番外編 フォロンダ公爵と捨てられた大地3
―フォロンダ公爵視点―
「ここまで来たという事は、その報告は急ぎなのか? それと、魔力に色? 魔力に色なんてないだろう」
ルーダが不思議そうに自分の手を見ると、彼女の魔力が少し揺れた。
おそらく、魔力を手に集めているんだろう。
「分かりやすくする為に、色を使ったようです」
スイナスの説明に、ルーダは自分の手から視線を上げて頷いた。
「それで、魔力の色について何が分かったんだ?」
俺を待つのではなく追って来た理由が気になる。
「文献に『魔力は人によって色が違う』と書かれていたと話しましたよね?」
スイナスの説明に頷く。
「似た様な色があっても、全く同じ色はないと言ってもいいのかもしれない」とも書かれていたんだったな。
「オカンノ村にあった教会が管理していた建物から、大量の書類が見つかったと報告がありましたけど覚えていますか?」
オカンノ村の教会?
あぁ、教会が管理していた古い建物の地下に隠し部屋が見つかり、そこから大量の書類が出たな。
かなり古い書類で、文字が消えてしまった物も多かったと聞いている。
「覚えている」
「その書類の中に『人の住む場所と魔力の色』という書類があったんです」
「人の住む場所? そんな事が魔力の色と関係あるのか?」
ルーダの疑問にスイナスが視線を向ける。
「はい。その書類によると、人が持つ魔力の色は赤系と青系、この2種類に分かれるようです。しかも、もともとこの2種類は別々の場所に住んでいたと書かれていました」
「「……」」
意味が分からずルーダと一緒に無言で首を傾げる。
「戦時中の人達は、ここ王都と捨てられた大地を境に分かれていました。書類では、王都側を赤系とするなら、捨てられた大地側は青系だろうとありました」
「つまり、私達は赤系の魔力を持っているという事になるのか?」
「いえ、戦争が終わると捨てられた大地にいた者達は、王都側に来ました。つまり、今の王都側には青系の魔力を持つ者もいる事になるでしょう」
ルーダの呟きにスイナスが首を横に振る。
「その書類には、魔物についても同じ様な傾向があると記されていました」
「えっ?」
ルーダが驚いた声を上げ、スイナスを見る。
「魔物も同じ? つまり、捨てられた大地にいた魔物は魔力の色は青系で、王都側にいた魔物は赤系という事か?」
「この書類は正式な文献ではないため、内容の信憑性は分かりません。ただ、もし書かれていることが事実なら、そうなります」
俺の問いに答えたスイナスは、神妙な表情をした。
「別の書類に載っていたのですが、戦時中に作られたマジックアイテムは、それぞれの魔力に合わせて作られていたようです。教会は、王都側で見つかった物と捨てられた大地側で見つかった物を同じ人物の魔力を使って動作確認をしていました」
「待って。教会は魔力の色について知っていたという事?」
ルーダが眉間に皺を寄せる。
「その書類を読む限り、そう考えていいと思います」
何故だ?
スイナスの話を聞く限り、かなり重要な情報だ。
それなのに、何故今までこの事を誰も知らなかった?
もし教会が魔力の色について調べていたら、内部に入り込んでいる仲間からその報告が来ていた筈だし、関連する書類も既に見つかっているだろう。
でも、誰からも魔力の色についての報告はなかったし、教会が管理していた研究所からもその様な書類は出なかった。
つまり、最近の教会は、魔力の色について調べていないという事になる。
そういえば、その書類が見つかった建物は、教会関係者も知らなかったな。
教会の化け物と呼ばれた者が住んでいた場所で見つかった大量の書類。
多くは魔法陣の実験に関するものだったか、それ以外の書類も見つかった。
その中の一枚に、建物の名前が書かれていた筈だ。
「動作確認の結果は?」
スイナスがルーダを見る。
「王都側で見つかった物は動いたみたいです。でも捨てられた大地側で見つかった物は動いた様ですが、暫くするとマジックアイテムに籠めた魔力が暴走したみたいです」
魔力の暴走。
つまり、マジックアイテムに込めた魔力が合わなかったという事か。
「その書類に別の実験も載っていました。それを伝える為に、フォロンダ公爵を探していたんです」
スイナスを見る。
「どんな実験なんだ?」
「赤系の魔力を籠めたマジックアイテムに、青系の魔力を持つ魔物を近付けると異常な行動が出たとありました。しかも、それを続けると魔物が暴走したと」
「あ~、それって……」
ルーダが頭を抱える。
王都側にあった大量のマジックアイテムは、捨てられた大地に捨てられた。
その事が、魔物を暴走させているのか。
大量に集まったマジックアイテムも、魔物に影響を及ぼしているんだろうな。
バターン。
「ルーダ、動き出した!」
うわっ、びっくりした。
部屋に飛び込んできた男性を見ると、捨てられた大地で討伐任務にあたっている冒険者のフォンだった。
「急に開けるな。攻撃をするところだっただろう!」
スイナスの怒声に視線を向けると、彼は剣に手を掛けていた。
「悪い。急ぎだったから」
「どうした?」
フォンはスイナスに小さく頭を下げるとルーダを見た。
「監視していたマジックアイテムが作動した」
「そうか」
フォンの報告に、ルーダの顔色が変わる。
「魔物は?」
「とりあえず、魔物除けを使って近付けないようにしたけど……おそらく時間の問題だ」
ルーダとフォンの話に、嫌な予感がする。
「ルーダ、何があった? 説明を頼む」
「最近、マジックアイテムに変化が起こるようになった」
その報告はきていたな。
ずっと静かだったマジックアイテムから音がすると。
「ずっと何も起きなかったのに、急に動き出した事があった。だから、気になるマジックアイテムに監視を付けた。その内の1つが動き出したみたいだ」
「そのマジックアイテムは、どんな影響を及ぼすんだ?」
ルーダは俺を見て、首を横に振った。
「どんな物なのか、詳しくは分からない。でも、それに似たマジックアイテムのせいで、魔物が死ななかった」
「死なない魔物?」
ルーダの言葉を聞いてスイナスが首を傾げる。
「いや、最終的には死ぬ。でも、首を切り落としたあとも5分ぐらいかな、暴れ回ったんだ」
「「……」」
ルーダの説明に、言葉を失う。
「そんな報告は受けていないぞ?」
捨てられた大地の魔物討伐は大変だから、全ての事を報告しろとは言っていない。
でも、これについては報告が欲しかったな。
「私が怪我をした原因ですよ。首を落としたからもう大丈夫だと近付いたら、グサッとやられた」
その件については報告が来ていたな。
ポーションのおかげで助かったとあった。
「魔物に付いて調査中だったな」
「うん。その魔物が特別だったのか、マジックアイテムの影響だったのか分からなかった。だから、似ているマジックアイテムを見つけて監視したんだ。そしてその中の1つが動き出した。本当は動き出して欲しくなかったけど」
「そうか」
確実な事が分かるまで報告を待ったのか。
「おじさん。あのポーションはまだある?」
アイビーから貰った光ポーションか。
王都で何かあった場合を考えて、数本残していたな。
「ある。残りを全て持って行かせるよ」
アイビーにポーションのことを頼んでも大丈夫だろうか?
「ありがとう。フォン、タダン行こうか」
「3人とも、気を付けて」
「「「はい」」」
3人を見送ると、小さく息を吐き出す。
「フォロンダ様」
「どうした?」
ソファから立ち上がり、スイナスを見る。
「捨てられた大地にあるマジックアイテムに、変化が起こっているんですか?」
「あぁ、教会の問題が片付いたあとくらいだったかな」
あの報告には、本当に驚いたからな。
急いで研究員を捨てられた大地に送ったけど、そういえば彼らからまだ報告書が届いていないな。




