1074話 皆、無事で良かった
「アイビー、どうしたの?」
シャーシャさんが私を見て首を傾げる。
「いえ、前脚を残すって聞いて、ちょっと不気味だなって思って」
イーズイの太い前脚を思い出して首を横に振る。
「えっ?」
私の話を聞いて、不思議そうな表情を浮かべるシャーシャさん。
「あっ! もしかして、アイビー」
ジナルさんが何かに気付くと私を見る。
「何?」
「冒険者試験を受けるのは10歳前後が一番多い」
「うん」
「そして狩ってくる物と言えば、小さな動物や小さな下位魔物ばかりで大きな上位魔物を狩ってくる者はほとんどいないんだ」
えっ?
「だから、記念に残す部位も小さい物になる」
「小さい前脚……」
そうか、イーズイみたいな太い前脚ではなく、小さい前脚を残すんだ。
「あぁ、アイビーと皆の想像した物が違ったから、話がかみ合わなかったんだな」
お父さんの呟きに、シャーシャさんが私を見て小さく頭を下げる。
「ごめんなさい。私が間違ったのよね」
「間違い?」
なんの事だろう?
「えぇ、イーズイを狩ってきたんだから、残すならイーズイの前脚よね。でも、その事に気付かなくて、小さい前脚を想像してしまったわ」
「悪い、俺も同じだ」
シャーシャさんに続き、ギルマスさんも私に小さく頭を下げた。
「シャーシャさんもギルマスさんも頭を上げて下さい。あの、魔物の前脚を残すのはどうしてですか?」
冒険者になった記念は、冒険者ギルドが骨を加工して作ってくれる。
それなのに、どうしてわざわざ魔物の前脚なんて残すのか、私にはさっぱり分からない。
「あぁ、それはお守りとして持っているのよ」
シャーシャさんの言葉に、驚いた表情を浮かべる。
「そうなんですか?」
「うん。大通りには、魔物の前脚を加工して作ったお守りを売っている店があるの。一番人気の店では、自分で狩ってきた魔物の前脚を加工してくれるらしいわ。冒険者になると危険な事も多くなるから、若い冒険者達は自分で狩った魔物で作って貰うみたいね」
皆、お守りとして持つんだ。
イーズイの前脚を加工してもらってお守り……いや、いらないな。
「あっ、加工してくれるのは小さな魔物だから、イーズイは無理だと思うわ。でも、冒険者ギルドからお願いしたら聞いてくれるかな?」
「いえ、いりませんよ」
シャーシャさんの説明に、私は首を横に振る。
「もし残すなら皮くらいか? 皮なら何か作れるかもしれないし」
お父さんの呟きに、それだったらいいかもと思った。
でも、わざわざイーズイの皮で作る必要はあるのかな?
「イーズイの皮で作ったら何か効果はあるのかな?」
魔物によっては、保温効果が高くなったり、防水効果があったりするけど。
お父さんを見ると首を横に振った。
「悪い、詳しく知らないんだ」
お父さんも知らないんだ。
「イーズイの皮だけど、分厚く加工がしにくいうえに、加工した皮はなぜか破けやすくなる。だから利用する者は少ないと思う。あっ、火が付きやすいから、燃焼を助けるのに使う者はいるな」
ギルマスさんの説明に、シャーシャさんも頷く。
それなら、残すところはないかな。
「ギルマスさん。イーズイですけど、全て売ります。よろしくお願いします」
イーズイが入っているマジックバッグをギルマスさんに渡す。
「分かった」
ギルマスさんが私を見て頷く。
「よし、話は終わったんじゃな。なら、解散じゃ。おつかれさん」
私達の話を何も言わずに聞いていたゴーコスさんが、会議室を出ると私達に手を振って帰っていく。
「疲れているみたいだな」
「仕方ないですよ。リュウを相手にしたんですから」
ギルマスさんの呟きに、オルフさんが頷く。
「アイビー。俺達も行こうか」
「うん」
ギルマスさん達に別れの挨拶をしてから、会議室を出る。
外に向かって歩いていると、冒険者達の浮かれている様子が見えた。
「なんだか皆、嬉しそうだね」
私の呟きにジナルさんが小さく笑う。
「リュウに襲いかかられる恐怖から解放されたからだろう。冒険者にとってリュウは最大の恐怖だからな」
「そっか。あっ、ラットルアさん達だ」
冒険者ギルドの出入り口付近でラットルアさん達を見つけて手を振る。
「アイビー」
ラットルアさんが私に気付くと一気に駆けて来る。
その勢いに、ちょっと驚く。
「ラットルアさん?」
「良かったぁ。森にリュウが出たと聞いて不安だったんだ。無事か? 怪我はしていないか?」
ラットルアさんは私をギュッと抱きしめると、すぐに離れて全身を確認する。
バチン。
「いたっ。シファル?」
ラットルアさんは叩かれた頭を押さえて、叩いたシファルさんを見る。
「アイビーは女性だよ。女性の体をじろじろ見るものではない。アイビー、ドルイド。無事で良かった」
いつもと変わらない微笑みを見せるシファルさん。
でも、その顔色はいつもより少し悪い。
「大丈夫です。全く怪我もしていないですよ」
私は、ラットルアさんとシファルさんに怪我をしていないと分かるように、クルっと1回転する。
「本当だ。どこにも血は付いていないな」
シファルさんがホッとした表情を浮かべ、大きく息を吐き出した。
「ラットルア、いたのか?」
セイゼルクさんの声に視線を向けると、冒険者ギルドの出入り口から入ってきた姿を見つけた。
ヌーガさんも一緒のようだ。
「セイゼルクさん、ヌーガさん。ただいま戻りました。お父さんも私も、ジナルさんも皆無事です」
セイゼルクさんとヌーガさんは、私達を順番に見て安堵した表情を浮かべた。
「良かったよ。試験結果を楽しみにしていたのに、冒険者ギルドから魔物の暴走が確認できたという情報がきて集合がかかったんだ」
あっ、セイゼルクさん達は上位冒険者だから集合がかかるのか。
服に血は付いていないし、怪我はしなかったみたいだね。
良かった。
「門を守るために集まったら、リュウが森で暴れていると聞いて心配した。怪我もないみたいだし、リュウには遭遇しなかったんだな」
セイゼルクさんの言葉に、私はお父さんとジナルさんを見る。
そんな私の様子を見たセイゼルクさん達が、少し驚いた表情をする。
「アイビー、まさか。えっ、ドルイド?」
ラットルアさんが説明を求めるように、お父さんを見る。
「ここでは話せないから行こうか」
お父さんの言葉に、セイゼルクさん達が無言で頷く。
冒険者ギルドを出て、貴族達の豪邸が並ぶ所まで来ると、ラットルアさんが私を見る。
「アイビー、本当に怪我はしていないんだよな?」
「うん、大丈夫。全く怪我はしなかったよ」
「ドルイド、ジナル。本当に遭遇したのか?」
セイゼルクさんが周りを確認してから、二人に聞く。
「あぁ、さすがに死を覚悟したよ」
ジナルさんの返答に、セイゼルクさん達が息を呑む。
「よく無事だったな」
ヌーガさんが呟くと、お父さんとジナルさんが私を見る。
「アイビーとソル達のお陰でな」
お父さんが微笑んで私の頭を撫でる。
それを不思議そうに、セイゼルクさん達が見る。
「詳しい話は戻ってからにしよう」
「分かった」
ジナルさんが言うと、セイゼルクさん達が頷いた。
すみません。
急な用事が入ったため、更新が遅くなりました。
ほのぼのる500




