1059話 スキルは本人次第
ジナルさん達と一緒に食堂へ行くと、セイゼルクさんが私達を見て手を挙げた。
「ジナル、久しぶりだな」
「あぁ、久しぶり。どうして皆、ここにいるんだ?」
セイゼルクさんが挨拶すると、ジナルさんが首を傾げながら食堂内を見回した。
食堂内には、セイゼルクさんのほか、ラットルアさんやヌーガさんもいる。
さらに、調理場へ続く扉のそばには、ドールさんとフォリーさんもいた。
「ジナルが来ているとドールさんに聞いたんだ。スキルについて、何か聞き出せないかと思ってな」
セイゼルクさんの説明に、ジナルさんが苦笑する。
「なるほど、聞き出すつもりだったのか。ちょうどいい、明後日、両ギルドからスキルについて発表がある。その件について、ドルイド達に話すつもりで来たんだから」
「そうか。出掛けていなくて良かったよ」
セイゼルクさんの言葉に、ラットルアさんが笑う。
「魔力の安定していないスノーが心配で、出掛けられないくせに」
繭から無事に出てきたスノー。
でも、魔力がまだ安定していないせいか、スノーはよく眠っている。
セイゼルクさんは、不安定な魔力が暴走しないか心配で、気付くといつもスノーの傍にいた。
「まだ安定しないのか?」
「いや、日に日に安定してきているから大丈夫だ」
セイゼルクさんが首を振って答えると、お父さんがホッとした表情を浮かべた。
「そうか。良かったな」
「あぁ」
皆がそれぞれ椅子に座ると、ドールさんとフォリーさんがお茶と甘味を用意してくれた。
「それで、ジナル。スキルについてどんな発表になるんだ?」
セイゼルクさんが質問すると、皆が緊張した面持ちでジナルさんに視線を向ける。
「5歳になるとスキルが発現する」
あれ?
私は「神様からスキルが授けられる」と聞いていたけど、ジナルさんは『発現する』と言うんだね。
「この点について変化はない。最近も、子供達50人を調査対象に、いつ頃スキルが発現するのか調べたみたいだけど、早い子は4歳6ヵ月。でも、ほとんどの子は5歳だったそうだ」
5歳になる前に、スキルを発現する子がいるんだ。
というか、そういう事を調べたりしているんだね。
「そして、5歳で発現するスキルについては、これまで通りと考えてよさそうだ。発現するスキルの平均は2つ。ただし、このスキルは消失したり、変化したり、数が増えたりする場合もあることが分かった」
ジナルさんの説明に、皆が息を呑んだ。
「噂は本当だったという事か」
シファルさんの呟きに、ジナルさんが頷く。
「そうだ。そしてスキルが増える条件は、本人次第だ」
ジナルさんの説明に、皆が首を傾げる。
「本人次第とは?」
お父さんが怪訝な表情でジナルさんを見る。
「冒険者の中には、持っているスキルに関係なく、剣を武器にしている者が多いよな?」
冒険者向きのスキルを持っていない者は、よく武器として剣を選ぶと聞いた事がある。
その事かな?
「彼らは剣に関するスキルを持っていないから、スキルを持つ者達よりも多くの時間を努力に費やすことになる。そして、その努力を長年続けていくうちに、剣に関するスキルが増えるみたいだ。もしくは、もともと持っているスキルが剣に関連したものに変わる」
「それって……」
ラットルアさんが少し驚いた表情になる。
「スキルが増える条件は、本人がやり続けた事に関連したスキルだ。そしてなくなるスキルは、本人が使っていないスキル。つまり、本人にとっていらないと考えているスキルや、放置しているスキルだな」
ジナルさんの説明に、皆がそれぞれ考え込む。
「スキルが増えると言ったけど、いくつまでだ?」
「それに関してはまだ調査中だけど、最大5個は変わっていない可能性が高い」
ヌーガさんの質問に、ジナルさんが彼に視線を向ける。
「今回の調査で、スキルが大きく変化した者を見つけた。もともと冒険者向きのスキルをひとつも持っていなかった女性が、親と同じ冒険者になりたいと7歳の頃から剣の練習を始めたそうだ。それから約30年。今回の調査で、もともと持っていた調理スキルと彫刻スキルはなくなり、剣術スキル、短剣術スキル、火球スキルになっていたらしい」
凄い。
まったく違うスキルに変わっている。
「本人に話を聞くと、通常は剣で戦っているけど、相手や場所によっては短剣を使う事もあるみたいだ。そして、火球の方は、攻撃だけでなく相手の視線を逸らすためなど多岐にわたって使っていると言っていた。そして今も強さを求めて日々努力をしているようだ」
「つまり、よく使う武器や攻撃方法がスキルになった?」
ジナルさんの説明を聞いたお父さんが呟くと、ジナルさんが頷く。
「まだ事例が少ないため、間違いなく『そうだ』とは言えないらしいけど、他にも似たような話が出ていると聞いている」
「スキルが変化したり増えるのに必要な期間は?」
シファルさんの質問に、ジナルさんが肩を竦める。
「最低でも7年以上かかるんじゃないかって感じだな」
「分かっていないのか?」
ジナルさんの返答にシファルさんが眉間に皺を寄せる。
「仕方ないさ。スキルを調べる大人がいなかったんだから」
それはそうだね。
変化すると分かっていたら、調べただろうけど。
「最低でも7年か」
「その7年も、毎日練習を怠らなかったからだと俺は思う」
ヌーガさんの呟きに、ジナルさんが彼に視線を向ける。
「今回分かった事は、継続して取り組む事がとても大事だという事だ。スキルの星が3つあっても、何もしなければそのスキルが消えてしまう可能性があるらしい。ただし、この事例は少なく過ぎて、公式な発表はまだ出来ないそうだけどな」
ジナルさんは言い切ると、お茶を飲む。
「面白いな」
シファルさんが楽しそうな表情を浮かべる。
「大人になってからのスキルはご褒美だな」
「ご褒美?」
私が不思議そうに聞くと、お父さんが微笑んだ。
「そう。頑張り続けたからご褒美」
あぁ、なるほど。
確かに、そうかもしれないね。
「でも最低でも7年か。長いな」
セイゼルクさんはお茶を飲んで、フォリーさんが用意してくれた甘味に手を伸ばす。
「この年数を出すのが、かなり大変だったんだ」
ジナルさんが小さく溜め息を吐くと、お父さんが首を傾げた。
「そうなのか?」
「あぁ、ある人がテイマーのスキルを手に入れたんだけど」
「テイマー? あっ」
テイマーに反応して思わず声が出てしまう私を見て、ジナルさんが微笑んだ。
「スキルの調査結果と、テイマースキルを手に入れた者との話が一致しない。特に、スキルを取得するまでの期間が合っていなかったんだ」
「どういう事だ?」
「その人は、ある魔物と最近一緒に過ごすようになっただけで、数年も深く関わっていたわけではないんだ」
それは、確かにおかしいね。
「まぁ、詳しく話を聞けば、子供の頃に怪我をした魔物を保護して、ずっと一緒に生活をしていた事が分かったんだけど。なかなかその事を話さなかったからさ」
ずっと一緒に生活していたという事は、数年間関係が続いていたって事だよね。
そのおかげで、テイマースキルを手に入れたのか。
最近関わった魔物って、どんな魔物なんだろう。




