1050話 戦時中に作られた物
「セイゼルク。戦時中に作られたマジックアイテムの事を話すために、この部屋を借りたのか?」
お父さんの質問に、セイゼルクさんが頷く。
「うん。『このマジックアイテムについては極秘だから、他の者に知られないように気を付けて欲しい』と、言われたからだ」
極秘の情報を私達に話してもいいのかな?
「その極秘の情報を、フォロンダ公爵はどうしてセイゼルク達に話したんだ?」
ラットルアさんが不思議そうに、セイゼルクさんとシファルさんを見る。
「それは俺達が、捨てられた大地に行こうとしているからだ」
「どんな関係があるんだ?」
セイゼルクさんの答えに、お父さんが疑問を口にした。
「アイビーとドルイドが受け取った本には『捨てられた大地より木の魔物達とリュウ達が溢れ出て王都を襲う』と書いてあっただろう?」
未来視が見た未来。
それを本で、私とお父さんに伝えてくれたんだよね。
「フォロンダ公爵は、その原因が戦時中に作られたマジックアイテムと、魔法陣だと考えているんだ」
セイゼルクさんの説明に、皆の表情が険しくなった。
「オードグズ国の地図は国の半分しか描かれていない事は、フォロンダ公爵から聞いただろう?」
セイゼルクさんが話ながら全員を見渡す。
「遥か昔、未知の大地側と王都側はそれぞれ別の国が治めていて、戦争をしていた。そして、この王都は最も激しい戦場だったらしい。両国が激しくぶつかった場所であり、両国の作ったマジックアイテムが持ち込まれ、そのせいで多くの者が命を落としていった場所なんだ」
この王都が戦場だったの?
「世界が滅ぶ未来を見た者達によって、多くの犠牲を出しながら戦争は終わった。でも、王都と捨てられた大地には、大量のマジックアイテムが残ってしまった。しかも、戦後に王都に人が集まり始めると、こちら側にあったマジックアイテムを捨てられた大地に捨ててしまったんだ」
えっ、マジックアイテムを捨てられた大地に捨てた?
「マジックアイテムが集まると危険だと気付いた時には、もうすでに色々と手遅れだったらしい。だから当時の王家は、捨てられた大地と未知の大地の間に結界を張って、魔物がこちら側に来られないようにしたそうだ」
でもそれは、根本的な解決策ではないよね。
「昔から王都では他の町や村に比べると、魔物の暴走する回数が多かっただろう?」
「冒険者の間では有名な話だな」
セイゼルクさんの話を聞いて、ラットルアさんが頷く。
「あぁ。その原因はずっと分からないとされていたけど、実は知っていた者もいたんだ」
「王都側に残っていたマジックアイテムが原因だったのか」
ヌーガさんが難しい表情でセイゼルクさんを見る。
「そうだ。暴走の全てではないが、大部分は戦時中に作られたマジックアイテムが原因らしい」
「1つ気になっているんだけど。マジックアイテムは普通は魔物を倒したときに手に入るものだよな? でも、話を聞いていると戦時中は作っていたと言っている。今のマジックアイテムと昔のものは違うのか?」
ラットルアさんが、首を傾げてセイゼルクさんを見る。
あっ、そうだ。
マジックアイテムは、魔物を倒した事でドロップするんだった。
「昔の技術は今より進んでいた可能性が高いとフォロンダ公爵が言っていた。そしてマジックアイテムに似た物を作る技術があったらしい。昔のものは現在のマジックアイテムとは別の物だけど、どちらも魔力で動くから、マジックアイテムと呼んでいるそうだ」
マジックアイテムを作れた時代があったんだ。
改良は出来るけど、最初から作るのは難しいと言われているのに。
「戦時中は、悪魔の道具とか死者の道具とか呼ばれていたらしいよ」
シファルさんの呟きにセイゼルクさんが頷く。
「戦時中のマジックアイテムだけど、どんな物があったんだ? 俺達が見つけたのは、魔物を巨大化させるものだったけど」
ラットルアさんが興味を持った表情で、セイゼルクさんとシファルさんを見る。
「見つけて調べる事が出来た物に限られるが、全て戦争のために作られたマジックアイテムと判断されたそうだ」
シファルさんの説明に、ラットルアさんが困惑した表情を見せる。
「全部? 本当に全部が戦争のためのマジックアイテムだったのか?」
ラットルアさんが信じられないと呟くと、セイゼルクさんが溜め息を吐く。
「戦時中は、戦争に勝つ事が全てだったみたいだから、今とは考え方が違うんだろう」
光の森にある教会で見た過去。
人をまるで道具のように扱っていて、見ているのがとても苦しかった。
そんな時代のマジックアイテムか……恐ろしい。
「フォロンダ公爵は、アイビーに捨てられた大地に行って欲しくないんだよ」
「えっ?」
セイゼルクさんを見ると困った表情をしていた。
「捨てられた大地の魔物が、戦時中のマジックアイテムによって巨大化して変異した魔物だと知らせたのは、変異した魔物と2回戦った事でその異常さを知ったと、思ったからだと思う。あんなのが沢山いる場所だと伝えたいんだ」
怖い場所だと言いたいって事か。
セイゼルクさんの説明に頷く。
「でも……私の気持ちは変わらないかな」
少し考えてみたけど、やっぱり私は捨てられた大地に行って、木の魔物達が暴走するのを止めたい。
「まぁそういうだろうと思ったから、フォロンダ公爵には伝えてあるよ。『アイビーの気持ちは変わらないと思いますよ』って」
シファルさんの言葉に、セイゼルクさんが苦笑する。
「そうなんだ。ありがとう」
私の事を分かってくれていて、嬉しいな。
「フォロンダ公爵は深い溜め息を吐いていたけどな」
あぁ、今度会った時に謝る?
いや、悪い事はしてないから……「心配してくれてありがとう」の方かな。
「アイビー」
「はい?」
セイゼルクさんを見ると、彼はなぜかチラッとお父さんを見た。
そんなセイゼルクさんの態度に、お父さんが首を傾げる。
「フォロンダ公爵から聞いたんだけど、捨てられた大地には冒険者しか入れないそうなんだ」
セイゼルクさんの言葉に目を見開く。
冒険者しか駄目なの?
「捨てられた大地は、放置すると大変な事になるから特別な部署で管理されているそうだ。そして『実力のある冒険者以外は絶対に侵入できない』というルールがあるみたいなんだ。たぶんこのルールは、無駄な犠牲を防ぐためだと思う」
えっと、私が捨てられた大地に行くには冒険者になるしかないって事?
「特例はないのか?」
お父さんの質問にセイゼルクさんが首を横に振る。
「フォロンダ公爵が指示を出したとしても、冒険者である程度の実力が認められないと、管理している部署からの許可は下りないそうだ。それだけ、危険な場所だからだと思う」
「そうか」
お父さんが私を見る。
「冒険者登録か……」
冒険者登録をすると、私のスキルや星がない事が知られてしまうから、だからこれまで避けてきた。
でも、捨てられた大地へは絶対に行きたい。
「まぁ、今すぐ答えを出す必要はないだろう」
セイゼルクさんを見る。
「どうするか、ゆっくり考えたらいいよ」
「そうだね」
私のこれからか。
「よし、今日はこの辺で終わりにしよう。ノースの報告に始まり、フォロンダ公爵との会談まで、さすがに疲れた」
シファルさんが両手を上げて背を伸ばす。
「そうだな。俺もそろそろゆっくりしたいよ」
セイゼルクさんもシファルさんに賛同する。
確かに2人とも疲れた表情をしているもんね。




