1028話 おめでとう
「「「「「アイビー、お誕生日おめでとう」」」」」
朝から皆が何かしていると思ったら、私の誕生日を祝う準備だったみたい。
夕飯が出来たと聞いて食堂に入ると、セイゼルクさん達やジナルさん達、さらにアマリさん、ドールさん、フォリーさんが集まっていた。
「ありがとうございます」
笑顔で答えると、皆が嬉しそうに笑ってくれる。
それがまた嬉しい。
「アイビー、私も参加させてもらっているの、よろしくね」
「炎の剣」の次のリーダーに決まっているランカさんが、可愛い袋を渡してくれる。
「ありがとうございます」
受け取って袋を開ける。
「あっ、手袋だ」
袋から出てきたのは、4組の手袋。
どれも手の甲に刺繍が施されていて、可愛らしい。
しかも、なんの素材なのだろう……とても柔らかくて、使いやすそう。
「通常の冒険者が使う手袋と、崖を登るときに使うもの。それから、武器が弓だと聞いたので、残りの2組は弓用よ」
「本当に嬉しいです。ありがとうございます、ランカさん」
笑顔でお礼を言うと、ランカさんが嬉しそうに笑った。
「アイビー、俺からも」
ラットルアさんが笑顔で渡してくれたのは、10個の小さな袋。
「ありがとうございます。あっ、髪留めだ」
あれ?
袋に書いてある店の名前が全部違う。
もしかして、10個すべて別々の店で買ってくれたのかな?
「探していたら、似合いそうな物がいっぱいあって、選べないから全部買ってみた」
それで10個もあるんだ。
「凄いわね。10個全てデザインが違うわ」
ランカさんの言う通り、どれも似たデザインの物がない。
色もそれぞれ違うので、気分によって選ぶ楽しみがありそう。
「これは俺達からだ」
ジナルさんが大きな布の掛かった物を持って来てくれた。
「ありがとうございます」
ジナルさんにお礼を言い、少し離れたところにいるフィーシェさんとガリットさんにも頭を下げた。
「あっ」
ジナルさんからプレゼントを受け取ってわかった。
「弓だ」
布を取ると、とても綺麗な弓が出てきた。
魔石が埋め込まれているので、これはマジックアイテムの弓なのだろう。
「これは火魔法に特化した弓なんだ」
火魔法に特化?
「魔石に魔力を込めて矢を放つと、火の矢が放てるんだ」
ジナルさんの説明に、お父さんが驚いた表情を見せる。
「どうしたの? お父さん」
お父さんを見ると、笑って首を横に振る。
「アイビーは、弓を武器にすると決めたんだろう?」
「うん」
「特定の弓だけを使うより、いろいろな弓を使っておいた方が、いざという時に役立つと思う。だから、これもアイビーの弓に加えてほしい」
ジナルさんを見て笑って頷く。
「ありがとう。使いこなせるように練習を頑張るね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
私の言葉に続いてソラとフレムが答える。
それにジナルさん達が笑う。
「ソラ達も頼むぞ。これは魔力が必要だからな」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
まるで「任せて」と言っているかのように、胸を張って答えるソラとフレム。
その姿に、皆が笑う。
「次は、俺とヌーガから」
シファルさんが大きな袋を私に差し出す。
「シファルさん、ありがとう。ヌーガさんも」
プレゼントを受け取り、袋を開ける。
「んっ? マジックバッグ?」
通常のマジックバッグは、横長のデザインが多い。
でもシファルさんとヌーガさんがくれたマジックバッグは縦長のデザインだった。
「あっ、もしかして」
蓋を開けて中を確認すると、沢山の矢が入っていた。
「矢専用のマジックバッグだ」
シファルさんを見ると笑って頷く。
「そう。通常のマジックバッグでもいいんだけど、矢専用の物の方が使いやすいから」
2つの縦長のマジックバッグを見る。
「ありがとうございます」
ジナルさんに笑顔でお礼を言うと、ポンと頭を撫でてくれた。
「俺からは服だ。アイビー、最近背がぐっと伸びただろう?」
「うん」
膝のあたりに痛みがあって、なかなか治らないのでお父さんに相談したら、それは成長痛だと教えてくれた。
急に背が伸びると、起こる現象だから大丈夫って。
確かに、ズボンが短くなった事で背が伸びた事には気付いていた。
「11歳くらいの女の子は、急に成長することがあるのよね。冒険者の女の子が、二か月ほどで急に背が伸びていたから驚いたことがあったわ」
私ぐらいの年齢がよく成長するって事なのかな?
「沢山買っておいたから、部屋に置いておいたよ」
「ありがとう、お父さん。でも、沢山ってどれくらい?」
嬉しいけれど、お父さんの沢山って……知るのが怖い。
「大丈夫です。私がしっかり監視しましたから」
アマリさんが楽しそうに笑って言う。
それにお父さんが、小さく溜め息を吐く。
「俺一人で選ぼうと思ったのに、半分ぐらいは却下された」
「アマリさん、ありがとうございます」
お父さんだけだったら、きっと大変なことになっていたはず。
「フォロンダ公爵も参加するつもりだったのですが、仕事が終わらなかったのでプレゼントだけお持ちしました」
フォロンダ領主……これからは公爵と言った方がいいのかな?
「どうぞ」
「ありがとうございます」
テーブルに大きな紙の箱が乗る。
なんとなく、今までと雰囲気の違うプレゼントにドキドキしながら蓋を開けたが、思わずすぐに閉めてしまった。
「えっ? えっ?」
今……凄い服? が見えた気がする。
「ふふっ」
アマリさんが楽しそうに笑って、私を見る。
お父さん達は、箱の中身が見えなかったのか不思議そうな表情で私とアマリさんを見る。
「アイビー、どうしたんだ?」
お父さんが、私の肩に手を置く。
「何か困った物でも入っていたのか?」
「困ったというより、着ていく場所がないからどうしようかと思って」
あっ、これは困っているのか。
というか、これを受け取ったら何か起こりそうな気がする。
「何が入っていたんだ? 開けてもいいか?」
お父さんの言葉に無言で頷く。
「えっ?」
お父さんが蓋を完全に開けると、驚いた表情で固まった。
「ドレスだね」
「ドレスだな」
シファルさんが箱の中を確かめると、ヌーガさんも頷く。
「凄く嫌な予感しかしないな」
ジナルさんの言葉に頷く、フィーシェさんとガリットさん。
「アマリさん。これは?」
お父さんがアマリさんを見る。
「自分が忙しくて行けないなら、招いたらいいんだなと呟いて用意していた物ですね」
「どこにでしょうか?」
「フォロンダ公爵の仕事場、つまり王城ですね」
アマリさんがにこやかに言うと、ジナルさん達が苦笑した。
「話もあるから仕方ないとは言え、まさか王城に招くとは」
話?
もしかしたら、本に載っていた未来の話についてかな?
確かに、それについて相談がある。
でも王城?
しかも、フォロンダ公爵からプレゼントされたドレスを着て?
「あの、このキラキラしたのは」
ドレスのスカート部分に、小さなキラキラ光る石が見える。
これって、もしかして?
いや、子供に着せるドレスに……。
「宝石ですね。でも大丈夫です。宝石の中でも小さなもので、それほど高価なものではありません」
アマリさんの言葉に頬が引きつる。
彼女の言う「それほどの価値」と、私が思う「それほどの価値」は同じかな?
「よしっ。祝いの食事をしよう」
お父さんが箱の蓋を閉めると、食堂の隅に持って行く。
そしてドールさんとフォリーさんを見た。
「料理をお願いします」
二人はそんなお父さんに頷くと、笑いながら料理を運んでくれた。
皆も見なかったことにしたのか、椅子に座ってもう一度お祝いの言葉をかけ、食事を始めた。
チラッと食堂の隅にある箱を見る。
凄く驚いたし、王城については考えたくないけど、ドレスは可愛かったな。
次に会った時に、お礼を言おう。
あっ……次に会うのは王城になるの?
ん~、やっぱりしばらくは会わなくてもいいかもしれない。
「最弱テイマー」を読んで頂きありがとうございます。
本日より新しい章「王都とそれぞれの道」を始めます。
これからもアイビー達をどうぞよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




