1075話 ゆっくり?
フォロンダ公爵の豪邸に戻ると、ドールさんとフォリーさんが慌てて玄関に駆けてきた。
「皆さん、ご無事でしたか。良かった」
ドールさんが私達の姿を見て、安堵した表情で呟く。
「はい、大丈夫です。ご心配をおかけいたしました」
お父さんがドールさんとフォリーさんに言うと、2人は嬉しそうに笑った。
「リュウには遭遇しなかったんですね」
フォリーさんがホッとした表情で呟くと、セイゼルクさん達の視線がジナルさんとお父さんに向く。
「えっ、まさか? でも、怪我もないようですし……」
皆の反応に戸惑った表情を浮かべるフォリーさん。
「ちゃんと話すから、まずはゆっくりさせてくれ」
ジナルさんが、セイゼルクさん達とフォリーさん達を見て苦笑する。
「分かった。そうだな、まずは……風呂に入って着替えるか。全員、汚いな」
セイゼルクさんが笑って言うので、私は自分の格好を見る。
「うわぁ、気付かなかった」
森の中を走り回ったから、草木や土で汚れている。
しかも、ズボンには赤い血のようなシミまである。
「どこで付いたんだろう?」
魔物を討伐した場所かな?
あちこちに血が飛び散っていたから、傍を通った時に付いたのかもしれない。
「セイゼルク達の方が汚いだろう」
ジナルさんの呟きに、セイゼルクさん達を見る。
服に血は付いていなかったけど、確かに凄く汚れている。
「門を守るのが大変だったからな。あっ、破れてる! まだ買ったばかりなのに……」
ラットルアさんが自分の服を掴むと、顔を歪める。
「私が直しましょうか?」
フォリーさんがラットルアさんに言うと、彼はパッと表情を明るくする。
「いいんですか? まだ生地は悪くなっていないから直そうか迷ってたんですよ」
「構いませんよ。洗ったら、直してお部屋に置いておきますね」
「ありがとうございます」
笑顔でお礼を言うラットルアさんに、セイゼルクさんが少し呆れた表情を見せる。
「あまり迷惑を掛けるなよ。とりあえず、風呂に入ってから食堂に集まろうか」
セイゼルクさんの言葉に全員で頷くと、それぞれの部屋に戻る。
部屋に戻ると、バッグからソラ達を出す。
「お風呂に行くんだけど、皆も綺麗になりに行こう」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
皆の返事を聞きながらお風呂の準備を済ませると、一緒にお風呂に向かう。
髪と体を綺麗にしてから湯船に浸かり、皆でゆっくりする。
「ふ~、気持ちが良いねぇ」
「ぷ~」
「りゅ~」
「……」
「にゃ~」
お湯に浸かっていると、欠伸が出てきた。
「これは駄目だ。このままだと寝てしまう。皆、出ようか」
「「「「……」」」」
返事がないのでソラ達を見ると、皆私に背を向けてお湯に浮かんでいる。
「皆の活躍を、セイゼルクさん達に話したいんだけどなぁ」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
私の言葉を聞いたソラ達は、すぐにお湯から出ると私を見た。
「さっきまで出たくないって言ってたくせに、今は早くって事?」
私の呟きに、ソラ達はすっと視線を逸らす。
皆の反応に笑いながらお湯から出て、体を拭き、新しい服を着た。
食堂へ行くと、既に皆が揃っていた。
「アイビー、こっちだ」
お父さんに呼ばれ隣に座ると、ソラ達がピョンとテーブルに飛び乗った。
「それで、今日は何があったんだ?」
私が座ったのを確認した後、セイゼルクさんがジナルさんを見る。
ジナルさんは、森へ行ったところから話し始め、リュウに遭遇し、そして捨てられた大地へ戻ったまでを詳しく話した。
「魔法陣の影響か」
話を聞き終わったセイゼルクさんが溜め息を吐きながら呟く。
パンッ。
「まず、その話の前に」
シファルさんが1回手を打つと、笑って私を見た。
「アイビー、イーズイを狩ったという事は、試験は合格したんだろう?」
「はい。上位冒険者になれました」
「おめでとう」
シファルさんの言葉に、頬が緩む。
「ありがとう」
「アイビー、今日から同じ上位冒険者だな。おめでとう」
ラットルアさんが嬉しそうに言うと、ドールさんやフォリーさん、それにヌーガさんも「おめでとう」と言ってくれた。
「皆、ありがとう」
「悪い、まずはアイビーの話からだよな。合格おめでとう」
セイゼルクさんが少し気まずそうに私を見る。
「ありがとう。リュウの事も大切だから」
「そうだ! アイビーは前脚を残すのか?」
ラットルアさんの問いに、私は首を横に振る。
「どうして? 今、人気……あっ、そうか! アイビーの狩った魔物はイーズイだ。さすがにあれの前脚はいらないか」
ラットルアさんは途中でイーズイの事を思い出したのか、少し嫌そうな表情をした。
「特殊な収集癖でもない限り、イーズイの前脚なんていらないだろう」
シファルさんの呟きに、皆が頷く。
「スイナス様がいらっしゃったようですね」
ドールさんの呟きに、皆が彼を見る。
カランカラン。
初めて聞く音に、周りを見渡す。
「来客を知らせる音ですよ。少し、失礼いたします」
ドールさんは音の説明をしてから、玄関へ向かった。
しばらくすると、少し乱れた気配が近付いてきた。
「珍しいですわね。彼がここまで気配を乱れさせるのは」
フォリーさんの呟きに、ジナルさんが頷く。
「失礼」
食堂に入ってきたスイナスさんは、全員を見渡すとホッと息を吐いた。
「冒険者ギルドから連絡は行かなかったのか?」
ジナルさんが不思議そうに首を傾げる。
「無事だという連絡は来た。でもフォロンダ公爵に、本当に大丈夫なのか確認してくるように言われたんだ。あと、ジナルに『詳しい話を聞きたいから、休憩してからでいいので来て欲しい』という伝言を預かってきた」
「分かった。少しゆっくりしたら行くよ」
ジナルさんの返事にスイナスさんは頷くと、近くの椅子に座った。
「ありがとう。ジナルの休憩が終わるまで、俺も休憩させてもらうよ。リュウが現れたという情報が届いてから本当に大変だったんだ」
スイナスさんが疲れた表情で呟く。
「王城内は大混乱だろう」
ジナルさんが聞くと、スイナスさんが嫌そうな表情で呟く。
「王と各貴族家の当主達が、王都にいる住民の避難方法で話し合っている時に、一部の貴族が『我々を先に避難させるべきだ』と騒ぎ出してさ。あの時の王の視線は恐ろしかったぞ。まぁ、すぐにリュウが捨てられた大地へ戻ったという朗報が届いて、その場は解散になったんだけど。騒いだ貴族達は、本当にどうしようもないよな」
スイナスさんは騒いだ貴族達に怒っているみたいで、少し表情が怖い。
「人手が足りないのでしばらくそのままでしょうが、1年後はきっといなくなっていますよ」
ドールさんがスイナスさんの前に温かいお茶を置くと、彼の肩をポンと叩いた。
「そうだ、1つ確認したい事があるんだった」
スイナスさんが、ジナルさんとお父さんを見る。
「現れたリュウは何匹だったんだ? 1匹とか2匹とか言われていたんだけど」
「2匹だ。親と子供。魔法陣に影響を受けていたのは子供のリュウ。親のリュウは、かなりの大きさだったな」
ジナルさんの返事を聞きながら、スイナスさんは神妙に頷いた。
「そうか。子供のリュウだったのか」
「最弱テイマー」を読んでいただきありがとうございます。
12月10日に発表がありましたが、アニメ2期の制作が決まりました。
皆様の応援のおかげです、ありがとうございます。
これからもアイビー達をよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




