1032話 ソラの失敗
「ぷっぷぷ~」
「……」
ソラの鳴き声に目を覚ますと、ソラが目の前にいた。
「おはよう。どうしたの? 凄く近いね」
「ぷっぷぷ~」
ソラは、私の前でプルプル震えるとチラッとテーブルを見た。
その行動に首を傾げながら、ベッドから起き上がってテーブルに視線を向ける。
「あれ?」
テーブルには、昨夜手入れをした弓が置いてあったはずなのに、今は見当たらない。
「弓を仕舞ってから寝たかな?」
「ぷっぷ~」
困った様子で鳴くソラを見る。
「どうしたの? 何か困った事でもあったの?」
「ぷっぷぷ~」
小さな鳴き声で答えたソラの頭を撫でる。
「ぷ~」
ソラはベッドから下りると、なぜかその場でぴょんぴょんと跳ねる。
それに首を傾げながらベッドの下をのぞくと、不思議な形をした物があった。
「これは、何?」
ソラに聞きながら、不思議な形をした物を手に取る。
細長い棒がぐにゃりと曲がり、先端には紐が付いている。
「あれ? これは弓に使っている弦と同じ物だね」
「おはよう、どうしたんだ?」
私達の様子に気付いたお父さんが起き上がって、こちらを見る。
「ソラの様子が少し変なの。それでベッドの下にこれが置いてあって」
「それは……なんだ? 曲がった棒に紐?」
「ぷ~」
ソラの鳴き声に視線を向けると、テーブルの上に乗って体をプルプルと震わせる。
そして、私が持っている物に視線を向けた。
「テーブル? 弓で使う弦……」
えっ、もしかして。
「アイビーの持っている物って、元々弓だったんじゃないか? 昨日、手入れした弓をテーブルの上に置いたまま寝ただろう?」
「ぷっぷぷ~」
やっぱりそうなんだ。
「ソラ、弓に何かしようとして失敗したのか?」
お父さんがテーブルの上にいるソラに近付くと、目線を合わせる。
「ぷっぷぷ~」
「そうか。まぁ、誰にでも失敗はあるよ。あまり気にするな」
お父さんの言葉に、ソラはチラッと私が持つ弓だった物に視線を向け、体を横に少し伸ばしたような形になった。
落ち込んでいる様子のソラに微笑む。
「大丈夫よ、ソラ。この弓は初心者用で、最近はあまり使っていなかったから」
「ぷ~」
ソラの下に行き、優しく頭を撫でる。
「私の武器を強化しようとしてくれたのかな? ありがとう」
「そういえば、ソラが弓を作るのは初めてだな」
確かに、そうだね。
お父さんの武器をはじめ、ジナルさんに頼まれて作ったものも、すべて剣だった。
「ソラは、弓を作るのは初めてか?」
「ぷっぷぷ~」
「難しいのか?」
「ぷっぷぷ~」
あれ?
ソラは、何もないところから剣を作れたよね?
どうして弓は、完成しているものに手を加えようとしたんだろう?
「ソラ」
ソラが私を見る。
「ぷっぷ~?」
「剣は何もない状態から作るのに、どうして弓は完成した物に手を加えようと思ったの?」
「ぷ~」
私の質問に困った表情をするソラ。
「そういえば、そうだな」
お父さんも不思議そうに首を傾げる。
「剣を食べている事と関係があるのかな?」
確かにソラは大量に剣を食べているよね。
「ぷ~」
不満そうに鳴くソラを見る。
「食べる、食べないは関係ないの?」
「ぷっぷぷ~」
私の質問に頷きながら鳴くソラ。
「関係なしか」
お父さんが呟きながら、失敗した弓を見る。
「もしかして、弓のように曲げるのが苦手だったりして」
「ぷっぷぷ~」
笑って言ったお父さんの呟きに、ソラが小さく鳴く。
「「えっ?」」
「ソラ、弓のように曲げるのが苦手なの?」
私の質問に、視線を逸らすソラ。
「そうだったんだ」
ソラにも苦手な事があったんだ。
「ぷっぷ~」
ソラが私を見て鳴く。
「どうしたの?」
ソラの視線が失敗した弓を見る。
そして、フォロンダ公爵から届けられたゴミの入ったマジックバッグを見た。
「捨て場にある弓が欲しいのか?」
「ぷっぷぷ~」
ソラの反応を見たお父さんが頷く。
「わかった。フォロンダ公爵に、捨て場から弓を持って来てもらうようにお願いしておくよ」
「ぷっぷぷ~」
嬉しそうに鳴くソラを、お父さんが優しげに見つめる。
「ソラ、無理はしないでね」
「ぷっ!」
不満げに私を見るソラ。
どうやら、私の言葉が気に入らなかったみたい。
「ソラ、期待しているね」
「ぷっぷぷ~」
「俺も楽しみにしておくよ。さて着替えて、朝ごはんに行こうか」
お父さんが笑って私を見るので、私も笑って頷いた。
「「おはようございます」」
食堂に行くと、既にラットルアさん達が朝ごはんを食べていた。
「「「「おはよう」」」」
ラットルアさんが前の席を指すので座ると、隣にお父さんが座る。
「おはようございます」
私達が座ると、すぐにドールさんが朝食を運んできてくれた。
「おはようございます。ありがとうございます」
フォリーさんが作るご飯は、今日もおいしそう。
「「いただきます」」
優しい味のスープに頬が緩む。
私好みの、野菜がたっぷり入った優しい味のスープは、今日も最高だ。
「「ごちそうさまでした」」
お父さんと私が食べ終わると、セイゼルクさんがお父さんを見る。
「弓の特訓が終わったあとの予定は?」
「今日は何もないけど、どうした?」
「依頼者から、協力者と一度話がしたいそうだ。会えるなら、今日の午後に冒険者ギルドにきて欲しいと伝言が来た」
「そうか」
セイゼルクさんの話を聞いたお父さんは頷くと、私を見た。
「会うか? 別に強制ではないみたいだけど」
「私はどちらでもいいよ。そうだ、協力者は冒険者ギルドに星の数を登録しなくていいの?」
「あぁ、必要ない。協力者というのは、その任務を効率的に終わらせるために必要な者の事を指すんだ。それが冒険者の場合もあるけど、研究者やただの道案内の場合もある。だから、スキルを登録する事はあるけど、星の数は必要ないんだ」
「道案内?」
私が首を傾げると、お父さんが笑って頷く。
「疑問に思っているけど、今回の協力はその道案内だぞ」
「そうなの?」
驚いた表情でお父さんを見る。
「アイビーのテイムしているシエルが、トースの巣を見つけてそこまでセイゼルク達を案内するんだから、道案内だろう?」
「あっ、確かに」
お父さんの言葉に納得して頷くと、一緒に食堂に来たシエルを見る。
シエルは、ソラ達を転がして遊んでいる。
ソラ達は、あの遊びが好きだから、なすがままだ。
「まぁ、シエルの場合は強いから、道案内と同時に周りにいる魔物を寄せ付けない。護衛の要素もあるな」
シファルさんが笑っていうと、お父さんが頷く。
「何もしなくても、通常の魔物なら近寄って来ないからな」
「そうだね。皆、シエルの気配で逃げていくよね。逃げないのは凶暴化した魔物ぐらいだね」
あれは、シエルがいても襲って来るからね。
「ドルイド様、失礼いたします」
ドールさんが、お父さんの傍に来ると折りたたまれた紙を渡す。
「これは?」
「旦那様から渡すように言われました」
ドールさんが旦那様と呼ぶのはフォロンダ公爵だよね?
何か用事かな?
お父さんが紙を開くと、ちょっと笑った。
「用事はトースの巣を探しに行くだけなので、それ以外だったら大丈夫です」
ドールさんは、お父さんの言葉にホッとした表情をした。
「わかりました。では、仕事の日が決まりましたらお教えください」
「はい。フォロンダ公爵はまだ忙しいんですか?」
「そうですね。今日も本当は、朝なら時間が取れるとここに来るつもりだったんですが、緊急事態で来れなくなったそうです。かなり不貞腐れていたと、アマリが笑って言っていました」
フォロンダ公爵は本当に忙しいよね。
「戴冠式とパレードが終われば、少しは暇になると言っていたのにな」
ラットルアさんを見て、ドールさんは苦笑いを浮かべた。
「問題を起こした貴族を処分し過ぎたと言っていました」
「でも残った貴族もいますよね?」
その人達に協力してもらえば、状況が少しは良くなるのでは?
ドールさんを見ると、首を横に振った。
「残った貴族の半分ぐらいは、問題を起こさなかったのではなく、問題を起こすだけの知識や人脈、行動力がなかったからです。そのような人たちが集まっても、あまり助けにはなりません。というか、邪魔になるでしょう」
「あ~、なるほど。それは……いりませんね」




