1047話 見つからないノースの痕跡
木々の間から降り注ぐ太陽の光を腕で遮りながら、トースの巣を探す。
今日でトースの巣を探すのも3日目。
セイゼルクさんは、今日で巣探しを最後にするつもりのようだ。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
元気に飛び回るソラ達に微笑みながら、額に浮かんだ汗をぬぐう。
今日は昨日より暑いな。
「今日は暑くなりそうだな」
隣を歩くお父さんが、少し嫌そうな表情で空を見上げる。
「もうすぐ夏本番だからな」
ラットルアさんは、お父さんとは対照的に嬉しそうに空を見た。
「ラットルアは暑さに強そうだな」
「うん、暑いのは平気かな。寒いのは少し苦手だけど。ドルイドは?」
確かにラットルアさんはそんなイメージかもしれない。
お父さんは……暑いのも、寒いのも、どちらも苦手そうだよね。
「俺はどっちも苦手だな」
やっぱり。
「にゃうん」
シエルの鳴き声に視線を向けると、木の上を見上げている。
「シエル、ありがとう」
シエルの傍に寄り、私も一緒に木の上を見上げる。
まぁ、下から見上げたくらいでは巣を見つけた事はないんだけどね。
でもなぜか毎回見上げてしまうんだよね。
そしてやっぱり、今回も葉っぱが邪魔で巣は見えないか。
「見つけた。普通の大きさの巣だな。駆除しよう」
シファルさんがマジックアイテムで巣の状態を確かめると、指示を出す。
その言葉に、ラットルアさんとヌーガさんが木に登る準備をし、セイゼルクさんとお父さんは、周りの様子を見ながら全体を警戒し始めた。
そして私とシファルさんは、巣に戻って来たトースのために、巣がある木の近くの木に登り、弓を構えた。
「お昼休憩にしようか」
2個目の駆除が終わると、セイゼルクさんが皆に声を掛ける。
「お腹空いたぁ」
ラットルアさんが手頃な岩に座ると、お腹を押さえる。
そんな彼に、マジックアイテムから取り出した大きなカゴを渡す。
「どうぞ」
「アイビー、ありがとう。いただきます」
ラットルアさんは手を拭いてから、カゴの蓋を開けサンドイッチにかぶりついた。
「ラットルア、俺にもくれ」
ヌーガさんが、ラットルアさんが持つカゴに手を伸ばす。
「どうぞ」
「いただきます」
大きなカゴにぎっしり詰められたサンドイッチが勢いよく減っていくのは、見ていて気持ちがいい。
ただ、サンドイッチが足りるかどうかという不安が湧き上がるけど。
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
空になった3個のカゴをマジックバッグに戻すと、セイゼルクさんがいれてくれたお茶を飲む。
食後の温かいお茶はホッとするよね。
「果樹園から少し遠い森の中には、あまり巣はないみたいだな」
セイゼルクさんが、果樹園周辺の地図に見つけた巣の場所を印で付ける。
「2個なら、通常の数だろう。昨日までの数がおかしかったんだから」
シファルさんの言葉にセイゼルクさんが苦笑する。
「そうだったな」
今日の数が通常なんだ。
昨日までと違って、なかなか見つからないから不安だったんだけど。
「よしっ、あと半分見て回ったらトースの巣を探すのは終わろうか。そうだ、ノースの痕跡は見つけたか? 俺は見つけられなかったんだけど」
セイゼルクさんの質問に、皆は首を横に振る。
「おかしいな。俺達がここに来る前日までは目撃情報があった。だから痕跡は残っている筈なんだけど」
ノースの大きさが通常とは違うから、見逃しちゃったのかな?
「目撃情報の多かった場所は?」
お父さんの質問に、セイゼルクさんは果樹園周辺の地図を見ながら数ヵ所を指す。
「ここと、ここと、ここだ」
「最初に指した場所は、1個目の巣を見つけた場所の近くだな。特に、魔物の痕跡は見つけられなかったけど、ラットルア達はどうだ?」
お父さんがラットルアさん達に視線を向けると、彼等は少し考えたあとに首を横に振る。
「そうか。2個目の場所は、ここから少し森の奥に入った場所だな。そこで、ノースの痕跡を探そうか」
お父さんの提案にセイゼルクさん達が頷く。
トースの巣を探しながら、ノースの痕跡を探す。
でも、木の幹や通り道になりそうな場所を調べても何も見つからない。
「お父さん、痕跡あった?」
近くを調べていたお父さんに視線を向ける。
「いや、ここは目撃された場所の1つだから、何かある筈なんだけど。最初のところと一緒で何もないな」
お父さんも私と同じで、何も見つけられないみたい。
「ノースは3mか4mに巨大化しているんだよね?」
「そうだ。だから痕跡も残りやすい筈なんだけどな」
小さい魔物の痕跡は見つけにくいけど、大きな魔物の痕跡は見つけやすい。
魔物が大きくなれば、重くなって足跡も深く残るし、少し木に爪を立てただけでも跡が深く残る。
だから、これだけ探して何もないと言うのはおかしいんだよね。
「次へ行こうか」
セイゼルクさんの声に、場所を変えてトースの巣とノースの痕跡を探す。
トースの巣はあれから1個駆除をし、トースの巣を探す仕事は終わった。
「ここまでノースの痕跡がないのは不気味だな」
目撃された3ヵ所目の場所でノースの痕跡を探していると、シファルさんが呟く。
「本当にな。目撃されても痕跡が見つけにくい時って……土の中にいる事が多いよな」
ラットルアさんの言葉に、全員が地面に視線を向ける。
「掘り起こした形跡はないけど、どうなんだろうな」
ヌーガさんが足で地面の硬さを確かめる。
「にゃうん?」
私達の様子を見ていたシエルが、鋭い視線を周りに向ける。
「どうしたの?」
「にゃうん」
私の質問に、少し警戒した鳴き声を返すシエル。
その様子にお父さん達が武器に手を掛けた。
「ぷっぷ~」
「てりゅ」
「ぺふっ」
ソラ達も何かを感じたのか、飛び回るのを止めて周りを見回した。
「ソラ、フレム、ソル。木に登って」
何かあった場合の事を考えて、ソラ達に移動を促す。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
ソラ達は私を見て一声鳴くと、すぐに傍にあった太い木の枝に飛び乗った。
「うわっ」
シファルさんの焦った声に視線を向けると、彼の後ろに大きな穴が見え、その穴に向かって彼の体が傾くのが見えた。
「シファル!」
セイゼルクさんの慌てた声と同時に、シエルがシファルさんに向かって走りだす。
そしてシエルは、シファルさんの傾いた体の下にすっと入り込むと、彼を背に乗せその場から移動した。
次の瞬間、シファルさんのいた場所にノースが現れた。
「まさか本当に土の中にいたのかよ!」
セイゼルクさんがシファルさんの無事を確かめると、武器を構える。
「こいつ、土魔法を使うぞ注意しろ!」
お父さんは叫びながらノースに向かって走ると、思いっきり剣を振り下ろした。
が、ノースの前にある土が盛り上がると壁を作り、攻撃を防いだ。
「魔法を使いこなせるみたいだ。気を付けろ!」
セイゼルクさんが注意を促すと、ラットルアさんとヌーガさんは警戒しながらノースに近付き攻撃を仕掛ける。
「アイビー」
シファルさんを見ると、木の上を指していた。
それに頷くと、すぐに近くの木の枝に飛び乗って、攻撃しやすい場所を探す。
そして、ノースの目が狙える位置を見つけると、すぐに弓を構えて矢を放った。
ほぼ同時にシファルさんも矢を放ち、2本の矢がノースの目と鼻に突き刺さる。
その痛みに、ノースの意識がセイゼルクさん達から離れた。
その隙を逃さず、セイゼルクさん達が一斉に攻撃を仕掛けると、ノースの巨大な体が木々をなぎ倒しながら崩れ落ちた。
「……はぁ、終わった」
セイゼルクさんがノースに止めを刺すと、私達に向かって手を振った。
登っていた木から下り、お父さんの傍に寄る。
「アイビー、お疲れさま」
「お父さんも、お疲れさま」
急な攻撃に驚いたけれど、全員が無事で良かったぁ。




