1029話 超レア
「あれ?」
誕生日の翌日、通常の弓の特訓後にジナルさん達から貰ったマジックアイテムの弓の練習をしようと思ったんだけど、弦を引いた時の感覚が今までの弓と全く違う。
「どうした?」
私の様子に気付いたシファルさんが、首を傾げて私を見る。
「弦を引いた感じに違和感があって。前に使ったマジックアイテムの弓は、いつも使っている弓と変わらなかったのに」
「あぁそれは、火魔法に特化した弓だからだと思う」
それで弦を引いた時に、今まで感じた事のない感覚がするんだ。
「とりあえず、1回使ってみようか」
「はい」
弓の特訓をしている場所は魔法を使っても問題ないので、安心して弓を放つ。
シュン。
「んっ?」
的から大きく外れた火の矢は、壁にあたる瞬間に消えた。
「やっぱりな」
お父さんが、消えた火の矢を見て溜め息を吐く。
「まぁ、なんとなくそんな気はしたけど」
シファルさんも、消えた火の矢を見て苦笑を浮かべる。
「どうしたの?」
今の結果で何がわかるんだろう。
「ん~、いつか知る事になるだろうから、今でもいいか」
お父さんの言葉に、少し緊張する。
「そのジナル達から贈られたマジックアイテムの弓」
「うん」
「狙った的から外れると、魔力で作った火の矢が消えただろう。そのとき、使った魔力の半分くらいは魔石に戻っていると思う」
えっ。
そんな機能が付いたマジックアイテムの弓があるの?
もしかして、ジナルさん達から貰ったこれ……凄い物なのでは?
「そして、そういうマジックアイテムは超レア物で、とにかく高い」
「高い……値段が?」
お父さんとシファルさんを見ると、二人とも頷いた。
「魔力の消費が激しいため、使う人が少ないマジックアイテムの弓だけど、特化した魔法が使える弓は、威力がすごいんだ。だから、ここぞという時に使うために、上位冒険者の一部には人気がある。しかも、数がとても少ないんだ」
それは値段がはね上がるね。
「このマジックアイテムの弓は……幾らぐらいだと思う?」
お父さんとシファルさんが顔を見合わせる。
そして、
「「金板3枚はするな」」
「うわぁ」
持っているマジックアイテムの弓を見る。
「まだまだ技術面が不安定な私が、こんな高価な物を使っていいのかな?」
普通の弓は、少しずつ上達している事に気付いた。
まだ全ての矢を的に当てる事は出来ないけれど、殺気がない状態でも5割ぐらいは的に当てられるようになった。
といっても、まだ5割。
まだまだ練習が必要だ。
「そんなことを気にする必要はないよ。ジナル達たちは、アイビーなら使いこなせると思って贈ってくれたんだろう。それに、どんなに高価な武器でも、使わなければ意味がない。マジックアイテムの武器は、使う人の魔力量によって使えるかどうかが決まる。アイビーはソラとフレムが足りなくなったら魔力をすぐに補充してくれるだろうから、自信を持って使っていいと思うぞ」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
お父さんの説明に賛同するようにソラとフレムが鳴く。
「そっか。うん、そうだね」
ジナルさん達が、私ならと思ってくれたなら頑張ろう。
「まずは、的に当たるように頑張らないと駄目だね」
凄い武器でも、的に当たらないと意味がない。
あっ、埋まっている魔石の色が薄くなっている。
これは、魔石に籠められている魔力が少ないという合図だ。
「ソラ、フレム。よろしく」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
マジックアイテムを握り直し、ソラとフレムを見る。
二匹は、嬉しそうに鳴くと、フレムがマジックアイテムの弓に向かって跳びはねた。
そして魔石の部分を包み込むと、すぐにフレムは離れた。
「ありがとう」
「よし、では特訓を再開しようか」
「はい」
もう一度的に向かってマジックアイテムの弓を構える。
あれ?
さっきと感覚が違う。
さっきより、手に馴染むかな?
少し不思議に思いながら、的に向かって弓を構え、そして矢を放つ。
シュン。
「また消えた」
でも、さっきより的に近い。
次こそは、当てる!
「次」
「はい」
まただ。
また弦を引いた時の感覚が違う。
今度は、弦が硬いような気がする。
一度構えを解き、もう一度弓を構え直す。
あれ?
もっと弦が硬くなった?
仕方ない、このままいこう。
息を整え、矢を放つ。
バシュッ、バキッ。
「当たったというか……本当に凄い威力だ」
火の矢が当たった的が、まさか割れるなんて。
持っているマジックアイテムの弓を見る。
前に使ったマジックアイテムの弓とは、明らかに威力が違う。
でも、使う度に弦の強さが違うのはどうしてだろう?
「何か気になる事でもあるのか?」
シファルさんが、マジックアイテムの弓を見つめている私に声を掛ける。
「弦の硬さというか、引いた時の感覚が1回1回違うんです」
「それは、同じように構えているつもりでも弦を掴む強さが微妙に異なるからだと思う」
私の弦の掴む力?
「超レアなマジックアイテムの武器は、同じ動作をしているつもりでも微妙な違いを感知してしまうんだ」
そうなんだ。
「そのせいで、1回ごとに使う魔力量が微妙に違う。剣の場合は攻撃力が変わることはあっても、あまり影響はない。でも弓の場合は、弦が硬くなったり柔らかくなったりするから、影響が大きいかもしれないな」
つまり、超レアなマジックアイテムの弓はものすごく難しい武器という事だね。
私、ずっと同じ状態で弓を使えるようになるかな?
ちょっと不安になってきた。
「アイビー。俺でもずっと同じ状態で弓は使えないから、違いに慣れる方が早いぞ」
「えっ? シファルさんも?」
驚いた表情でシファルさんを見ると、彼は苦笑して頷く。
「それに、その方がいざという時に役立つしな」
「わかりました」
大丈夫。
ゆっくり、このマジックアイテムの弓に慣れていこう。
「あと10本練習しようか。それで今日は終わろう」
「はい」
深呼吸して弓を構え、矢を放つ。
シュン。
ん~、次!
やはり1回1回、弦の引く感覚が違うと、的に当てるのは殺気の中でも難しいみたい。
でも4本目と5本目は、ぎりぎり的に当たった。
「終わろうか」
シファルさんの言葉に、彼に向かって頭を下げる。
「ありがとうございました」
10本中3本しか的に当たらなかった。
次こそもっと当てられるように頑張ろう。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「えっ?」
私と一緒に挨拶するソラとフレムを見ると、なぜか横に並んでいる。
「ソラ達もお疲れ様。また明日、頑張ろうな」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
シファルさんを見て満足そうに鳴く二匹に頬が緩む。
「可愛い」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
私の呟きに、当然というように鳴くソラとフレム。
しかも、ちょっと胸を張っている。
そんな二匹を、お父さんとシファルさんが微笑ましそうに見る。
「ぺふっ」
ものすごく重低音の鳴き声に視線を向けると、不貞腐れた様子のソルがいた。
「ふふっ。ソルも可愛いよ」
不貞腐れている姿が、凄く可愛い。
でも、それを言ったら怒りそうだから言わないけど。
「ぺふっ」
少しだけ、いつもの鳴き声に戻ったソルに、お父さんとシファルさんが楽しげに笑った。
皆で訓練室の片付けをして、食堂に向かう。
「二人は、お昼からはどうするんだ?」
「商業ギルドに行って、ふぁっくすが届いていないか聞いてくるつもりだ」
シファルさんの質問にお父さんが答える。
「そうか。王都に来ていた冒険者と商人は、自分の村や町に帰ったみたいだけど、それでも人が多いから気を付けてな」
「心配してくれてありがとう。シファルさんは、用事があるの?」
「王都にいる知り合いの冒険者から、会いたいという伝言が届いたんだ。セイゼルク達が、冒険者ギルドから戻って来たら、会いに行くつもりだ」
セイゼルクさんたちは、冒険者ギルドに指名依頼が入っていないか確認しに行ったんだったね。




