1048話 3匹のノース
倒したノースの傍に寄って様子を見る。
本来のノースでは考えられないほど大きくなっているうえ、爪も鋭く、先端はギザギザになっている。
尻尾も異様に光っていて、これも何か変化が起きているみたいだ。
「どうだった?」
ノースの様子を調べていたシファルさんに、セイゼルクさんが声をかける。
「少し調べただけだけど、体の構造にも少し変化があるみたいだ。この変化、王都に来る前に戦ったあの巨大化した魔物と似ているような気がするんだよな」
そういえば、あの魔物も土の中に隠れたよね。
同じような変化をしたのかな?
「よし、ノースをマジックバッグに入れるから手伝ってくれ」
セイゼルクさんが専用のマジックバッグを出すと、皆を見渡す。
「これ、5mぐらいないか?」
皆でノースをマジックバッグに入れていると、お父さんが呟く。
「ドルイドもそう思うか? これは絶対、目撃されていたノースよりも大きいよ。よし、入った。ふぅ、疲れた~」
ラットルアさんは、ノースをマジックバッグに入れ終わると、大きく息を吐き、その場に座り込んだ。
「これからどうする? 目撃されたノースは3匹だった。そのうちの1匹が通ってきた穴をたどれば、他のノースのところにも行けると思うけど」
お父さんが、ノースが出てきた穴を指してセイゼルクさんに言う。
「一気に2匹も仕留めたいな、土の中に隠れられると厄介だから」
セイゼルクさんの言葉に、シファルさんが穴の状態を確かめる。
「セイゼルク、穴に入るのは駄目だ。かなり不安定だ」
シファルさんの隣に寄ったラットルアさんが穴の奥を覗き込む。
「本当だ。もう壁の一部が崩れている。少し刺激が加わっただけで、完全に崩れそうだな」
「そうか。それなら穴の開いている方向を確認して、地上を進むしかないな」
2人の会話を聞いていたセイゼルクさんは地図を取り出すと、穴の開いている方向を地図に書き込む。
「行こうか。あっ、シファルとアイビーは木の上から異常がないか確かめてくれ」
「「分かった」」
シファルさんとは別の木の枝に乗り、周りを見渡す。
ノースが暴れたせいなのか、動物の気配も魔物の気配もまったくしない。
「行こう」
セイゼルクさん達が進む方向を見ながら、木から木へと飛び移る。
そして、周囲に異常がないか慎重に確認する。
「ぷっぷぷ~?」
ソラの鳴き声に視線を向けると、私がいる枝よりも高い枝の上でぴょんぴょんと跳びはねていた。
その隣でフレムも、同じような行動をしている。
「どうしたの?」
少し気になったので、ソラ達がいる枝に飛び移ると彼等の視線を追う。
「あっ、見つけた!」
少し離れた場所にある木々の隙間から、巨大なノースの姿が見えた。
「ソラ、フレム。お手柄だね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「アイビー、どうした?」
シファルさんの声に振り返ると、ノースがいる方角を指す。
「ノースがいる」
私の答えにシファルさんは頷くと、木々を飛び移って私の傍に来た。
そして、ノースの姿を捉えるとセイゼルクさん達に合図を送った。
地上と木々の上からそっとノースに近付く。
「おかしいな」
シファルさんがノースを見ながら首を傾げる。
「うん。変だね」
かなり近くに寄ったのに、ノースはピクリとも動かない。
まるで死んでいるみたいだ。
セイゼルクさんが警戒しながらノースの状態を確かめているのを、弓を構えながら見守る。
そして、彼が私達に向かって手を振ったので構えを解いた。
「死んでいたみたいだな」
「うん」
シファルさんの言葉に頷きながら、木から下りノースの傍に寄る。
「2匹とも死んでいる」
えっ、2匹いるの?
セイゼルクさんの説明に首を傾げてノースの傍に寄ると、見えていたノースの下にもう1匹ノースがいた事に気付いた。
「下にもう1匹いたんだ」
まさかノースが重なり合って倒れているとは思わなかった。
「シファル。調べてくれ」
「分かった」
シファルさんが2匹のノースを調べているのを、少し離れた場所から見る。
しばらくすると、険しい表情をしたシファルさんが戻って来た。
「どうした?」
「ん~、この2匹を殺したのは、俺達が倒したノースかもしれない」
シファルさんの説明に、セイゼルクさんが驚いた表情をする。
「本当に?」
「うん。死んだ2匹の首には食いちぎられた跡があった。口の大きさを調べてみたら、倒したノースとほぼ同じだった。それに、体についていた引っかき傷の大きさも同じだったから、あの2匹を殺したのは倒したノースで間違いないと思う」
「共食いか」
シファルさんの説明を聞いたヌーガさんが呟く。
「ありえるのか?」
お父さんが死んだノースを見て首を傾げる。
「動物では聞いた事があるけど、魔物では珍しい。というか、俺は聞いた事がないな」
シファルさんが言うと、セイゼルクさん達も頷く。
「何が起こっているんだろうな。凄く嫌な感じがする」
ラットルアさんが嫌そうに死んだノースを見る。
「はぁ、調べるためには、この2匹も持って帰る必要があるんだよな」
セイゼルクさんが、溜め息を吐きながら専用のマジックバッグを2枚取り出す。
「覚悟した方がいいよ。この2匹、かなり血みどろだから」
シファルさんがマジックバッグを受け取りながら、私達を見る。
「うわ~、最悪だ~」
ラットルアさんが、2匹の下の状態を見て嫌そうに顔を歪める。
お父さんとヌーガさんもため息を吐きながら、死んだノースの傍に寄った。
「終わった~」
ノースの血で全身を汚したラットルアさんが、倒れた木に座る。
「確かに共食いだったな」
お父さんの言葉に無言で頷く。
まさか、2匹とも体の一部が完全になくなっているとは思わなかった。
そのせいで、2匹ともマジックバッグに入れるのがとても大変で、終わった頃には全身がノースの血で染まっていた。
「水の音がするから、そこでノースの血を落とそう。この臭いに、魔物が寄って来そうだ」
セイゼルクさんの提案に、水の音に向かって歩く。
5分ほど歩くと小さな川に着く。
そこで、簡単に血を落とすと、果樹園に向かう。
「今日は疲れただろう。大丈夫か?」
隣を歩くヌーガさんが、私を見る。
「大丈夫。戦ったのは1回だけだから、それほど疲れていないよ」
おかしいな。
ノースとの戦いは凄く大変だったのに、なぜか2匹の死体をマジックバッグに入れる方がもっと大変だったように感じる。
不思議だなぁ。
「うわ、何があったんですか?」
果樹園に戻ると、宿泊施設からちょうど出てきたシュリースさんが驚いた表情で迎えてくれた。
「ノースを見つけたんです」
「えっ、大丈夫だった? その血は、怪我? どこか怪我をしたの?」
あっ、シュリースさんの言葉遣いが変わった。
「シュリース、どうしたんだ? うわっ、えっ? 血?」
シュリースさんの様子が気になったのかドマさんが宿泊施設から出てくると、私達を見て目を見開いた。
「大丈夫です。ノースは倒しましたし、怪我もしていませんから!」
セイゼルクさんが少し大きな声を出すと、シュリースさんがホッとした様子を見せた。
「そうなんですね。良かったです」
「えっ、ノース?」
首を傾げてセイゼルクさん達を見るドマさん。
ヌーガさんが彼に事情を説明すると、ドマさんは慌てて執務室がある建物に走って行った。




