げる。
ソルは今まで作業の邪魔をした事はない。
それなのに、どうして邪魔をするような場所で跳びはねているんだろう?
「ぺふっ」
少し怒った様子で鳴くソルに、ランカさんとヌーガさんが顔を見合わせる。
「ソル?」
おかしいな。
「ソルは魔法陣に反応するよな」
お父さんの言葉に、ヌーガさんがハッとした表情をする。
そして、ソルが飛び跳ねていた倒れた木を、ゆっくりと移動させた。
「ぺふっ、ぺふっ」
ソルは何度も鳴くと、木の間に入り込んでしまう。
「ソル、危ないよ」
「しゅ~」
んっ?
聞こえてきた音に首を傾げると、お父さんが慌てた様子を見せた。
「ソル、魔法陣だったら、それを書き写した後で食べてくれ!」
「……ぺふっ」
少し不服そうに鳴くソルが、木の間から戻ってくる。
「つまり、この倒れた木の下に魔法陣があるのね」
ランカさんの問いに、お父さんと私が頷く。
ソルは、伝わったのが嬉しいのか、飛び跳ねている。
「……レアのレア?」
ソルを見てミンガさんが呟く。
「そうね、さて、木を移動させましょうか」
ランカさんの言葉に皆が頷くと、魔法陣の場所を予想して、周りの木を移動させる。
「あっ、これかしら?」
ランカさんの視線の先には、少し光沢がある緑色をした蓋のない箱のような物があった。
そして、その箱の底に描かれた魔法陣が微かな光を放っている。
「ぺふっ! ぺふっ!」
嬉しそうに箱の周りを飛び回るソル。
「ソルの好きな魔力みたいだね」
いつも以上に興奮しているソルの様子に、魔法陣に含まれる魔力が、とても好きなんだとわかる。
お父さんもソルの様子を見て頷いた。
「ソル、もう少し待ってくれ」
シファルさんがマジックバッグから紙を取り出すと、魔法陣をその紙に書き写す。
「シファル、完成させないようにな」
「わかっている」
お父さんの注意にシファルさんは神妙に頷くと、魔法陣を紙に書き上げた。
「ソル、もういいぞ」
「ぺふ~」
箱に飛びつくソル。
そして、森に不思議な音が広がった。
ミンガさん達を見ると、4人とも唖然としてソルを見ている。
「んっ?」
私の視線に気付いたミンガさんが、私を見て笑った。
「大丈夫。内緒でしょ?」
「はい。お願いします」
ミンガさんが頷くと、他の3人も笑って頷いた。
「俺達も凄いと言われる事が多いけど、アイビーちゃん?」
ミンガさんが私を見る。
「あっ、呼び方はなんでもいいですよ」
「ありがとう。アイビーちゃんも同じだね」
ミンガの視線が、シエルに向き、ソラ達に移動し、最後にソルを見る。
「スライムは身近な魔物だから、他の魔物よりわかっている事が多いと言われているけど、あれは嘘だったんだな」
ハグルさんの呟きにアートンさんが深く頷く。
「『黒いスライムは魔法陣を無効化してくれる』という噂は本当だったな」
オッズさんを見ると、少し嬉しそうにソルを見つめていた。




