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113話 ラットルアさんの愚痴

「ラットルアさん、何か問題でも起きたんですか? こんなところまで来るなんて」


「えっ! あっ、違う違う。問題はないから安心して。ただちょっと休憩しに来ただけだから」


休憩?

こんなところまで?

不思議に思い彼を見つめると、ちょっとばつの悪そうな表情をする。

これは何かあったのかもしれないな。


「そうですか、あっそうだ。これ食べますか?」


先ほど収穫した甘酸っぱい実をバッグから1個取り出す。

しっかり熟している物を選んだので甘さが濃くて美味しいはずだ。

ただ、時々はずれがあるのがこの実の特徴なのだが。


「プルーの実か」


「はい。時々はずれもありますが、たぶん大丈夫のはずです」


「ハハハ。プルーの実のはずれって、すごく酸っぱいんだよな」


「はい。当たった事ありますか?」


「あるある。甘いのを期待して口に入れるからすごくびっくりする。貰うね」


「あっ、水で洗ってないですよ?」


「ん? 大丈夫、拭いて食べるから」


ラットルアさんは、プルーをさっと拭いてから口に入れる。

はずれていたらどうしようかとドキドキする。

彼の表情を見ていると、大丈夫だったようだ。

よかった。

これではずれだったら申し訳ない。


「木で十分熟していたみたいだ。甘くて美味いよ」


「まだありますよ。どうぞ」


「ありがとう」


バッグからプルーの実を3個取り出す。

どれも甘酸っぱい良い香りがする。

食べるところを見ていると欲しくなってきたな。

1個をさっと布で拭いて、かじりつく。

口に広がる甘い果汁。

う~美味しい。


「ここ、いい場所だな。ゆっくりした時間が流れている」


ラットルアさんが寝ているシエルとソラを見て、ふんわり笑う。

シエルのお腹に突進した状態で寝ているソラ。

旅をしている時によく見かけた寝方だ。


「朝から、ちょっとめんどくさい奴らが来てさ~。団長と副団長が対応したけど、いちいち文句言いやがって、本当に鬱陶しかった」


小さなため息をつきながら話す彼は疲れているようだ。

先ほどまであったのんびりした雰囲気がちょっと薄れて、どんよりした雰囲気になっている。


「お疲れ様です」


「本当だよ。……フォロンダ領主が来てくれたから何とか落ち着いたけど。はぁ~」


めんどくさいのは貴族か。

おそらく貴族に話を通さずに作戦を実行した事で、文句を言いに来たのだろう。

「何の役にも立たないくせに話を通さないと文句をつけるわ。話したら外部に洩れるわ。あのクソども、少しは考えて行動しろって言うんだ!」

そう言って団長さんが、ボロルダさんと作戦の事で話している時にぼやいていた。

ボロルダさんは苦笑いだけだったが。


「だいたい今回の事を事前に知っていたら逃げ出しただろうが。あの馬鹿ども」


これは、本当に役に立たない貴族に文句を言われてきたらしい。

今回はかなり上の貴族が関わっている可能性がある。

巻き込まれたくないと考えたら逃げ出すしかないだろう。

でも、もしその行動で異変に感づかれたら作戦が失敗した可能性もある。

……やっぱり、今回の事は内密に進めて正解だったのだろう。

まぁ、知らせる余裕なんてなかったけど。


「フォロンダ領主に関わっている貴族の名前をあげられて、顔を真っ青にしていたのがいい気味だ」


ラットルアさんは話しながらスッキリしてきたのか、雰囲気が明るくなってくる。

よかった。

ちょっと落ち着いたようだ。


「そうだ。明日の午後に組織の事で大きく動く事になったから」


大きく動く?

……ファルトリア伯爵の事かな。


「証拠を掴めたのですか?」


「あぁ、書類の中に名前がばっちり。あとフォロンダ領主が話を聞いた貴族からも証言が取れて、証拠も出たらしい。他にもシファルが話を聞いた商人も証拠を持っていたらしいから」


「そうですか」


ファルトリア伯爵はおそらく組織のトップ辺りの存在。

彼が捕まれば、また多くの人が捕まる可能性があるな。


「明日の午後から町はすごい事になるだろうから、気を付けてくれ」


「危ない事になりそうですか?」


「無いと思いたいけど人気のある人だからな、どうなるか不明だ。自警団は待機を命じられているよ」


町の人に人気がある貴族。

その人がまさか町全体を裏切っていたなんて知られたらどうなるか。

今日だって、新たに捕まった人が出て不安そうだったのに。

ファルトリア伯爵が捕まる事で一区切りとなる。

でも、その事実はあまりにも重く町に圧し掛かるだろうな。


「町の人達は大丈夫でしょうか?」


「かなり衝撃を受けるだろうな。だが、避けては通れないから」


「そうですね」


早く、落ち着くといいな。


「ん~。眠たくなったけど、そろそろ戻らないとセイゼルクに怒られるかも」


「頑張ってくださいね。美味しいモノを作っておきますから」


「よろしく! 最近の唯一の楽しみなんだ」


「分かりました!」


前の私の知識を駆使して美味しい物を作ります。

頑張っている人にはご褒美が必要なのです。


「よし! じゃ、夕飯には帰るので、絶対」


絶対と言う部分を力強く宣言した彼を見送る。

これは確実に夕飯には帰って来るな。

もしかしたら全員で。

今日は何を作ろうかな。

ラットルアさんはチーズが好きそうだったな。

トーマの煮込みにチーズを入れても美味しいだろうな。

どうせ、彼らには私の作る物は不思議がられているのだから、今更隠す必要もないだろう。

それに、なんとなくいろいろ考えているうちに吹っ切れてしまった。

どうせ誤魔化すなら隠す必要は無い。

それに隠すから気になるのだ。

隠さず堂々としていれば、そんなモノだと納得してくれるだろう。

……たぶん。


「明日か……ちょっと不安だな」


グルルル。

不意にシエルの声が聞こえる。

視線を向けると、じっと私を見つめている。

心配されているのだろうか?


「大丈夫だよ、たぶん」


人気のある貴族が捕まる事で混乱が起きるだろう。

混乱と悲しみで、暴動が起きる可能性もある。

そうならないと信じたいけど。

自警団が待機しているのは、もしもの事を考えてだろうな。


「あ~、早く落ち着いてほしい!」


「にゃうん」


「そうだよね! シエルもそう思うよね!」


グルルル。

シエルってどこまで理解しているのだろう?

本当に不思議な存在だな。


「ふふふ、ありがとう」


ゆっくりしていると本当に眠くなるな。

こんなにのんびりしたのっていつ振りだろう。

……セイゼルクさん達に会う前か。

随分前だな。


「明日、罠に獲物が掛かっているといいな」


久々にお肉を解体して、売りに行って。

組織に関わる前の日常。

早く元に戻りたい。


「ん~、本当に眠くなってくるな。でも、寝てしまったら駄目だよね」


シエルがいると安心感からちょこっと心が怠けてしまうな。

気を付けないと。


「そろそろ戻って美味しいモノでも作ろうかな」


今から戻って作れば手の込んだ物も作れるだろう。

昨日は煮込み料理だけだったから、今日はお肉も焼こうかな。

味付けは、そう言えば変わった薬草をセイゼルクさんが買って来ていたな。

口に入れるとちょっとつんとした辛みがある味だった。

焼いたお肉にあいそう。


「そう言えば蒸すという料理方法もあったな」


野菜と一緒に蒸してもいいかも。

……絶対にシファルさん辺りに何か言われそうだな。

ふふふ、それもちょっと楽しみかも。


「ソラ、起きて! シエルもありがとう。明日罠の結果楽しみだね」


グルルル


「ぷっぷぷ~」


シエルの喉を鳴らす音は問題ないが、何とも眠そうなソラの声に体から力が抜けそうだ。

帰る準備を整えて、途中までシエルと町へ戻る。

大丈夫と言っても、付いて来てくれた。


「ここからは冒険者も多くなるからいいよ。気を付けてね」


グルルル。

シエルは顔をすりすりと擦りつけると、さっと身をひるがえして森の奥へと走り去る。

何とも頼もしい姿だ。

周りの気配を探ると、少し離れた所に人の気配がする。

移動方向から町へ戻る冒険者かもしれない。


「ソラ、人がいるからバッグに入ろうか」


小声でソラを呼ぶと、ぴょんと跳ねて腕の中に飛び込んでくる。

その姿に慌てる。

以前、飛び込んできたソラを落としてしまって、落ち込ませてしまった事があるのだ。

いじけたソラは可愛い……可哀想だったので落とせない。

ギュッと抱きしめる感触にホッと体から力が抜ける。

今日は落とさず抱きとめられたようだ。


「ソラ、急に飛び込んでくると落としちゃうから」


腕の中でプルプルと震えるソラ。

何とも楽しそうな雰囲気を感じる。

慌てている私を見て、面白がっている?

……まさかね。


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― 新着の感想 ―
ちょっと長い過ぎよねずっと人攫い話し引っ張る
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