1076話 疲れた時は……
「スイナス?」
ジナルさんが、スイナスさんの反応を見て不思議そうに声を掛ける。
「最近、捨てられた大地にいる魔物の行動が変わってきている事を知っているか?」
「噂は聞いた。捨てられた大地からよく魔物が溢れているみたいだからな」
スイナスさんの問いにジナルさんが頷く。
「原因を調べているがまだ分かっていない。でも、捨てられた大地で働いている冒険者達から、魔法陣の影響を受けている可能性があるという報告があった」
「やっぱり捨てられた大地にも魔法陣はあるんだな」
シファルさんが嫌そうに呟くと、スイナスさんが溜め息を吐く。
「こちら側より多いらしい」
「そうなのか?」
驚いた声を上げるセイゼルクさんに、スイナスさんが頷く。
「あぁ。捨てられた大地は、まだ全貌が分かっていない。特に奥は、リュウの住処があるから入れていない。それなのに、把握している場所だけでも、王都周辺で発見された3倍の魔法陣が確認されているそうだ」
3倍も?
「それは多いな」
険しい表情でセイゼルクさんが呟くと、スイナスさんが小さく溜め息を吐く。
「そうだな。でも一番不思議なのは、なぜ今、魔法陣が周りに影響を及ぼし始めたのかという事なんだ」
「今までは周りに影響を及ぼしていなかったのか?」
スイナスさんの呟きにラットルアさんが首を傾げる。
「多少の影響はあったみたいだけど、魔物の行動を完全に狂わせるほどのものではなかったと思う」
スイナスさんの話を聞きながら、未来視から受け取った本の内容を思い出す。
もしかしたら、捨てられた大地にある魔法陣のせいで木の魔物はおかしくなって王都を襲ったのかな?
「捨てられた大地に木の魔物はいないのか?」
「いるけど、それがどうしたんだ?」
お父さんの質問にスイナスさんが不思議そうにお父さんを見る。
「木の魔物が魔法陣を無効化していないか? こちら側の木の魔物は、自らを犠牲にしてまで魔法陣を無効化しているけど」
お父さんの質問に、スイナスさんは神妙に頷いた。
「捨てられた大地にいる木の魔物も同じだ。冒険者達の話によれば、彼らが行けない奥で、魔法陣を無効化してくれているみたいだ。そういえば、奥に迷い込んでしまった冒険者達を助けた木の魔物もいたそうだ」
やっぱり木の魔物は優しいね。
でも、その子達が王都を襲う事になる。
やっぱり、なんとしても止めたいな。
「あっ、そろそろ戻らないと……」
スイナスさんが椅子から立ち上がると、ジナルさんも立ち上がった。
「悪いな。疲れているのに」
「大丈夫だ」
スイナスさんが申し訳なさそうにジナルさんに謝ると、ジナルさんは首を横に振る。
スイナスさんは、私達に挨拶すると、ジナルさんと一緒にフォロンダ公爵のところへ向かった。
「少し早いですが、夕飯にしましょうか」
ジナルさんが出て行った出入り口を見ていると、フォリーさんの明るい声が聞こえた。
「お腹を満たして、今日は早めに寝た方がいいわ。明日からも忙しくなりそうだし」
フォリーさんの言葉に、シファルさんが溜め息を吐く。
「明日から、森の片付けだろうな」
「そうだな」
ヌーガさんも嫌そうに頷く。
森の片付け?
あぁ、あちこち魔物が暴れて凄い事になっているもんね。
あれを片付けるんだ。
「冒険者になったから私もかな?」
「俺もだな」
私の呟きに、お父さんも嫌そうに頷く。
「そんなに大変なの?」
「「「「「……」」」」」
私の質問には誰も答えてくれなかったけど、皆の疲れた表情を見て大変なんだと分かった。
「ふふふっ。明日は体力もいるみたいだから、夕飯はしっかり食べないといけないわね」
フォリーさんが楽しそうに調理場へ向かうと、ドールさんがテーブルの上を片付ける。
少しすると、フォリーさんが沢山の料理をテーブルに並べた。
「今日は、アイビーさんの冒険者登録と、ドルイドさんの再登録祝いでもあるから頑張りましたわ」
フォリーさんの言う通り、いつもより豪華な夕飯に頬が緩む。
あれ?
試験の結果を報告する前から作ってくれていたのかな?
だって、どの料理も短時間では作れないよね。
ふふっ、私が冒険者になれると信じてくれていたみたいで嬉しいな。
「フォリーさん、ありがとうございます」
私のお礼に、フォリーさんが嬉しそうに微笑んだ。
「沢山食べてくださいね」
「はい」
夕飯を食べたあと、部屋に戻り、ベッドに寝っ転がる。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ソラとフレムが不満そうに鳴きながら私のお腹に乗る。
「ソラ、フレム、ごめん。今日はちょっと食べ過ぎて……あっ!」
起き上がってソラとフレムを見る。
「ぷ~」
「てりゅ」
不満そうに鳴く2匹から視線を逸らす。
これは、間違いなく怒っている。
「ぷ~」
「てりゅ」
「ごめん。話が終わったら一度部屋に戻ってくるつもりだったんだけど……」
ソラ達のご飯を準備するために。
でも、すっかり忘れてた!
「ていうか、皆、話も聞かずに寝ていたじゃない!」
静かだから心配してみたら、寝ているんだもん。
驚いたんだからね。
「ぷっ?」
「てりゅ?」
「ぺふっ?」
私から視線を逸らすソラ達に溜め息が出る。
「ぷ~」
「てりゅ~」
「ぺふ」
「わかった。今日はいつもより多めにポーションを出すから許して」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ?」
「分かってる。ソルはマジックアイテムを多めに出すね」
「ぺふっ」
満足げに鳴く3匹にホッとしながら、マジックバッグからいつもより多めにポーションとマジックアイテムを出す。
「ぷ~?」
ソラが私とマジックバッグを見ながら鳴く。
「剣もね」
「ぷっぷぷ~」
3匹の食べっぷりを見ていると欠伸が出る。
「にゃうん」
シエルが私の傍に来ると体を寄せる。
「ありがとう。今日は疲れたね」
「にゃうん」
「皆が無事で良かった。実はね、森が凄い状態だったから王都がどうなっているか心配だったの。セイゼルクさん達は上位冒険者だから、きっと魔物と戦っていると思ったし」
リュウに襲われた時、本当に怖かった。
お父さんが「逃げろ」といった時、本当は嫌だと叫びたかった。
王都に戻ってくる間、森が酷い状態だったから、嫌な事が頭に浮かんだ。
でも、あんな状態の時にそんな弱気な姿は見せられないと頑張ったんだけど……お父さんにはバレてるよね。
「森にいる間、ずっと震えてたんだ」
「にゃうん」
「凄く、怖かった」
「にゃうん」
「今の私だと、きっと木の魔物達は助けられないよね」
助けたいという思いだけでは、助けられない。
でも、すぐに力が手に入るわけでもないから、どうすればいいんだろう?
「にゃうん」
シエルに頬を舐められた。
「シエル?」
シエルの珍しい行動に、少し驚いていると、シエルが前脚で私を優しく押す。
「うわっ」
ベッドに仰向けになると、シエルが私に寄り添うように寝る。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
ご飯を食べ終わったソラ達が、シエルとは反対側に来ると、私に寄り添うように寝始めた。
「皆?」
いつもは足下や少し離れたところで寝るのに。
「ふわぁぁ」
皆の温かさにもう一度欠伸が出る。
「にゃうん」
シエルの小さな鳴き声がまるで「おやすみ」と言っているようで、思わず微笑む。
今日は疲れたから、もう寝た方がいいのかもしれない。
明日も忙しくなるみたいだし。
「皆、おやすみ」




