1083話 ソラとシエルの反応
「終わりましょうか」
ランカさんの声が聞こえると、私は持っていた木を、集めている場所に下ろし、背伸びをした。
木を運ぶだけだと思ったけど、単純作業ってけっこう疲れる。
それに、移動する距離がどんどん長くなるし……。
「疲れた~」
ラットルアさんを見ると、地面に座り込んでいた。
その傍に、ヌーガさんとシファルさんも座り込んでいる。
「皆、大丈夫?」
ランカさんの問いに、ぱらぱらと皆が手を上げて答える。
全員、声を上げる元気はないようだ。
「後片付けをして戻るわよ。暗くなる前に王都に戻らないと危ないから」
ランカさんが空を見て呟くと、お父さんも空を見上げる。
「秋になると暗くなるのが早いから、作業できる時間が減るな」
「そうね。暑くないのは良かったけど、作業時間が短いと日数がかかるから嫌よね」
ランカさんの呟きに、ラットルアさんが嫌そうな表情をする。
「ほら、立って。後片付けして帰るわよ」
ランカさんがラットルアさん達に声を掛けると、皆で片付けを始めた。
使用した物は少ないので、すぐに片付けが終わると、王都に向かう。
「疲れただろう」
お父さんが隣に来ると、私を心配そうに見る。
「うん、ちょっと疲れたかな」
体力には結構自信があったんだけどなぁ。
「同じ作業の繰り返しって、精神的にしんどくなるんだよな」
ラットルアさんの呟きに、皆が頷く。
「ぷぷ?」
ソラの鳴き声に視線を向けると、振り返って片付けをしていた場所を見つめていた。
「ソラ? どうしたの?」
ソラの視線を追うが、特に気になるものはない。
「ぷ~?」
ソラが私を見て体を傾ける。
「もしかして、何が気になったのかわからないの?」
「ぷっぷぷ~」
「そう。何が気になったんだろうね」
周囲の気配を探るけれど、魔物も人の気配もない。
微かに動く気配を感じるけど、おそらく小さな魔物か動物だろう。
それにソラが反応したとは思えない。
「どうしたの?」
先頭を歩いていたランカさんが、振り返って私を見る。
「ソラが何かに反応したんだけど、原因がわからなくて」
「ソラが反応を? でも、この周辺に危険な気配はないんだけど……」
私の説明に、ランカさんが周囲を警戒するように見回す。
「シファルは何か感じるかしら?」
「いや、俺も周りを探ってみたけど、特に危険な物は感じられない」
「ぷっぷ~」
ランカさんとシファルさんの会話を聞いていたソラが、申し訳なさそうに小さな鳴き声を上げる。
「ソラ。たぶん、何かいたんだと思うぞ。ソラが反応した時に、シエルも気にしたから」
「にゃうん」
お父さんがシエルを見て言うと、シエルが1回鳴く。
「そうなの?」
ランカさんの問いにお父さんは頷く。
「そう。正体がわからないと、ちょっと気持ちが悪いわね」
ランカさんの呟きにラットルアさんが彼女に視線を向ける。
「正体を調べた方がいいかな?」
「いえ、今日はやめておくわ。皆、疲れ切っているから、魔物が出て戦う事になったら大怪我するかもしれないし。ほら、帰るわよ」
ランカさんはそう言うと、少し足早に王都に向かって歩き出す。
それにつられて、皆も少し足早に王都へ向かう。
人の気配を微かに感じた辺りでソラ達をバッグに入れ、王都の門に向かう。
「お疲れ様です」
門番さんに声を掛けられて王都に入ると、他の場所で作業をしていたのだろう疲れた表情の上位冒険者達と会った。
「あっ、ランカじゃない。お疲れ様」
ランカさんの知り合いだったのか、女性冒険者が私達の傍に来る。
「お疲れ様。ひっどい顔ね」
ランカさんの言葉に驚いていると、言われた女性冒険者が豪快に笑う。
「今のランカだって、私と同じじゃない」
2人は同じくらい疲れた表情をしているので、思わず頷いてしまう。
そんな私に気付いた女性冒険者が、私を見て少し驚いた表情をした。
「ランカと一緒にいるという事は、もしかしてこの子が噂の子?」
「えっ?」
女性冒険者の問いに、小さな声を上げて首を傾げる。
「イーズイを狩って、上位冒険者になった子じゃないの?」
「あっ」
女性冒険者の言葉に、冒険者ギルドでの事を思い出す。
「噂になっているのか?」
傍で話を聞いていたラットルアさんが、女性冒険者に声を掛ける。
「うん、依頼内容を確かめるために冒険者ギルドに行ったとき、すごい噂になっていたわよ」
うわ、本当に噂になっているんだ。
今から、今日の作業が終わった事を、冒険者ギルドに報告しに行くんだけど……行きたくないな。
行かないと駄目かな?
「それにしても、噂で聞いた子とはかなり違うわね」
「どんな噂だったんだ?」
ラットルアさんが、興味津々という表情で女性冒険者を見る。
「子供とは思えない体格だったとか……普通よね。あと、すごくごつくて、イーズイを殴って倒したとか……殴って倒しそうにはないわね」
女性冒険者の説明を聞いてラットルアさんが呆れた表情になる。
「なんだそれ。大人でもイーズイを殴って倒すのは難しいのに」
「あと、一部の冒険者なんだけど『貴族の娘が金を出して、地位を買ったんじゃないか』というのもあったわね」
「えっ。上位冒険者の地位って買えるんですか?」
女性冒険者の話に驚いた私は、思わず彼女に詰め寄ってしまう。
「無理よ。というか、力もないのに上位冒険者になっても、死に急ぐだけじゃない」
それは、そうだね。
「それにしても……」
女性冒険者がジッと私を見つめる。
それに少し緊張してしまう。
「綺麗ね」
「えっ?」
女性冒険者の呟きに、私は首を傾げる。
「ランカ!」
女性冒険者がじろっとランカさんを見る。
「何?」
「この子、しっかり守りなさいよ。馬鹿な野郎どもから」
「わかっているわ。それに大丈夫よ。彼女には最強のお父さんと友人達が付いているから」
ランカさんの説明に、女性冒険者は私の周りを見る。
そして、小さく「おぉ」と言うと頷いた。
「えっと、名前は? あっ、私は上位冒険者のフイースよ。『白花』というチームに属しているわ。ちなみに、あっちでへばっているのが私のチーム仲間よ」
フイースさんの視線の先を見ると、3人の冒険者が地面に座り込み、その傍に1人の男性が立っていた。
「あの立っているのがリーダーのマルセよ。目が鋭いから座り込んでいる仲間を睨んでいるように見えるけど、ただ見ているだけだから。たぶん、何も考えていないわ」
すごい説明にちょっと笑ってしまう。
「私はアイビーです。えっと、お父さんと『星』というチームを組んでいます」
チームを組んで、初めての自己紹介だからちょっと恥ずかしいな。
「アイビーね。同じ上位冒険者仲間だから、これからよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「フイース。仲間が呼んでいるわよ」
ランカさんの言葉に、フイースさんがマルセさん達の方を見る。
「本当だ。それじゃね」
手を振ってマルセさん達のもとへ戻るフイースさん。
見送ったランカさんは、私を見て笑った。
「さて、噂を聞きに行きましょうか」
「あはははっ」
やっぱり冒険者ギルドへ行きたくないな。




