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110話 またか、私!

捨て場で色々拾っていると、思いがけず時間がかかってしまった。


「シエル、また明日ね」


シエルとは森の中で別れて、町へ戻る。

一緒に町へ行きたいが、話を聞く限りでは無理みたいなので諦めるしかない。

残念だな。


門番に挨拶をして中に入ると、1人の男性が近づいて来る。

何だろう?と思っていると、深くお辞儀をされた。


「すみません。副団長の補佐をしているアリバスと言います。奴がどうしても話がしたいと言いだしまして。明日以降でいいのですが、空いている時間はあるでしょうか?」


補佐のアリバスさんの背後から、なんだか黒いモノが出ているような気がする。

しかも、今副団長さんの事を奴って言ったような……。


「大丈夫ですけど……」


私は特に忙しいわけではないので問題ない。


「副団長さんは、忙しいのではないですか?」


「ふっ、大丈夫なのでしょう。きっと」


ぅわ~、何だろう。

ものすごく含みがある言い方だ。

それに、なんだかすごく疲れた顔をしているな。


「大丈夫ですか? かなり疲れているようですが」


「はぁ、聞いてくれますか?」


「えっ! えっと……何を」


「団長といい副団長といい……」


それから延々と話し続けるアリバスさん。

愚痴が恨み言になり、不平を言ったかと思えば泣き言に変わり……忙しい人だ。

通りかかった門番さんが、慌てて止めに入るまで続いた。

まさか、30分近く話を聞く羽目になるとは思わなかった。


「すみません、本当にすみません。どうも何かが溜まっていたようで……本当にすみません」


正気に戻ったアリバスさんは、とても腰の低い人だ。

だから溜め込み過ぎたのだろうな。


「大丈夫です。組織の問題で忙しいのは知っていますから。明日は私の方から自警団の詰所に行きますので、いつごろ行けばいいですか?」


「いいんですか? 時間はお昼頃だったら大丈夫だと思いますけど、本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫です。お昼ごろに伺いますと副団長さんに伝えてもらえますか? お願いします」


「分かりました。助かります、ありがとうございます」


何度も頭を下げて、申し訳なさそうにするアリバスさん。

これはストレスが溜まるだろうなと思う。

相手に気を使いすぎだ。


アリバスさんと別れて、広場に向かいながら夕飯に何を作ろうかと考える。

お肉の備蓄はなぜか全然減らない。

時間が無いと言いながらヌーガさんが絶えず補充しているからだ。

お肉が好きな人が多いから塊肉をじっくり煮込もうかな。

味付けは、ハーブじゃなくて薬草とトーマと言う少し酸味があって甘い野菜を使ってみよう。

生で食べるのが主流だけど、煮込んでもおいしい。


大鍋で大量のお肉とトーマがゆっくりと煮込まれていくと、周りにいい香りが漂う。

時々、周りの冒険者達がその香りを確かめるようにこちらを向くが、テントを見てすぐに諦めた様子を見せる。

ボロルダさん達のテントは特注らしいので、持ち主が誰なのかすぐにわかるのだ。

彼らのために作っていると分かると、挨拶ぐらいで手を出される事はない。

難癖を言ってくる者もいない為、安心して作業が出来る。

広場の出入り口に視線を向けるが、誰も戻ってくる様子はない。


「やっぱり、無理かな。忙しそうだったもんね」


久々に夕飯を1人で食べる事になりそうだな。

お鍋の中の様子を見て、1人分の食事を用意する。

煮込まれた塊のお肉は時間をかけたので柔らかくなっているし、一緒に煮込んだ芋も味が染み込んでいて美味しそうだ。

少し甘味の薄い芋なので、煮込みにいれると美味しい。

ほくほくしているのが特に好みだ。


「美味そうだね」


「へっ?…………副団長さん?」


あれ?

おかしいな、明日会いに行くはずの人が目の前にいる。

その隣にはシファルさんとヌーガさん。

そして疲れた表情のマールリークさん。


「……お疲れ様です。一緒に食べますか? と言っても食料は全てボロルダさん達が用意してくれているのですが」


「差し入れしたら食べていいんだよね? だから、はい」


手渡されたのは、温かいパンだ。

ん?

今、何かおかしな言葉を聞いたような。

差し入れしたら食べていい?

いつの間にそんな事になっていたのだろう。

別に差し入れしなくても食べてくれていいけど。

って、食料はボロルダさん達のだった。


「美味そう、ほらマールリーク帰って来て正解だっただろう?」


「はぁ? 帰って来てって。あれは無理やり……まぁ、いいか、確かに美味そうだし。それに副団長まで付いて来ているし。アリバスのヤツ、かなり困っているような気がするが……」


アリバスさん?

4人に用意したお皿にお肉をよそいながら、知っている名前に耳を傾ける。


「大丈夫、彼はぐっと耐えて仕事をしているはずだ」


……アリバスさん大丈夫かな?


「あまり無理をさせては駄目ですよ!」


お皿を副団長さんが座った前に置きながら声を掛ける。


「あれ? もしかしてアリバスを知っているのか?」


「はい。今日伝言を頼みましたよね?」


「……あっ! そうだった、伝言ありがとう」


少し呆れた目で副団長さんを見ると、苦笑いされた。


「ごめんね。気を付けるよ」


副団長さんの隣でマールリークさんがすごい顔をした。

何と言うか驚きすぎて愕然というか、何とも表現しづらい顔だ。


「どうしたんですか? マールリークさん?」


「えっだって。あの副団長がごめんって……謝ったんだぞ!」


あのと言われても、前にあった時は挨拶程度だったし。

彼の人となりを聞いていないので分からない。


「え~っと、良く分かりませんが」


「アイビーは副団長とは初めてだっけ?」


「いえ、挨拶ぐらいはしましたが」


「そっか。副団長って謝らない人で有名だから」


マールリークさんは、結構ひどい事を言っているような気がする。


「失礼な、自分が悪いと思えば謝りますよ」


副団長さんも気に入らなかったのか、マールリークさんと言い合いを始めた。

もしかしたら、この2人は仲がいいのかもしれないな。

シファルさんは我関せずと、私が今仕上げているサラダを見つめている。

首を傾げながら、大皿に盛った生野菜の上に粉にしたチーズと薬草をかける。

あとは、好みでサラダソースをかけて食べてもらおう。

大皿を机の中心に置いて、小皿を人数分用意して椅子に座る。

副団長さんが買ってきてくれたパンも大皿で盛られている。


「お待たせしました。どうぞ」


「いただきます」


ヌーガさんが言葉と同時にお肉を口に入れる。

そしてニンマリ笑って無言で食べ続ける。

この時ちょっとだけ不気味……怖い。

大きなため息をついて食事を始めるマールリークさんは、副団長さんとの言い合いで疲れたのか少し顔色が悪い。

大丈夫なのかな?

副団長さんは、なんだか調子がいいみたいだけど。

サラダを小皿にとって、食べようとすると。


「珍しい作り方だね」


シファルさんがサラダを食べながら、面白そうに言ってくる。

えっ?

もしかして、私またやった?


「そうですか?」


どれが珍しいのだろう。

サラダを食べているから……サラダ?

でも、生野菜を食べる習慣はあるから違うだろうし。

煮込み料理は、屋台で食べた事があるから違うはず。

作った料理を見回すが、分からない。

どれですか!


「確かにトーマって煮込みで食べるのは初めてだな」


副団長が、煮崩れたトーマを不思議そうに食べている。

これっ?

えっ、普通に何処かで食べた記憶が……。

ん?

もしかして、前の私の記憶が混じっているのかも?

……そうだ、今の私では食べた記憶が無い。

と言うか、作った事も無いかも!


「前に食べた記憶があったので」


嘘は言っていない。

前は前だ。

ものすごく前かも知れないけど。


「そっちもだけど、チーズを細かくして生野菜にかける食べ方も初めてだ」


こっちもか!

シファルさんの言葉に、叫びそうになるのをグッと耐えて。


「前に試したことがあって、美味しかったので」


「確かに風味が良くて美味しいな」


副団長さんの感想に、マールリークさんもヌーガさんも頷いている。

どうやら味に問題はなかったようだ。

シファルさんはおかわりをしてくれている。


しかし、早急に前の私の記憶を整理しないと駄目だな。

次の失敗を招かない為にも、明日にでも頑張ろう。

……それにしても、初めて作ったけど美味しい。


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[一言] もう話してしまえばいいのに…無理だろうけど
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