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番外編 フォロンダ公爵と捨てられた大地4

―フォロンダ公爵視点―


執務室に戻るとスイナスに視線を向ける。


「さっきの報告が本当に急ぎなのか?」


確かに重要な情報だったけれど、急ぎというほどではなかった。


「あの部屋は外部に音が漏れますので」


つまり、あの部屋では報告できなかったという事か。


「何があった?」


俺の質問にスイナスは、上着の内ポケットから赤い二重線の入った紙を取り出した。


「王様からの呼び出しです」


その紙を使ったという事は、何か緊急かつ極秘の用件があるのか。


「任命式後の王の予定は、確か子供達のスキルを調べるんだったな」


子供達のスキルに問題があったのか?


「行こう」


「はい」


気を引き締めて王の下へ向かう。


王となったホルは、家族との時間を大切にしたいと、執務室がある王城ではなく離宮に住み始めた。

おそらく、王子として生きる事になった子供達の負担を、少しでも減らしたいと思ったからだろう。


コンコンコン。


「フォロンダです」


「どうぞ」


部屋に入ると、ホルとその家族が楽しそうにスキルについて話していた。

その様子から、スキルに問題がある様には見えない。


「失礼いたします。ご用件はなんでしょうか」


ホルに視線を向けると、彼は家族から離れて俺の傍に来た。


「おじさん! 聞いて! 私、主導者スキルがあったの」


ホルの長女で、第1王女となった6歳のスティスが嬉しそうに俺の下に駆け寄って来る。


王族だけに現れるスキルがある。

主導者スキルと先導者スキルだ。

どうやら、そのうちの1つである主導者スキルをスティスは得たようだ。


「それは良かったですね。おめでとうございます」


スティスに向かって頭を下げると、彼女はなんとも言えない表情をした。


「……おじさんが私に今みたいな喋り方をすると、ぞわっとする」


丁寧に話す事か?

失礼だな。


「スティスもか? 俺もなんだ」


「お父さんもなんだ」


ホルとスティスが顔を見合わせて、頷き合う。


「慣れて下さい」


二人にそう言うと、ホルは肩をすくめ、スティスは視線を逸らした。


「おじさん、俺は瞬発スキルに剣スキル、あと隠密スキルだった。戦闘系のスキルが欲しかったから嬉しい。これで父さんみたいな騎士になれるな」


第1王子になった9歳のホルダが俺に向かって嬉しそうに笑う。


「おめでとうございます」


ホルダは自分が王子になると知ってからも、ずっと騎士になりたいと言っていたからな。


「という事で、俺は王にはならないからな! あとは2人でよろしく」


ホルダが嬉しそうに、第2王子になった7歳のアダーラに視線を向ける。

アダーラを見ると、ソファに座って項垂れていた。


「嫌だね。俺は絶対に王位は継がない! スティスも主導者スキルを持っているんだから、妹がなればいいよ」


どうやら、アダーラも主導者スキルを持っているようだ。


「ところで、手に入れたスキルについては話さない様に言っておいた筈ですが」


「「「あっ」」」


俺の言葉に、ハッとした表情をする子供達。

サッと俺から視線を逸らすと、黙り込んだ。


「まぁ、フォロンダだからいいんじゃないか?」


ホルの言葉に無言で頷く子供達。

その様子を見ていた王妃となったチャスラが、にっこりと笑った。


「そうだ、フォロンダに聞きたい事があったの」


「なんでしょうか?」


チャスラを見ると、わくわくした表情を浮かべていた。


「どうやって私を王妃として認めさせたの? だって、結婚する前に産まれた子供達は、本当にホルの子供かどうか疑われていたでしょう?」


「あぁ、それですか」


王位継承権の争いが激化したため、ホルはなかなか王都に戻ることができず、また正体を知られた時に結婚していたらチャスラに危険が及ぶと思い結婚届を出せないままでいた。

それなのに、ホルが王都に戻ったたびに子供が出来るなんて……。

まぁ、これはチャスラの仕業みたいだけど。


久しぶりにチャスラの様子を見に行ったら、彼女が赤ん坊を抱いて微笑んでいるのを見て、俺は慌ててホルに結婚届を書かせ、俺が提出したんだったな。


「交渉と脅し。それに、子供達の顔を見れば納得するでしょう」


俺の言葉に、ホルとチャスラが子供達を見る。


「確かにそうね。私の子供でもあるのに、私に似たところを探すのが難しいんだから」


チャスラの呟きにホルが苦笑する。


「3人とも、俺にそっくりだからな」


えぇ、本当に。


「それで俺を呼んだ理由はなんですか?」


急ぎで呼ばれたのに、こんなにのんびりしていていいのか?


「こっちへ」


ホルと家族がいる部屋から出る。

スイナスも付いてきたが、ホルは気にしていないので問題ないのだろう。


離宮にある執務室に入ると、ホルがソファを勧めてきた。


「フォロンダ」


「はい」


真剣な表情のホルを見て、気を引き締める。


「スキルは一生、変わる事も増える事もないんだよな?」


「はい。そうです」


スキルが変化したり増えたりする事はあるのか、さまざまな研究が行われてきた。

でも、与えられたスキルがこれまで変化したり増えたりした例は1つもなかった。


「子供達がスキルを調べた時、チャスラと一緒に面白がって俺達も調べたんだ」


「はい」


えっ、まさかスキルに何かがあったのか?


「俺が持っているスキルは、王族だけが持つ先導者スキルと戦術スキル。あと体力スキルだ」


「はい」


「今日調べたら、テイマーと欺瞞スキルが増えていた」


「…………本当に?」


「本当だ」


まさかと思ったが、本当にスキルが増えた?


「テイマーはきっと木の魔物の影響だと思う。王都に戻って不安定だった俺を、ずっと支えてくれた。俺も木の魔物の事を信用しているし。欺瞞はまぁ、俺がここにいられるのはずっと人を欺いてきたから、その結果だろうな」


ホルの説明を聞きながら、頭を抱える。


「チャスラのスキルを覚えているか? 回避スキルと風魔法スキルなんだけど」


「えぇ、彼女もスキルが増えたのですか?」


「増えたし変わった」


「はっ?」


ホルの言葉に首を傾げる。


「チャスラの今のスキルは回避スキルと毒耐性スキル、殺気感知スキル。あと潜行スキルだった」


潜行?

あぁ、人目を避けてひそかに行動する事か。


「見事に、身を守るスキルが揃ったな」


「彼女は子供達を守るために頑張ってくれたから」


「そうだな」


「フォロンダ様」


スイナスを見ると、小さな声で「言葉」と言う。


あっ、あまりの事に言葉遣いが元に戻ってしまっているな。


「失礼しました」


「気にしなくていいのに」


ホルが少し残念そうな表情をするが仕方ない。

普段から気を付けておかないと、ぼろが出るからな。


「スキルが変わったり増えたりする事が分かったら、どうなる?」


「大混乱が起こるでしょう」


これまで、望んだスキルが手に入らず、夢を諦めた者もいる。

しかし、名を上げた多くの冒険者が、努力を続ければスキルなど関係ないことを後世に伝えてくれた。

だから今は、スキルに左右されず好きな仕事をする者も多くいる。

それが急にスキルに変化が起こるとなったら……考えたくもないな。


「早急に対策を考えた方がいいのではないですか?」


スイナスの言う通り、これはすぐに動く必要があるな。


「まず、身近な者達のスキルの変化を調べよう。どんな変化をするのか、増える数に制限があるのか等はある程度分かるでしょう」


騎士や冒険者、それに王城に勤めている者達を調べれば、ある程度予測は付くだろう。


「大混乱が起きるだろうけれど、悪い事ではないよな。だって、努力次第でスキルが変化する時代になるんだから」


「えっ?」


努力次第で変わる?

そうか、努力によってスキルが変化する可能性が、今示されたのか。


「そう考えると、今までと変わらないな。ただ、努力をするだけだ」


ホルが俺を見て笑う。


「まぁ、そうですね」


スキルが変化するとわかれば混乱は起こる。

でも、ホルの言う通り変化を起こすためには努力をする必要がある。

つまり、その点は今までと変わらないという事だ。


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― 新着の感想 ―
ホルさんって、オカンイ村で出会った騎士さんのリーダー?
アイビーやドルイドのスキルもかわってるかも?
王様がスキル生えてテイマーになっちゃった!木の魔物と仲良くしている図を想像するだけで微笑ましいので契約あるなしに関わらず仲良くしていってほしいです! そういえば王妃様は変化したと判断されましたけど、こ…
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