1030話 隠れていたテイマー
セイゼルクさん達が冒険者ギルドから戻って来ると、皆でお昼ごはんを食べ、ゆっくりと過ごす。
「そうだ、指名依頼はきていたのか?」
お父さんが、食後のお茶を飲みながらセイゼルクさんを見る。
「あぁ。凄く、面倒くさい依頼がな」
セイゼルクさんの凄く嫌そうな表情に、シファルさんがちょっと笑う。
「シファルがあんな事を言うからだぞ」
笑ったシファルさんを睨むセイゼルクさん。
ヌーガさんも嫌そうな表情でお茶を飲んでいる。
「俺はただ『巣を壊した方がいいですよ』と言っただけで、『俺達に任せてください』とは言っていない」
「はぁ、それはそうだが……」
「そんな面倒な依頼なのか?」
「トースの巣を探して壊す事だ」
お父さんの質問に、溜め息を吐きながら答えるセイゼルクさん。
「うわっ。それは面倒くさいな」
セイゼルクさんから聞いた依頼内容にお父さんも嫌そうな表情をする。
「そんなに面倒な仕事なの?」
「木の上に巣を作るんだけど、とにかく見つけにくいんだ。トースの魔力は森に流れている魔力とよく似ているから、魔力を手がかりに探すことができないし」
あぁ、それはかなり面倒くさそう。
「にゃうん」
シエルは鳴くと、鼻で私の太ももをトンと叩いた。
「どうしたの?」
シエルの行動に驚きながら視線を向ける。
「にゃうん」
シエルは、セイゼルクさんを見たあと、私に視線を戻すとまた鳴いた。
「ん~、トース?」
「にゃうん」
「もしかして、トースの巣を見つけてくれるの?」
「にゃうん」
「本当か?」
嬉しそうに声を上げるセイゼルクさんに、シエルが視線を向ける。
「にゃうん」
「シエルが協力してくれるなら、早く巣が見つけられるかもしれないな。でもどうして協力してくれるんだ?」
そういえば、どうしてだろう?
今までもセイゼルクさん達は依頼を受けて仕事をしていたけど、シエルが協力したことはなかったのに。
「シエルは気付いたんだな」
シファルさんが楽しそうに笑ってシエルを見る。
「にゃうん」
そんな彼を見てシエルが鳴く。
「あっ! そうか。弓の素材か」
えっ、弓の素材?
お父さんを見ると、納得した表情でシエルの頭を撫でていた。
「シエル、偉いな。ありがとう」
「にゃうん」
お父さんの言葉を聞いたセイゼルクさん達が、ハッとした表情をしている。
どうやら私だけ分かっていないみたいだ。
「シファルさん、弓の素材ってなんですか?」
「トースは巣を作る時に、特殊な糸を使うんだ。その糸は弓の弦にとても適している。特に巣の中心を支えている糸は、他の素材と比べものにならないほど優れている。ただ、トースの巣を見つけるのは大変だし、中心の糸は数が少ないから、売りに出されると争奪戦になるんだよ」
そうなんだ。
つまりシエルは、私の為にセイゼルクさん達に協力してくれるのか。
「シエル、ありがとう」
「にゃうん」
シエルの喉を撫でるとゴロゴロという音が聞こえた。
「シファル。その特殊な糸欲しさに、彼等が指名依頼を出すように誘導したな?」
ラットルアさんが呆れた表情でシファルさんを見る。
「んっ? たまたまだよ。たまたま、トースに被害にあってる者達の話を聞いたから『トースは巣を壊さないと、被害が長引く可能性がありますよ』と、言っただけだ」
これくらいなら、誘導したことにはならないと思うけど……。
「まぁ『トースの巣の対処は経験があるけど、面倒なんですよ。だから依頼するなら、それなりの冒険者にした方がいいですよ』と助言はしたけど。それだけだ」
ははっ、しっかり誘導していたんだね。
「あれっ? トースって、同じ巣を使う事はないから被害が長引く事はなかった気がするが」
シファルさんの説明にお父さんが首を傾げる。
「文献によると使用した巣の近くに新しい巣を作る事もあるみたいだ」
それなら被害が長引く可能性もあるのかな。
「王都の広い森だったら、その可能性はものすごく少ないけどな」
ヌーガさんが苦笑して言うと、セイゼルクさんも頷く。
「でも、ないとは言えないだろう? 俺は可能性の話をしただけだよ」
「「「「「……」」」」」
確かに「可能性がある」と言っているから、間違いではないんだけど。
「それにしても、ここまで予定通りに動いてくれると気持ちがいいな」
シファルさんが嬉しそうに言うと、セイゼルクさん達が大きな溜め息を吐いた。
なんというか、私の為にすみません。
「アイビーが気にする事はないぞ。シファルの独断だから。まぁ、自分も欲しかったんだろう?」
「そうだよ。アイビーはついでだから気にしなくていい」
シファルさんはそう言うけど、私の為なんだろうな。
だって、シファルさんは弓の弦の替えをたくさん持っているし、特に困っている様子もなかったからね。
「気になるならアイビーも一緒に行こう」
シファルさんの誘いに、驚いた表情で彼を見る。
「いいの?」
私が一緒に行ったら邪魔にならないかな?
少し成長したとは思うけど、まだまだだし。
「問題はないぞ。でも登録せずに協力してもらうと、アイビーの手柄にならないんだよな。あっ、そう言えば最近はソラ達みたいなスライムを連れているテイマーがいると噂が広がっていたな」
えっ、そうなの?
ソラ達みたいな透明のスライムがいるの?
「それならソラ達の事を完全に隠す必要はないのでは? 今回も依頼料が貰えるように協力者として登録すれば……」
セイゼルクさんの呟きにソラ達を見る。
今よりもっと自由に動けるようになるのかな?
「確かに、完全に隠す必要はないかもしれないな。ただ、町中を自由に跳び回るのは、まだ少し先になるだろうけど」
「お父さん、どういう事?」
「俺も噂を聞いて、気になったから調べてもらったんだけど、ソラ達ほど透きとおった色ではないけど、少し濁っている部分のあるスライム。他にも柄の入ったスライムや、少し特殊なスライムをテイムしているテイマーがいる事が分かったんだ」
「本当に?」
「うん。この情報は噂ではなくフォロンダ公爵に調べてもらって分かった事だから信じていい」
フォロンダ公爵が調べてくれたんだ。
「彼等は、スライムが狙われたり、教会に目を付けられたくないから隠れていたみたいだ。でも、教会を利用していた組織が潰れ、徐々にテイマーとスライムとの関係が良くなって変わったスライムが増えてきた。だから冒険者ギルドにテイマーとして登録し、レアスライムの事も登録したみたいだ」
「そうだったんだ。私以外にも隠れていたテイマーがいたんだね」
「ぷっぷぷ~?」
「てっりゅりゅ~?」
レアスライムの事を話していると分かったのか、食堂の隅で遊んでいたソラとフレムが足元に跳んで来る。
ソラは……のんびりこちらに来ているね。
「ソラ達みたいなレアスライムがいるんだって。どこかで会えたらいいね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「ただシエルは、まだもう少し完全に隠れていないと駄目かな」
「にゃうん」
お父さんが申し訳なさそうにシエルを見ると、シエルは分かっているように鳴いた。
「それでドルイド、今回の依頼に協力者として登録していいのか? その場合は、テイマーとして登録していいのか?」
セイゼルクさんの質問に、お父さんが私を見る。
「どうする?」
「シエルやソラ達の事も登録するの?」
私の質問にお父さんが首を横に振る。
「登録するのはテイマーのアイビーだけだ。テイムしている魔物に付いては何も書かない」
「それなら登録しようかな」
お父さんが勧めるという事は、そうした方がいいと思ったからだろうし。
「よし、そうと決まったら、冒険者ギルドで手続きを終わらせて来るか」
セイゼルクさんが椅子から立ち上がる。
「その前に、相談した事があるとダンダから伝言が届いているんだ」
セイゼルクさんが不思議そうにシファルさんを見る。
「ダンダから? 確か幼馴染達で『青』というチームを組んでいたな」
「うん。伝言には、なるべく早く相談したいと書いてあった」
シファルさんの話しを聞いたセイゼルクさんが頷く。
「それは早めに話を聞いた方が良さそうだな。ダンダに話を聞いてから冒険者ギルドに行こう」
セイゼルクさん達は準備を済ませると、私とお父さんに声を掛けてから食堂を出ていった。
「俺達も商業ギルドに行こうか」
お父さんが私を見る。
「そうだね。皆も一緒に行ってくれる?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
「ありがとう」
元気に鳴く皆をバッグに入れて、お父さんと一緒に商業ギルドへ向かった。
「最弱テイマー」を読んで頂きありがとうございます。
申し訳ありませんが、7月29日の更新はお休みいたします。
次回は、7月31日です。
よろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




