1080話 今日から
朝ごはんを食べたあと、地下の訓練室で弓の特訓をする。
体調を崩したため休んでいたけれど、お父さんの許可が下りたので今日から再開した。
的を見て深呼吸、弓を構えて矢を放つ。
シュッ、コツ。
「……」
大きく外れた矢に、思わず眉間に皺が寄る。
殺気はなかったけど、的から20㎝以上も離れたところに刺さるなんて……。
「もう一度」
「はい」
シファルさんの声に気持ちを切り替えて、もう一度弓を構え直す。
そして矢を放つ。
シュッ、パン。
良かった。
今の矢は、的に当たった。
ぎりぎりだったけど。
「次。もう少し早く矢を放つように、3本」
「はい」
実戦では、ゆっくり構えてる余裕はないからね。
シュッ、コツ。
シュッ、コツ。
シュッ、コツ。
うわぁ、全部外した。
「少し右腕の筋力が落ちたみたいだな」
「えっ?」
シファルさんの指摘に右腕を見る。
「寝込んだから、筋力が落ちたんだろう」
「そうなのかな?」
自分の事なのに、筋力が落ちているのかどうかわからない。
「落ちたと言っても少しだから、すぐに戻せるよ。大丈夫」
「はい」
シファルさんに見守られながら数十本と弓を放ち、今日の特訓を終える。
「終わったのか」
特訓が終わり弓の片付けをしていると、お父さんが訓練室に来た。
「お父さん、手紙は書き終わったの?」
お父さんは、フォロンダ公爵に未来視を紹介してほしいと頼む手紙を書くと言っていた。
「うん。ドールさんに、渡してほしいとお願いしてきた」
ドールさんなら、すぐに手紙を届けてくれそうだよね。
「そういえば、2人のチーム名は何にしたんだ?」
「んっ?」
「えっ?」
シファルさんの質問に、お父さんも私も首を傾げる。
「えっ?」
そんな私達の反応にシファルさんが驚いた表情をする。
「ドルイドとアイビーは、チームを組んだんだよな?」
「あっ!」
シファルさんの言葉に、お父さんが声を上げる。
そして気まずそうな表情を浮かべた。
「まさか?」
「師匠のもとから独立してからは、臨時のチームを組んだ事はあっても、正式なチームを組んだ事がなかったから、すっかり手続きを忘れていた」
お父さんの説明にシファルさんが苦笑する。
「今、わかって良かったな。これから冒険者ギルドに行くんだろう?」
「あぁ、森の片付けに上位冒険者全員が駆り出されるからな」
今朝、冒険者ギルドから上位冒険者全員に集合がかかった。
皆、予想していたので焦る事はなかったけど、全員が嫌そうな表情になったときは笑ってしまった。
片付けが終わると部屋に戻り、冒険者ギルドへ行く準備をする。
「皆、冒険者ギルドに行った後は森へ行くけど、一緒に行く?」
準備を終えると、ソラ達に視線を向ける。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
ソラ達は、今日の訓練になぜかついてこなかった。
体調でも悪いのかと心配したけど、いつも通りいっぱい食べて、元気に跳びはねていたので大丈夫なのだろう。
「よし、皆、バッグに入って」
ソラ達を肩からさげたバッグに入れていく。
「あれ?」
フレムを抱き上げたとき、体の一部に少し違和感を覚えた。
よく見ると、体の一部の色が濃くなっていた。
大きさにしたら1㎝くらいだろう。
「フレム、体の調子は問題ない?」
「てっりゅりゅ~」
問題はないみたい。
色が濃くなっている部分にそっと触る。
特にその部分が硬くなっている様子はない。
「あれ?」
体の一部の色が変わる?
こういう事が以前にもあったような……。
「えっ、まさか?」
そうだ。
ソラがフレムを産んだ時と、フレムがソルを産んだ時だ。
「……新しい子?」
フレムを見る。
そして色の濃くなった部分を見る。
「あれ? なくなった?」
見間違いだったのかな?
コンコンコン。
「アイビー? 大丈夫か?」
「あっ、うん。すぐ行く」
不思議に思いながらバッグにフレムを入れ、ソルとシエルも入れる。
最後に弓を持って部屋を出る。
「どうした? 何かあったのか?」
「それが……」
玄関へ向かいながら、少し悩む。
もしかしたら見間違いかもしれないし、言わない方がいいんじゃないかな?
でも、もしかしてという事もあるし……。
「どうしたんだ?」
玄関に行くと、シファルさんが不思議そうに私を見た。
その隣にはヌーガさんもいる。
新しくリーダーになったランカさんとラットルアさんは、先に冒険者ギルドに行っている。
「なんでもない」
私が首を横に振ると、お父さんが私に視線を向けた。
「いってらっしゃいませ」
フォリーさんに見送られて玄関を出ると、冒険者ギルドへ向かう。
「アイビー、本当になんでもないのか?」
お父さんが心配げに私を見る。
「えっ。……見間違いかもしれないんだけど」
やっぱり言っておこう。
「うん」
シファルさんもヌーガさんも私を見る。
「フレムの色が、一部分だけ濃くなっていたの」
「「んっ?」」
私の言葉に、シファルさんとヌーガさんが不思議そうな表情を浮かべる。
お父さんは、少し考え込むとハッとした表情をした。
「もしかして、新しい子が産まれるのか?」
「「えっ!」」
お父さんの呟きに、シファルさんとヌーガさんが驚いた表情をする。
「私もそう思ったんだけど、次に見た時は濃い部分がなかったの。見間違いだったのかな?」
「どれくらいの大きさだったんだ?」
「1㎝くらいだと思う」
お父さんの質問に答えると、お父さんは頷いた。
「大きさもわかったなら、見間違いではないだろう」
「やっぱりそうかな? でも、それだったらどうして消えちゃったんだろう?」
私とお父さんの話を聞いていたシファルさんとヌーガさんが、顔を見合わせる。
「当たり前じゃない事を、当たり前のように話されると、不思議な気持ちになるな」
「「えっ?」」
お父さんと私が同時にシファルさんを見る。
「いや、ソラからフレムが、フレムからソルが産まれたとは聞いた。アイビーとドルイドが嘘をつくはずがない事はわかっているんだけど、ちょっと本当なのかな? と思う気持ちもあるんだよ」
まぁ、そうだろうね。
実際に自分の目で見たら、その気持ちもなくなるんだろうけど。
「だから、スライムからスライムが産まれる事を当たり前のように話す2人を見ていると、不思議な感じがして」
「ははっ。まぁそんな気持ちになるだろうな」
少し困惑した表情をしているシファルさんを見て、楽しそうに笑うお父さん。
「見られるかもしれないんだな」
ヌーガさんが、皆が入っているバッグを見る。
「まだ、わからないよ」
「そうか」
私の言葉に頷きながら、興味深げに皆が入っているバッグを見るヌーガさん。
これは、絶対に期待しているな。
お父さんだけのときに、話した方が良かったかな?
「まぁ、いずれ答えはわかるだろう。シファル、ヌーガ、この事は……」
「もちろん誰にも言わないよ」
「あぁ」
お父さんがシファルさんとヌーガさんを見ると、2人はわかっていると頷いた。
冒険者ギルドへ着くと、ランカさんがすぐに私達に気付いてくれた。
「こっちよ」
ランカさんの傍に行くと、ラットルアさんがなぜか疲れた表情をしていた。
「どうしたんだ?」
シファルさんの問いに、ラットルアさんは溜め息を吐く。
「今回の片付け、相当時間がかかるぞ。かなり広範囲だ」
ラットルアさんの説明に、シファルさんとヌーガさんが諦めた表情を浮かべた。
「アイビー、チームを組むための手続きに行こうか」
「うん」
今日から本格的に冒険者として働くのか。
頑張ろう。
明けましておめでとうございます。
本日より「最弱テイマーはゴミ拾いに旅を始めました。」の新しい章を始めます。
今年もアイビー達をどうぞよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




