1082話 片付けは大変
「少し、休憩しましょうか」
ランカさんが皆に声を掛けると、全員が力なく片手を上げた。
「ちょっと、もっと元気に反応してよ」
皆の反応に、ランカさんが呆れた表情を浮かべる。
「ランカは元気だな。というか、範囲が広すぎるだろう。瓶を運んだだけなのに疲れた~」
ラットルアさんが不満を口にしながら、ランカさんの傍に寄る。
「確かに広いわね。でも、今回は仕方ないと諦めるしかないわ」
被害が広範囲に及んでいるからね。
しかも倒れた木を乗り越えたり、土の一部が大きく抉られていて、回り道をしなければならなかったりして、血溜まりを消すだけなのに1時間以上もかかってしまった。
「これからどうするの?」
隣に来たお父さんに視線を向ける。
「倒れた木の処理だ。使える部分はマジックバッグに入れて持って帰るけど、魔物に倒された木は損傷がひどいから、ここである程度小さくして一ヶ所に集めておくんだよ」
お父さんの説明を聞きながら、倒れている木々に目を向ける。
確かに、魔物が体当たりでもしたのか損傷が多く、使える部分は少なく見える。
それに、魔物の血が飛び散っているところもあるので、あの部分も使えないだろう。
「一ヶ所に集めてどうするの?」
「そこからは土魔法の得意な者達が処理するんだけど、土に混ぜ込んでくれるんだ」
「土に? 集めた木をそのまま?」
「いや、土魔法で処理をするらしい。そのあとは、木の移動だな」
「えっ?」
お父さんの説明に驚いた表情になる。
「倒れた木々を処理すると、森の奥から王都までの道が出来てしまうだろう?」
確かに倒れた木がなくなると、少し曲がっているけど王都までの道が出来るね。
「次、魔物が暴走した時に、その道があったら今回よりも早く王都に辿り着いてしまう。それはかなり危険な事だ。準備をする時間が少なくなるという事だから」
「そうか、木々は時間稼ぎにもなるんだ」
お父さんの説明に頷くと、お父さんが笑う。
「うん。だから、木を移動させて道を消してしまうんだよ」
「土魔法を使える人は大変だね」
私達がいる場所だけでなく、他にも数本、森の奥から王都までの道が出来ていた。
それを全て消すとなると、相当大変だと思う。
「凄く大変だと思う。でも、魔物の通り道を消すのは重要な事だから、頑張ってもらいたいよ。どうぞ、果実水だ」
ラットルアさんが、私とお父さんに果実水の入ったコップを差し出した。
「「ありがとう」」
「ドルイドとアイビーは、木の移動を頼めるか? 木を細かくするのはヌーガとランカがするから」
ランカさんとヌーガさんを見ると、ランカさんは大きな斧を、ヌーガさんはそれより少し小ぶりの斧を持っていた。
「わかった」
お父さんの返事に合わせて私も頷く。
「アイビー」
名前を呼んだラットルアさんに視線を向ける。
「無理はするなよ。今日だけじゃなく、明日も、明後日もあるんだから」
そうだった。
この仕事は、明日も明後日も、片付けが終わるまであるんだ。
「わかった」
私の周りにある倒れている木々を見る。
そして、王都があるほうを見て、大量に倒れている木々に小さく溜め息を吐いた。
「いつ終わるんだろう?」
「「……」」
私の小さな呟きに、お父さんとラットルアさんが無言で肩を竦めた。
2人にも予想が出来ないんだ。
前に私が「大変なの?」と聞いた時、皆が疲れた表情を浮かべた理由がわかった。
確かにこれはあんな表情になるね。
「休憩を終わりにしましょうか」
ランカさんの掛け声に、コップに残っていた果実水を飲み切る。
「1日でも早く終わらせるためにも頑張らないとね」
王都まで続いている倒れた木々は、見ないようにしよう。
あれを見ると気が重くなる。
「そうだな」
お父さんも果実水を飲み切ると、私を見て頷く。
使ったコップを軽く水で洗い、ランカさんの傍に行く。
コップをカゴに入れると、ランカさんから手首に着けるマジックアイテムを受け取った。
「重い木を少しだけ軽くしてくれるマジックアイテムよ」
「ありがとうございます。でも、私だけ?」
ランカさんがマジックアイテムを渡したのは、私だけなので首を傾げる。
「両ギルドが持っているマジックアイテムも、数に限りがあるからね。このマジックバッグにはそれが1つしか入っていなかったのよ」
森の片付けをしている上位冒険者全員分のマジックアイテムはないという事か。
ランカさんから受け取ったマジックアイテムを見る。
「私が着けていいの?」
「もちろんよ」
ランカさんが頷くと、お父さんも当然と頷く。
「ありがとう」
マジックアイテムも借りた事だし、頑張ろう。
倒れた木々の傍に行くと、踏みつぶされたのだろう、太い幹がちょうど運びやすい大きさになっていた。
「アイビー」
シファルさんに呼ばれ視線を向けると、彼は不思議そうに私の周りを見た。
「どうしたの?」
「今日、ソラ達は来ていないのか?」
シファルさんの問いに、肩から提げたバッグが動いた。
「あっ、そうだった」
森に入った時に、ソラ達をバッグから出そうと思ったけど、血溜まりの多さにやめたんだった。
「血溜まりがあったから、バッグの中にいてもらったの」
バッグの蓋を開けると、ソラが顔を出した。
いつもならすぐに外に出るのに、なぜかバッグの中から外を窺っている。
「ぷっぷ~」
しばらくソラは小さく鳴き、バッグから出た。
次に姿を見せたフレムも、ソラと同じようにバッグの中から外を窺う。
「飛び下りても汚れない場所を探しているんじゃないか?」
「てっりゅりゅ~」
シファルさんの言葉に、フレムが鳴く。
「そうだったんだ」
フレムは大丈夫と思ったのか、バッグから外に出た。
ソルは、チラッと外を見るとすぐにバッグから跳び出し、シエルもすぐにバッグから出た。
「皆、まだ汚れている場所があるから気を付けてね。あまり遠くへは行かないでね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
皆の返事を聞いてから、ラットルアさん達と一緒に木を一ヶ所に集め始める。
最初は、集める場所が倒れた木々の近くだったので大変ではなかった。
でも、大きな木の移動が増えたり、移動距離が多くなり始めると、どんどん疲れが溜まってくる。
「大丈夫か?」
少し大きな木を運んでいると、傍に来たお父さんが私を見る。
「ちょっと疲れたかな」
マジックアイテムを借りているので、重さは少し軽減されている。
手首に着けた状態と外した状態で、同じ木を持って違いを実感した。
でも、さすがに疲れてきたみたい。
「休憩をしてもいいぞ」
「大丈夫。もうちょっと頑張る」
木を集めている場所に運んだ木を置くと、背伸びをする。
少し離れた場所から、ランカさんとヌーガさんの木を切る音が聞こえる。
「んっ?」
シファルさんが足を止めて、王都のほうを見る。
「どうした?」
お父さんの問いに、シファルさんは首を横に振る。
「ランカ、ヌーガ。少し手を止めてくれ」
シファルさんの言葉に、ランカさん達は手を止めてシファルさんを見る。
「どうしたの?」
ランカさんの質問に、シファルさんは何も答えず、ただジッと王都のほうを見つめる。
そんなシファルさんの態度に首を傾げながら、ランカさんも王都のほうを見た。
「気のせいだったのか?」
「何か聞こえたのか?」
ヌーガさんがシファルさんに問うと、シファルさんが険しい表情を見せた。
「それが……悲鳴が聞こえた気がしたんだけど……」
シファルさんの言葉に、全員が王都のほうを見る。
「何も聞こえないけど……」
ランカさんの呟きに、シファルさんが肩を竦める。
「悪い。気のせいだったのかな」
「気にしないで。さぁ、あと少し頑張りましょう」
シファルさんの言葉にランカさんは笑うと、木を切るために斧を振り上げた。




