1072話 グルフォと仲間
非常時に使用する出入り口から王都に入ると、多くの住民の姿があった。
彼らを避けながら大通りに向かい、冒険者ギルドに向かう。
「あれ? 騎士団員が沢山いるね」
大通りを歩いていると、パレードの時と同じくらい沢山の騎士団員の姿が見えた。
「魔物が暴れた時は、もしもの場合に備えて門の傍に住む住民を奥に移動させるんだ。その時に自警団員と騎士団員が駆り出されるから、まだその名残があるんだろう」
「そうなんだ」
お父さんの説明を聞きながら、騎士団員達が集まっている場所を見る。
彼らの中に、重装備をしている騎士団員がいる事に気付いた。
「門の外は上位冒険者が守る。魔物討伐に慣れていて、あらゆる魔物に対応出来る者達だからだ。門が突破された時は、王都の場合は騎士団員達が守る。他の村や町では自警団員が守るところもあるだろうな」
「決まりがあるんだね」
「うん。魔物の暴走は何処ででも起こる事だから、どの村や町でもある程度の動きは決まっている筈だ」
「大丈夫なのかしら?」
不安そうな声が聞こえたので視線を向けると、50代くらいの女性が2人、不安そうな表情で門の方を見ていた。
「最近、森の魔物がおかしいわよね」
「えぇ。巨大化した魔物なんて、少し前までいなかったのに……」
「そうよね。それにしても、今回の魔物の暴走は何が原因なのかしら? 怖いわ」
女性達の話を聞きながら、その横を通り過ぎる。
「息子が森に行っていた筈なの。無事だったらいいんだけど」
チラッと振り返ると、女性が門の方に向かって真剣な表情で祈っている姿が見えた。
私は小さく息を吐きながら、前を向く。
森の惨状を見てきたので、大丈夫だとは言えない。
でも、彼女の待ち人が無事でありますようにと願った。
「凄い人じゃなぁ」
冒険者達が集まっている冒険者ギルドを見て、ゴーコスさんが嫌そうに呟く。
「あっ、ゴーコスさん!」
1人の冒険者がゴーコスさんを見つけたのか、冒険者ギルドの出入り口の辺りからこちらに向かって、大きく手を振った。
「チョスか。今日も落ち着きがないのう」
ゴーコスさんは、彼を呼んだチョスさんという冒険者のところへ行く。
「森へ行ったと聞いて心配しました。無事で良かった。それより、今回の魔物の暴走は、捨てられた大地からリュウが溢れたせいみたいですよ。森の様子はどうでしたか? そうだ、ギルマスが出した特別任務を受けた冒険者達に会いませんでしたか? まだ連絡がないんです」
ゴーコスさんに向かって矢継ぎ早にまくし立てるチョスさん。
そんな彼の態度にゴーコスさんは溜め息を吐いた。
「少し落ち着かんか。答える暇もないじゃろうが」
「すみません。で?」
ゴーコスさんの態度に、申し訳なさそうな表情をしたチョスさん。
でも、ゴーコスさんの答えは気になるみたい。
「リュウが原因なのは知っとる。森の中で遭遇したからな。あと、森の中は、あちこちに酷い惨状が広がっとる。死者も何人も出たじゃろう。じゃが、ギルマスが出した特別任務のお陰で、多くの冒険者が命拾いした筈じゃ」
ゴーコスさんが話し始めると、周りにいた冒険者達は話を止め、彼の話を静かに聞く。
「あの、リュウはどうなりましたか? 2匹現れたと聞いたんですけど」
チョスさんの質問に、周りから音が消えた。
「大丈夫じゃ。2匹のリュウは捨てられた大地へ帰った」
ゴーコスさんの話を聞いて、周りにいた冒険者達の顔に安堵の表情が浮かんだ。
冒険者達の中には、涙ぐむ者までいる。
「良かったぁ。リュウが王都を襲う事はないんですね」
「おそらく大丈夫じゃ」
飛び去っていった2匹のリュウを思い出す。
あの子達が王都を襲う事は、きっとないだろう。
「失礼します。通して下さい」
若い女性の声が聞こえると、冒険者達が動き出す。
しばらくすると、ゴーコスさんの前に20代くらいの女性が現れた。
「ゴーコスさん。ギルマスが話を聞きたいと言っています。疲れているところすみませんが、お願いします」
女性がゴーコスさんに向かって頭を下げた。
「分かっとる。話をする為に冒険者ギルドまで来たんじゃからな。行こうかのう」
「ありがとうございます。あの、あなた達からも話を伺いたいんですが、よろしいでしょうか?」
女性の視線がジナルさんやお父さん達へ向く。
「えぇ、大丈夫です。行きましょう」
ジナルさんの返答にホッとした表情を浮かべた女性は、集まっている冒険者達に声を掛けながら、冒険者ギルドの奥にある会議室へ、ゴーコスさんやジナルさん達を案内した。
「失礼します」
女性が会議室の扉を開けると、中にはギルマスさんと、複数の男性の姿があった。
その中には、試験前にギルマスさんを迎えに来た男性もいる。
「ユース、ありがとう。あ~、ゴーコスさん! やっぱり生きてた! オルフ、ゴーコスさんは大丈夫だと言ったけど、本当だっただろう?」
ギルマスさんは、ゴーコスさんの姿を見て笑顔になる。
傍にいたオルフさんも安堵の表情で、ゴーコスさんに小さく頭を下げた。
ギルマスさんを迎えに来た人は、オルフさんと言うのか。
「まだまだ死ぬつもりなど、ないんじゃがな」
ゴーコスさんの言葉に、ギルマスさんもオルフさんも苦笑する。
「生きていたんですね。良かったです」
初めて見た男性が、ゴーコスさんに向かって笑顔を見せる。
「グルフォか。本当にそう思ってくれておるんじゃったら、嬉しいがのう」
ゴーコスさんが含みのある笑みを見せると、グルフォさんという人が視線を逸らす。
うわ、分かりやすい。
というか、この人がグルフォさんなんだ。
彼の周りにいる人達は、グルフォさんの仲間かな。
皆、気まずそうな表情をしているな。
「そうだ、ギルマスが特別任務を出しまして。まだ何も分かっていない状態の時にです。冒険者を無駄に危険に晒す行為だと思いませんか?」
グルフォさんが、ゴーコスさんの様子を窺いながら話す。
周りにいる仲間たちも、頷きながらゴーコスさんを見る。
「そのお陰で命拾いした冒険者がおる。ギルマスの判断は、正しいと言えるじゃろうな」
少し呆れた表情で答えるゴーコスさんに、グルフォさんは苛立ったような表情を一瞬見せた。
「そうだったんですか……それは、良かった」
グルフォさんを見て首を傾げる。
この人、魔物が暴れて死者が出たこんな時に、何がしたいの。
「そうじゃ、グルフォ」
「なんでしょうか?」
「ギルマスに配られた、合図を送るマジックアイテムに不備があった事を知っとるか?」
あっ、魔法陣が仕込まれていたマジックアイテムの事だよね。
「さぁ、俺は知りませんよ」
グルフォさんを見ると、少し焦っている様子が分かる。
それに、彼の仲間の1人が真っ青になっている。
「わっかりやすいわね~」
あれ?
女性の声?
部屋を見渡すと、頬に大きな傷のある女性がグルフォさんの後ろにいた。
あぁ、グルフォさんの後ろにいたから見えなかったのか。
「何がだ」
苛立った様子で話すグルフォさんに、女性が溜め息を吐く。
「表情、態度。その全てで関係していると言っているわよ。本当に、いつまで経っても無駄な事をするんだから」
女性を睨みつけるグルフォさん。
でも女性はその視線を受けても、グルフォさんを馬鹿にした様子で笑った。
「はぁ。二人とも止めろ。今はそんな事をしている場合じゃない」
ギルマスさんが疲れた表情で二人を止めると、女性はすぐにギルマスさんに謝った。
でも、グルフォさんは舌打ちすると、仲間と一緒に会議室から出て行った。




